朝日のあたる家

 君もきっと気付くであろう。望んでいたものの中に囲まれている自分に――。

「ジェームス!」
「ジェームス!」
「ジェイク!」
 カーター、アンジェラ、アンディ――。
 大好きな、俺の家族達――。
 俺は、ジェームス・ブライアン。今はそう呼ばれている。
 幼少時の名は、マイケル・V・ネガット。だが、この名前で呼ぶ知り合いは少ない。
 ワイエスぐらいか――だが、彼も死んでしまった。
 思えば不憫な男だった。俺は彼も好きだったというのに。
 でも、フロイド・アダムスが現われた。ワイエスに外見は似ているが、性格はちっとも似ていない。彼の方が勝気だ。
 彼も、俺達の仲間になった。
 十代の頃、俺は――いつも一人だった。グリフィンとロゼラは味方だったが。
 グリフィンとロゼラは俺の家族だった。守りきれなくて、すまないと思っている。
 だが、カーター達は、全身全霊をかけて守る。そうでなければ、俺の生まれた意味がない。
 俺が窮地に立った時は、逃げろ、カーター、アンジェラ、アンディ――。
 でなければ、俺が逃げる。囮になる。そうすればもう、おまえ達を標的にする者はいなくなるであろうから。
 特に、カーターとアンディは、俺の親友だ。
 カーターは守ると誓った。そして、俺とアンディは超自然的な繋がりを持っている。
 オ―ガス家――今の俺のいるところ。
 けれど、いつかは離れなければならない。ジョゼが教えてくれた。
 俺は――彼らを置いていかなければならない。
 けれど、アンディは自立したし、カーターにはジャネットがいるし、アンジェラにもノーマンがいる。
 だから、大丈夫だ。
 俺は、自分がいつ死ぬかを知っている。それは悪いことじゃない。
 カーターの妹ジョイ――俺と結婚して、死別する女。
 だが、彼女も強い。だから、あの世で再会することを夢見て、この世に残す。
 娘ビダ―と共に――。
 この世の不幸に泣いている全ての人に言いたい。
 どんなに今不幸であっても、それは必ず終わる。
 そして、きっと気付くであろう。望んでいた者の中にいる自分に。
 その時、泣き顔は笑顔に変わる。
 きっとだ、きっと――。
「ジェイク」
 ああ。アンディの声だ。俺を頼り、俺を信じ切っている声。
「寝てるのかい? ジェイク」
 俺は――何か言いたかったが体が動かない。それほどに俺は疲れていたのだろう。
 何かが掛けられた感触があった。そして、抱き締められた感覚。
 ああ。アンディだ。これが、アンディだ。
 そして、相手は俺から離れた。
「ジェームス」
「寝てるよ――カーター」
「そうか――じゃあ後でにした方がいいな」
「うん。かなり疲れているからね」
 二人が話している。聞こえていても、起きることができない。俺は過去と未来の夢を見ている。
「カーター、アンディ。ご飯よ」
「君が作ったんだね? アンジェラ」
「ええ。今日だけはそっとしておいてあげましょ。ジェームスを」
 どこか離れた場所から聞こえているような気がする――アンジェラの高い声。
「俺はそれでもいいな。アンジェラの料理美味しいから」
「ありがと」
 アンジェラは何でもできる――男の仕事と思われているも女の仕事と思われている仕事も。
 あれはいい政治家になれるであろう。
 政治家? 彼女は政治家になるのか? まぁ、適職だとは思うけれど。
「そうよ。ジェームス」
 これはジョゼだ。ジョゼの声だ。
「わたしはね――あなたと共にいるから」
 ありがとう。俺もおまえと共にいる。
 世界中の人間がおまえを忘れても俺は忘れない。
 ジョゼも確かにこの世に存在していた人物なのだから。
 ジョゼ、おまえは幸せだったか?
 俺の呼びかけに、想像上のジョゼは微笑む。
「当たり前じゃない。あなたに会えたし――フロイドにも会えた」
 フロイドとジョゼは恋人同士だ。
 フロイドは――あんたを幸せにしてくれただろう?
「ええ。時々浮気もするけれどね」
 そういう男だと知ってて恋をしたんだろう?
「まぁね。彼は最高の男よ」
 良かった――あんたが幸せそうで。短い人生でも、幸せそうで。
「あなたこそ、幸せだったでしょ? 人生の幸せは長さじゃ決まらないわ」
 そうだ――本当にそうだ……。
 俺はまた、別の夢を見ていた。
 幼少期のアンディの夢。
 イライの夢。イライはよく言っていた。
 何にもないところから出てきてね、何にもないところへ消えて行くんだ。
 それでは、何にもないところから出て来た存在は、何の為にこの星に生まれて来るんだろう。
 幸せになる為――。
 不幸のないところには幸せもまたないのだから――。
 俺の十代は暗黒だった。
 けれど、幸せがないわけでもなかった。
 グリフィン、ロゼラ――。
 おまえ達の存在が救いになったよ。
 ロゼラが妊娠してると良かったのにな。そしたら、シドに狙われても、命をかけて守ったのに。
 カーターが俺をいつも庇うのと同じように――。
 この存在に、会いたかった、会いたかった、会いたかった――。
 カーター。逃げろと言ったのに――。
 何故逃げようとしないんだ。
 おまえを愛している。だから――俺なんか見捨てて構わないのに。
 アンディ、おまえも愛しているよ――俺がいなくても、がんばれるな。
 カーター、アンディ。おまえらは強いから。アンジェラも。
 今は共に歩もう。この人生を。
 俺は未来にアフリカに行くから――終の住処は多分ここじゃない。
 アフリカはアンディの故郷でもある。
 起きたら――アンディに訊いてみよう。アフリカがどんなところであったかを。
 俺はアンディの心を読むことができるが、改めてアンディの口から聞いてみたい。カーターやアンジェラと共に。
 とりあえず、今は俺は幸せだ――たくさんの不幸の元に基づいたものであったとしても。
 いつか、世界中の人々が幸せになることを願っている。あの世に行ってしまった人達も――。
 マリアや、イライや、ウォルトも――。今は亡き母、イライザも――。
 それぞれに、朝日のあたる家が現われるように。

後書き
『朝日のあたる家』というタイトルは、故栗本薫先生の小説から。
同名の歌があるそうですが(てか、こっちから取ったんだろうな、栗本先生)、あまり明るい歌ではないようです。
"The House of the Rising Sun"(朝日のあたる家)とは、刑務所のことを指すという説が あるそうですが、そうなると皮肉この上ないですね。

2012.8.4


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