リチャード達のクリスマスキャロル 「もうすぐクリスマスだから、何か出し物やりたいなぁ」 ケヴィン・アトゥングルがカウンターに肘をつきながら呟いた。 リチャード・シンプソンは、 「やったらいいじゃないか」 と気のない返事をする。 「うーん、そうだなぁ……」 ケヴィンは顎を撫でる。 「やるって言っても、この面々じゃなぁ……」 ケヴィンがリチャード、リョウ、エレイン、カレン、ギルバートを眺めている。 「あっ、そうだ。いい話がある」 「何ですか? ケヴィンおじさん」 リョウの問いに、ケヴィンは自信満々に答えた。 「クリスマス・キャロル!」 「へぇ〜、クリスマス・キャロル。いいじゃない。子供の頃好きだったわぁ」 エレインが遠い目で昔を懐かしむ。 「でも、配役は?」 カレンが訊いた。 「エベニーザ・スクルージには、ぴったりの役がいるじゃないか」 むふふ、とケヴィンは笑う。 「ああ、そうか」 リョウはリチャードの方を見る。 「わ、私はスクルージのような守銭奴じゃないぞ」 「でも、最後には気前の良い男になるんだぞ。それに、元俳優なんだし。よし、決まり。ディックはスクルージ役な」 ケヴィンはボールペンの先をぺろりと舐めてメモをする。 「ディックと呼ぶなって――で、その他は?」 「うん、そうだな。過去の亡霊は俺な、で、現在の亡霊はギルバート、アンタだ」 「勘弁してくれよ……」 ギルバートが照れ笑いをした。 「未来の亡霊は……これも俺」 ケヴィンはまたメモを書きつける。 「でも、クラチット役はどうするの?」 と、カレン。 「ん〜、龍一郎が最適なんじゃないかと思うんだけど……」 「呼びました?」 柊龍一郎が現われた。アイリーンも。 「龍一郎、アイリーン、久しぶりだなぁ」 ケヴィンが立ち上がって両手を広げた。そしてハグした。 「さ、リチャードも」 リチャードとも抱き合って再会を祝う。 「けれど、クリスマスは何かとお忙しいんじゃ……」 カレンが尋ねる。 「急に十月亭に来たくなってね。教会の方はオズワルド牧師に任せてきた」 「いいのかよ、牧師がそんな適当で……」 リョウが呆れ顔だ。 「うん。――だけど、アイリーンが行きたいと言ったから」 「私ね――リョウと一緒にクリスマスを過ごしたかったの」 「え? そうなの?」 リョウの目が輝いた。彼は重度のマザコンなのだ。 「クラチット一家はこれで決まりだな。リョウがティム坊やで」 「えー、俺、ガキの役?」 リョウは不満そうだ。 「そうねぇ……可愛いティム坊や、というには大き過ぎるわねぇ」 腕を組んだアイリーンも言う。 「スクルージの甥と一人二役だ。これで文句はないだろ?」 「冗談じゃないよ……」 とほほ、とリョウは泣き真似をする。 「いや、悪いことばかりでもないぞ」 リチャードが口を挟む。 「――なして」 「アイリーンと共演できるだろ?」 「あっ、そっかぁ」 リョウは、ぽん、と手を叩く。 「――単純だな」 「何か言った? ケヴィンおじさん」 「いや、別に」 ケヴィンはとぼけて答えた。 「んで、スクルージのかつての恋人はエレイン・リトルトン!」 「私が? ――演劇をするのは学芸会の時以来だわ。上手くやれるかしら」 そう言いながらも、満更でもなさそうだった。 「大丈夫! おまえさんはあのロザリー・リトルトンの娘なんだから!」 「そういう言い方、私嫌いだわ」 エレインの顔が曇った。 「悪かった。お嬢さん」 ケヴィンも素直に謝った。エレインのロザリーに寄せる感情は、なかなか複雑なものがあるのだ。 尤も、エレインもケヴィン相手だから本音で話せるのだが。 「で、マーレイ役だけど……アルバートがいれば適役なんだがな」 「あいつは死んだんだ。出てこれるわけないだろう」 リチャードは渋い顔をして酒を飲む。 「そうだなぁ……こればっかりは……」 「よぉ、龍一郎、ケヴィン……リチャード」 声がした。リチャード達には聞き覚えのある声だ。 ドライアイスのような雲が出てきて――アルバート・オブライエンが姿を現した。 「わ、わ、わ……俺、幽霊とかそういうの苦手なんだ!」 ギルバートの意外な一面であった。 リチャードは眉を顰めた。 「アルバート・オブライエン。貴様、どうして墓の中からよみがえった」 「アンタ達に会いに来たのさ。リチャード」 「私は別段会いたくなかったがな」 「――まぁいいじゃないか。クリスマスなんだし、アルバートがゾンビになる奇跡も起こるだろうよ」 ケヴィンの言葉を聞いてアルバートが嫌な顔をした。 「ゾンビじゃなくて幽霊なんだがな」 「細かいことだろ。マーレイ役はこれで決定だな。けど、カレンはどうする? ティム坊や役をリョウと差し替えてもいいけど」 「いいけど、俺、お袋と一緒に演りたいなぁ」 「私――未来の亡霊役を演じたいわ。いいかしら」 「未来の亡霊役でいいのか?」 「ええ。やってみたいの」 「そっか。過去の亡霊役だけの方が俺も楽だしな。よし、これでキャスティングは決まりだ。脚本も頼んだぜ、カレン」 「もちろん!」 カレンは快く引き受けた。 クリスマス・イブ――。 かつての俳優リチャードと、ロザリー・リトルトンの娘エレインが共演すると聞いて、大勢の客が集まった。ギルバートの集客力も大きかった。 宣伝はもちろん、ケヴィンがした。 十月亭のクリスマス・キャロルは、大盛況のうちに終わった。 後書き いすは(いすかのはし)シリーズのみんなで何かやりたかったのです。 アルバートとかよく知らない人が出てますけど、彼はこのシリーズにおいて重要な役割を果たすことになるのです。 『かつてのスターに花束を』の番外編として読んでくださって構いません。 アリス・シャロンは出て来ませんが、彼女、書いているうちにぽっと浮かんだキャラクターですので、まだしっかり性格が掴めていないのですよね。 アリスがやるなら可愛いティム坊やでしょうか。 それでは! ご拝読ありがとうございました! 楽しいクリスマスを! 2011.12.13 |