おっとどっこい生きている番外編 その2 〜我輩はフクである〜 フクです。 喪服でも最中でもありません(なんなんだ)。 くどいよーですが、フクです。 現在秋野家で飼われています。 ここの家の人達はみんないい人達です。 思えば二ヶ月前、えみりさんに拾われたのが巡り合わせでした。 駿さんや哲郎さんは気が向けば相手にしてくれるし、みどりさんは時々スペシャルご飯を出してくれます。 けれど、僕が一番好きなのは、で、僕のことを一番可愛がってくれるのはリョウさんです。 リョウさんはとろけそうな顔をして僕を見ます。そして膝に乗せてあやしてくれます。 「フクー。フク以上の猫はいねぇよー」 僕がメス猫でなくて残念なのは、ちょうどこんな時です。 メスだったらリョウさんに恋してたかもなぁ……。 でも、人間と猫の恋なんて上手くいきっこないし、僕はオスで良かったのかもしれません。 僕が来てから、リョウさんはギターを弾く回数が減ったとみどりさんは言っています。リョウさんは本当に僕に夢中なのかもしれません。 この家にはネコキチが多いです。 テレビで猫の番組をやっていると手を止めて集まってきます。みどりさんは違うけど。 僕は猫で良かったと思います。 この人達に会えたから――。この人達に会う為に、僕は生まれて来たんだ。 中でもリョウさん。すごい勢いで可愛がってくれます。 僕も感謝の気持ちを表す為に、舌でぺろぺろ、リョウさんの手を舐めます。 そうすると、リョウさんはもっと嬉しそうな顔をして、僕を抱き上げます。 「リョウ、フクが来てから明るくなったわね」 みどりさんは時々そんなような意味のことを言います。 「えへ。なんつーの? オレら相思相愛っていうかー」 相思相愛か。どうせなら可愛いメス猫とそうなりたいものだと思う……思うのだけど……。 この近くにはメス猫がいません。 それに、僕はまだすっかり大人というわけではないし。 純也くんという、えみりさん達の子供もまだ大人ではないみたいです。 僕から『かくり』ということをやっています。 どうしてなのかな。早く純也くんと遊びたいのにな。 にゃーお、にゃーおと襖の近くで鳴くと、 「だめよ、だめだめ。ここには赤ちゃんがいるのだからね」 みどりさんがたしなめます。 でも、純也くん、もうすぐ五ヶ月。僕とそう変わんないんだよね。 人間の子供は五ヶ月でもまだ赤ちゃん。まだまだ赤ちゃん。 僕よりも成長が遅いんだって。 みどりさんでさえ、まだ成人ではないという話。 人間は僕より非常に寿命が長いんだって。この街の長老に聞きました。 ということは……僕の方が先に死ぬ。 僕が死んだら、リョウさん泣くかなぁ。泣くよね、きっと。 でも、その前に想い出たくさん作っておこうと思います。 ピンポーン。 チャイムを聞きつけた僕はだだだっと玄関に向かって走ります。 「フク!」 ドアを開けたのはまきちゃん。本名上原真紀。 この子も僕のことをとても可愛がってくれます。 そして、この子の膝枕はとても柔らかくて気持ちいいのです。狭いのが玉に疵だけど。 「よっ、まきちゃん」 リョウさんが声をかけてくれます。 「いつもフクの面倒見てくれてありがとな」 「ううん。まきの好きでやってることだから」 そして、まきちゃんはリョウさんから目を逸らします。 僕にはわかっています。まきちゃんはリョウさんが好きなのです。 でも、リョウさんはえみりさんを好きで……。 人間の恋模様はなかなか厄介です。 僕達は発情期とかいう時期以外は、そういうものに左右されないようなのですが。 まきちゃんは僕にもいつか言っていました。 「まきね……リョウお兄ちゃんのこと、好きなの」 「にゃおん?」 「それはね……フクに対する好きとも違うの。胸の奥がきゅうって鳴るの」 僕、そんな気持ちはまだ経験したことはないなぁ……。 「でも、リョウお兄ちゃんはまきのこと、子供だって思ってるよね」 そう言って涙をニ粒、ぽろり。 ちっちゃな掌で涙を拭うまきちゃんがいじらしくて僕は、相手がリョウさんでなかったらネコパンチを数回お見舞いしてやるのに! 「にゃあ、にゃあ」 慰めたくて。でも、言葉にならなくて。 「まきを元気づけてくれるの? ありがと」 まきちゃんはわかってくれ、その日は元気に帰って行きました。 まきちゃんも猫だったら良かったのに。 そして、リョウさんも猫だったら良かったのに。 人間は複雑怪奇だから。僕は猫に生まれてきて良かったと思います。 僕が人間だったら、みどりさんとかえみりさんに相談するんじゃないかなぁ……。 でも、こういうのはどうにもならないから。 まきちゃんとリョウさんは年が離れているようです。もっと年月が経ってまきちゃんが大人になれば、リョウさんも振り向くでしょうか。 僕は心の中でそっと泣きました。 まきちゃんが大人になる頃、僕はきっとこの世にいないでしょう。 わかっていても遣る瀬ないのです。 猫の天国ってあるのでしょうか。猫が死んでから辿り着くどこか。 長老は、それはある、と断言しました。 それから短い猫生くよくよするなともアドバイスをもらいました。 そうだよね。長老の言う通りだ。 僕にできることは、まきちゃんやリョウさん達を元気づけることだ。 「フクー。ご飯だぞー」 そういえば、お腹が空きましたね……。 僕はたたたっと走って行きました。 ああ、悩んでいてもやっぱりお腹は減る! 少しダイエットしなくちゃね、とみどりさんに言われたばかりなのに。 お父さんとお母さんがせっかく美猫に生んでくれたんだから、プロポーションの維持は欠かせないよね! ……これ食べてから……。 「おー、いっぱい食べたなー。フク」 駿さんが僕の頭を撫でてくれます。ありがとうございます、と言う代わりに、 「にゃあああん」 と長い声で鳴きます。 「お、フクが喜んでるぞ」 「そうか? リョウはフクの考えていることがわかるんだな」 「まぁね」 リョウさんは得意げに胸を張ります。 いつか――この家を去らなくてはならない日が来るでしょうか。この愉快な人達と離れ離れになる日が来るのでしょうか。 猫の神様、僕は永遠にこの人達と暮らして行きたいのです。どうか願いを叶えてください。 無理だとしても、願うだけならタダですよね☆ 僕にとっては今がとっても幸せだから。 2012.8.10 |