カミングアウト

 実は俺、アンドルー・グラスゴーはゲイである。
 ――そう言ったなら、読者は引かれるだろうか。ジェイクにも引かれたしなぁ……。
 女の子ともできるから正確にはバイ(両刀使い)かな。
 俺がバイだからって、ジェイクは嫌いにならないよね。男の味を俺に教えたのはジェイクなんだから。あのディープキスで人生変わったよ。
 俺はジェイクとセックスはしたことないけどさ。いろんな女の子と寝たけど、本命はジェイクなんだって思い知らされた。一度は諦めかけた恋だけど。
 目下の恋人はフリス・モルダーだな。
 フリスは優しいし、昔馴染みだしいろいろなことを知ってるし。
 ジェイクみたいに俺の目の前で女の子と結婚するなんて無体なこともしない。
 俺の本命はジェイクなのに――。
 フリスは俺の心をわかってくれていて、俺のわがままに付き合ってくれた。
 フリスはちょっとおっかないし、『カミソリのフリス』なんて呼ばれているけれど、本当は繊細でとても優しいヤツなんだ。ゲイだけど、関係ない。美人だしね。
 初めて会った時には彼は素肌にコートなんていでたちで現れたからびっくりしたけど、今なら平気だ。
 ジェイクは未だに俺の変化についていけないらしい。何でだろう。
 俺にだって――純情だった時がある。今思えば、なんであんなことわからなかったのだろう、と思うけど。
 俺の初めての相手はオクヨルン。女なのに男の俺より強かった。
 それで味をしめた俺はそのう……たくさんの女をつまみ食いしてきた。
 でも、オクヨルンのような女には二度と会えないだろう。
 でも、ビアトリスの一件は惜しかったかな。今思い出すだに悔しい。
 俺は好きな相手としか寝てはいけないんだと思っていた。カーターの入れ知恵のせいで。カーターだって、人のことは言えないはずなのに。
 だから、ビアトリスに迫られた時に泣いた。
「やめてくれよ、こんなの嫌だよ……」と。
 あの時、据え膳をいただいておけば……やっぱり返す返す悔しい。でも、そんなことしたら旦那のハーディに殺されただろうから、良かったのかもね。
 そのビアトリスも、今では立派な母親だ。あの美しさは健在だけど。
 ビアトリスに想いを寄せていたフロイドも彼女を得た。
 えーと……誰だっけ。
 確かにいたんだよ。フロイドの彼女。不思議な能力を持っていて、多分俺達とも仲が良かった――。
 ああ。ジョゼだ。ようやく思い出した。
 なんか、前よりジョゼの存在感が薄くなっていったような気がする。フロイドもジョゼと結婚するとばっかり思っていたのに、そうでもないらしい。何もかもジェイクと同じにはしないんだね、ジョゼも。
 ジェイクの妻、ジョイはカーターの妹だ。
 なかなか話のわかる子で、俺がジェイクと付き合ってもいいと言った。
 でも、ハリーにはジェラシーを感じたようで……女ってわからないなぁと思ったのは、その話を聞いた時だった。
 ま、俺はジョイとなら三人で寝てもいいなと思うけど――ジェイクは独占欲激しいからなぁ。
 俺はジェイク――ジェームス・ブライアンに一目惚れしたんだと思う。きっと。
 彼があんまりアフリカで一緒に育ったライオンのジェイクに似てるから……。
 サミーにはあんまり感謝することもないけど、ロサンゼルスに送ってくれたことだけは感謝だ。
 だって、ジェイクに会えたから――。
 ジェイクはゲイでもバイでもないし、好みはうるさいけれど――なんせ、美人で処女じゃないと食欲湧かないみたいだもんな。勿体ない。
 本当はジェイクの本命はカーターなんだ。絶対そうだ。
 でも、カーターはジャネットのものだし、ジャネットはカーターのものだから――カーターの妹と一緒になることで満足してるんだ。ジョイはカーターに似て美人だし、処女だったし。
「カーターがいつジェームスに襲われてもびっくりしないわ」
 アンジェラはそう言ってたけど、俺はそうは思わない。ジェイクは人のものは取らないんだ。他人の恋人には興味ないってことだ。
 ジェイクは素直な男性経験のない女性が好みなんだ。少し年嵩だけど、シド・キャロルもそうだった。彼女は元・俺達の先生だった。
 おろおろするばかりのキャロル先生がジェイクとの一晩の体験ですっかり精神的に逞しくなったのには驚いた。女性がすごいのか、ジェイクがすごいのか――。
 ジェイクにはそういう、人を変える力がある。
 シドは変わり過ぎだと思うけど、俺も変わり過ぎだとジェイクに言われた。
 ん。確かに純情な俺が好きだった人には不満かもしれないなぁ。
 でも、セックスなんて誰でもやってるし。相手の数が多過ぎるといって文句を言われる筋合いはないと思うんだけど。
 カーターだって十人斬りなんて異名を取っているし。こればっかりは血なんだと思う。カーターも大学生の時は相当遊んでいたようだし。
 ジェイク――そんなにカーターのことが好きなの?
