遥と真雪となぎさちゃん

「遥ー。宿題やったかー?」
 俺を呼んだのは鈴村真雪。俺のダチだ。
「やってるわけねーべさ。そんなもん」
 俺――大澤遥は答えた。
「ちぇー。やっぱ聡に訊くしかねーか」
「聡は別学年だろ?」
「――冗談だよ」
 鈴村真雪とは何となくウマが合った。それに――別の世界のあいつら(というのは、真雪と聡のことだけど)に俺は会ったことがある。その時のあいつらはまだ小学生だった。
 この世界の真雪達は、俺のことを知らなかったわけだけど――。だから、対面した時、「初めまして」と挨拶した。
 俺はね、諸君。何と平行世界を旅することができるのだ。時間旅行も勿論できる。
 しばらくはここで腰を落ち着けようと思うんだけど。
 何だか見張られているような気がするのは気のせいかな……。
 ま、いいや。なんかタイムパトロールってヤツもある世の中だし。――これは風見のじいさんが教えてくれた。
 聡に宿題訊いても、聡は一学年下だからなぁ……つまりはムダってことだ。
 俺だって宿題やってねぇよ。
 真雪は本当は優秀な男だ。だからさぁ、宿題ぐらいしろって話。弟の聡もなかなか頭がいいが。
 真雪に聡か――。
 俺の秘密基地、屋上への階段で俺は回想に浸っていた。
 こことは別の世界で真雪が溺れそうになった時、助けたんだよな、俺。最後はなぎさに持ってかれちまったけど。
 この世界には、白鳥なぎさもいる。真雪と同学年だけど。あの世界――俺が真雪や聡と初めて会った世界、そこではなぎさは聡と同じ年だった。まぁ、平行世界なら何でもありやね。
「みぃつけた」
 なぎさがふふっと笑いながら屈む。
「あー、なぎさ。ちょうどよかった。宿題教えてくんね?」
「だーめ。そういうのは自力でやるもんよ」
「だめかー」
 俺らは高校生だ。三枝高校の。一応公立。俺だって馬鹿じゃないもんね。
 それに――ちょっと不思議な力がある。俺のじいさん譲りだって、風見さんが言ってたけど。
 じいさんからもらった形見の品。壊れた懐中時計。そして、風見さんの店の不思議な鏡。
 風見さんによると、どうやら俺は選ばれたらしい。真雪も選ばれてるらしいけどな。
 真雪は女みたいな顔してんので、俺と一緒にいると腐女子どもにはきゃーきゃー言われる。まぁ、真雪は怒るけど、そんなに嫌でもないんだ。俺は。
 俺って変かねぇ……。
「私を手伝ってくれたら教えてあげる」
「――そりゃどうも」
 俺はなぎさのコピー用紙を運んだ。
「ねぇ、大澤君」
「んー?」
「君って、他のクラスメートとはちょっと違うよねー」
 ばれた?
「どこが?」
「ちょっと達観しているようなとこ」
 そっかあ。なぎさにはそう見えるか。俺はできるだけ普通に振る舞ってんだけどな。
「あ、気にしちゃったんならごめん。私、大澤君のそういうとこ好きだよ」
 好きかー……。
 真雪も聡もなぎさが好きなんだよなぁ……。特に真雪。
 真雪、ごめん!
「今日、勉強会やるから鈴村君も誘っといて」
「自分で言えばいいだろ」
「でもさー、何となくこの頃誘いづらくってさ」
「真雪が?」
「うん。――私、鈴村君のこと好きみたい」
「えーっ!」
「何が『えーっ!』よ。花の乙女が恋しちゃ悪い?」
「悪くないですぅ。全然」
 なぁんだ。でも、そっか――よかったな。真雪。
 俺、おまえ達の恋を全力で応援してやるからな。聡には悪いけど。
「俺、なぎさん家行く前に寄るところがあるんだけど」
「何? 『Long time』? アンタもあそこ好きよねぇ」
『Long time』は、風見のじいさんが経営しているアンティークショップだ。聡もあそこが好きらしい。
 一見普通のガラクタショップ。でも平行世界と繋がってる店。真雪も風見のじいさんには世話になっているらしい。
「ありがと。そこに置いといて」
「へーい」
 俺は用紙を置く。なぎさがコピーをし始めた。
「鞄に国語のノートあるから写していいわよ」
「おおーう! 白鳥なぎさ大明神様!」
「何変なこと言ってんのよ。――私達友達なんだから当たり前でしょ? さっき言ったのは正論だけど、本心じゃないから」
「あはは、そうか。いやぁ、友達がいがあるよ、なぎさって」
「おだててもムダですからねー」
 なぎさが舌を出す。早く真雪のところに行かなきゃ。昼休みが終わってしまう。
「じゃーなー。なぎさー」
 俺が勢いよく手を振る。なぎさも「じゃーねー」と返す。
 真雪どこだ? お、いたいた。
「あのー、鈴村君、ちょっといいかな」
 可愛い女の子だ。これはもしかすっともしかして。
 俺の口元がにやっと笑った。
 人気のない廊下で、女の子は言った。
「あたし、鈴村君のこと好き!」
 ほーら、やっぱり。んで、真雪がどう答えるかというとそいつは決まっていて――。
「悪い。俺、好きなヤツがいるんだ」
「う……うん。わかってた。友達に聞いていたから。でも、告白してけじめつけたかったの」
 そうかそうか。
 女の子がいなくなると、俺は真雪の前に現れてヤツの肩をどやした。
「やーい、色男」
「そんなんじゃねぇ……」
「好きなヤツって誰だ? なぎさだろ? なぁ、なぎさだろ?」
 真雪はばつが悪そうに俯いた。
「そうだよ。知ってるくせに」
「まぁ、がんばれよ」
 そう言って俺は真雪の背中を思いっきり叩いた。
「いてーだろ。てめー……」
「真雪。なぎさが国語のノート写していいって」
「ほんとか?」
 真雪の顔がぱあっと明るくなった。
「さすがなぎさだぜ!」
「俺にも写させろよ。後十分しかねぇかんな」
「わぁってるって」
 何となく、どこかでなぎさが笑ってるような気がした。
 何でだろう。なぎさは俺達に近いところにいるような気がする。
 そりゃ、小学生のなぎさを助けたことはあるけど、それとこれとは別の世界の話だもんなぁ……。ここではなぎさは聡より一歳年上だし。
 なぎさも『選ばれた者』なのかなぁ……。真雪と違ってなぎさはそういうのには関心薄そうだけど。
 後で風見のじいさんに訊いてみよう。俺は早く来いよー、と言う真雪の後を追った。

後書き
なぎさちゃんは鈴村兄弟にモテモテ。
でも、なぎさちゃんは真雪が好きなようで……。
命短し恋せよ乙女!(笑)
2019.11.04


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