 俺だったら――ジェイクのものになったらジェイクだけを愛するのに。今までの恋人との関係を清算して。
 ジェイク……俺、ジェイクなら抱けるよ。ジェイクは2m近い大男なんだけどさ。
 ジェイクにだったら抱かれてもいい。
 だから、フリスに男同士の愛の技術を教わっているんだ。彼の恋人のソア・レインも了承済みだ。ゲイって意外と話わかるんだね。それとも彼らが特別なのか。
 ソアも俺の話を聞いてくれる。だから、俺達は仲良しだ。
 ジェイクは俺の話を聞いた後、しばらくの間呆然としていた。それはそうだろう。ジェイクなんて俺のこと何にも知らないし。俺はジェイクのことなら何でも知ってる。カーターには敵わないけれど。
 俺、フリスのお墨付きが出たら、ジェイクに一晩一緒に寝てくれと申し込むつもりだ。――ジェイクは断るかもしれないけれど。
 俺は男だからだとか女だからだとか、そういうの関係なしに、ジェイクが好きなんだ。
 俺がバイだと知ったら、高校生時代の友達はどう思うかなぁ。
 特に、ラウル・ポインターとボギー・ベン。
 今ではクリスマスカードを交換するだけの仲になっちゃったけど、
「俺がゲイになったら君達どうする?」
 と質問したら、最初は戸惑っていたが、それでも友達でいると言ってくれた。とてもいい仲間なんだ。会いたくなってきたな。ラウルにボギー・ベン。
 俺の周りはいい友達でいっぱいだ。
 アンジェラだって、毒舌家だから俺が男もOKになったということを知って、どんなに酷いこと言うかと思ったら、案外平気な顔で、
「あんたのそんな変化にいちいち驚いてたらきりがないわよ。あなたにはあなたの人生があるわ。でも、相手には誠意を尽くすことね」
 と励ましてくれた。ちょっと引っかかるところがなきにしもあらずだけど。
 オクヨルンはどう言うかな。
 ……またジェイクを殺そうとしなきゃいいけど。彼女は俺に夢中だから。
 え? しょってるって? そんなことないだろ?
 俺みたいないい男はモテて当然なんだよ。みんな俺を美形だと言ってくれたし。
 サミーとモナには感謝だな。
 サミーにはあんまり感謝することもないし、仲も良くなかったけど、俺をこの世に生み出してくれたことには……感謝だな。
 今はあまりサミーを思い出すこともなくなったけど、たまに考える日がある。サミーは幸せだったろうか。
 モナは美人だったし俺の言いたいこともわかってくれたけど、若死にしてしまったからなぁ……。
 サミーとモナは仲良かったけど、モナが死んでから、サミーはジェイクと遊ばせなくなった。モナはジェイクと俺のことをわかってくれたのに。
 あ、ここでいうジェイクとは、ライオンのジェイクのことだよ。ちょっとややこしいかな。でも、俺の中ではちっともややこしくないな。ジェイクはジェイクだから。
 人間のジェイクに出会ってから、俺はジェイクと抱き着いて寝るようになったんだっけ。ただ寝るだけ。何もしない。
 他になんかするのかよくわからなかったけど、今ならばとてもよくわかる。――カーターが俺と一緒に寝るのを拒んだ訳も、アンジェラが自転車をぶつけた訳も。
 サミーが大切なことを教えてくれなかったおかげで損したな。彼から逃げていた俺の言う台詞でもないけどね。サミーを父親だと思ったことは一回もなかったし。
 ジェイクが、俺の父親で母親だった。それは今も変わらない。ライオンのジェイクも、人間のジェイクも大好きなんだ。
 ジェイクはみんなのものだけど、ついにジョイにつかまった。グレッグは泣くだろうな。あ、グレッグというのは俺の友達で、彼女もやっぱりゲイなんだ。
 フリスも女に対しては不能だから、それがきっかけでゲイになったんだろうな。
 俺は――バイで良かったよ。ジェイクもカーターも知らない快楽を味わえてさ。
 でも、やっぱり俺の初恋はジェイクなんだ。俺、女だったら良かったな。それとも、ジェイクとジョイと三人で暮らすことも真剣に考えようか。
 オクヨルンがいたらなぁ……。
 やっぱり初めての相手だし、体も良かったし相性はばっちり最高だったし、忘れられないよ。
 でも、俺と再会するまでに何度か男と付き合っていたことがあるらしい。俺はそれでオクヨルンに腹を立てていた。今ならば、なんてくだらないことで悩んでいたんだろうと思う。けれど、当時は思春期だったから。
 ライオンと暮らしていたせいか俺は奥手で思春期が来るのも遅かった。声変わりはしていたので、カーターは気付かなかったようだけど。カーターって本当に医者なのかな。ビアトリスの妊娠も気付かなかったって言うし。心臓外科医だから専門外なのかな。
 カーターは性に対してはスノッブだけど、行為の結果についてはあまり考えていないらしい。ビアトリスがプリンセスを授かった時、フリスは一発でわかったというのに。――ビアトリスが言っていた。
 ジェイクはカーターに対していつもセクハラしていた。ジョイが来てからはなりを潜めたが。ジョイもああ見えてやきもち焼きみたいだからな。カーターの妹だけのことはあるよ。ほんと。
 ジェイクとジョイは、カーターとジャネットと一緒に結婚した。あまり派手でない結婚式だった。
 セレブなのに身内だけしか呼ばない結婚式なんて、と思うけれど、ジェイクはどうやら派手なのは苦手みたいだ。美人は好きなくせに。
 俺は黒人の血を引いているのに青い目の男だから、興味を持ってくれた女の子は数知れずだけど、ジェイクのモテっぷりには負けるな。ジェイクは北欧系の白人だけど。だから彼には皆にハブにされた哀しい過去があるんだ。
 ちなみに俺はいろんなところの混血だから、平和の象徴なんだって。当時は意味がよくわからなかったけど、今だったら嬉しいな。
 ジェイクはグルメな料理も作れる。立派な旦那さんになるだろう。
 俺もフリスに習っていろんな料理を試している。料理って楽しいよな。ジョイにも喜んでもらえたし。
 そうそう。カーターの奇妙なくせ。
 自分は散々遊んでいたくせに、ジェイクとジョイには性的な倫理を押し付けている。まぁ、真面目なところもあるからね、カーターも。やってることは遊び人だけど。
 もしサミーが今でも生きていて、俺がバイになったことを知ったならどう思うだろう。彼が泡吹いて倒れるところを見てみたい気がする。
 ロスに俺を行かせたことを後悔するかな。でも、俺はこの状況にそこそこ満足している。

後書き
アンディとフリスが恋人同士になっていたのは衝撃でした……!
獸木先生! どこまでどんでん返しを用意すれば気が済むんですか!(笑)
2015.1.8

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