スタ花番外編 あたしはアイドル
あたし、フェリア・ライラ。こう見えてもアイドルなの。オレンジ色の巻き毛が自慢よ。
子供の頃、リチャードさんを通して、アビントンさんというプロデューサーと知り合い、歌手デビュー。最近は何と映画にもお呼びがかかっているのよ。
リチャード・シンプソンさん。私の足長おじさん。
けれど、本当の足長おじさんと違うことは、決して結ばれないこと。
でも、いいんだ。……あたしはずっと独身で通すんだから。
きっと、エレインさんもリチャードさんが好きで、だから独身なんだと思う。
拙い文章でごめんね。書くのは苦手なの。
でも、アビントンさんに、
『何か書け』
と言われたから書いてるだけ。
今回の話はね、連載なの。
フェリア・ライラのエッセイとして、『プレイボーイ』だか『ペントハウス』だか――つまりあたしがお世話になってる雑誌――に載せるんだって。
いいんだけどねぇ……。
アビントンさんの商魂の逞しさを感じてしまうわ。まぁ、確かに男性の支持は多いけど。
ほら。あたしって美人だから。いや、美人というより可愛いって言われたことがあるわ。
確かにオレンジ色の髪に合わせたオレンジ色の瞳も自慢だけど。
リチャードさんにはすごく甘やかしてもらっているのよ。子供の時からね。
うらやましいでしょ。うふふ。
リチャードさんは誰にもあげないんだー。あたしのものなんだー。
……ううん。言って、いや、書いてみただけ。リチャードさんがあたしのものにならないのはわかりきっているんだから。
リチャードさんは優しい。だから大勢の人が慕い寄ってくるわ。男も女もね。
あたしはそれが当たり前だと思ってた。
……いつからだろう。あたしがそれらの人達に嫉妬を感じ始めたのは。
きっと思春期の始め頃からね。
あたしは今、十八になったばかりよ。――リチャードさんと結婚もできるわね。
なぁんて。
あたしは独身を貫くって書いたばかりよ。安心してね。殿方。
あたしは年を取って醜くなるまであなたの天使でいます。
あ、いつだったか、
『君は僕にとって、いくつになっても天使のままです』
なぁんてファンレターが来たことあったっけ。うふっ。ありがとう。名前は公開しないけど、あなた、大好きよ。ちゅっ。
でも、天使というより妖精かな。うん。フェアリーがいいわ。せっかくフェリアという名前なんだし。
可愛い名前でしょ? うん。これは勿論芸名。本名は……ないの。あたしは孤児院で育ったから。
でも、あたしはいろんな人にお世話になっているわ。それだけは……感謝してる。
リチャードさんがいたおかげよ。
リチャードさんは今年六十五だったか六だったか……とにかく六十代であることは間違いないわ。
綺麗な金髪も今ではすっかり白くなっちゃって。でも、とてもハンサムよ。……と、と。もう映画を観ている人は知ってるか。
『黄金コンビ』って最高! しびれちゃう!
ラブシーンしても、相手が『黄金コンビ』の片割れ、ロザリー・リトルトンなら許しちゃう!
リチャードさんとロザリー、いつの頃からか『黄金コンビ』と呼ばれるようになった。
けれども、ロザリーの悲惨な末路。いいことばかりではないのね。ほろり。
あたしはそうはならないわ。
成功を極め、のし上がってやるの。リチャードさんには、
「つまらないからやめときなさい」
と言われてるんだけどね。
そういうのは、一度頂点を極めた者が言うセリフよね。あたしもいつか言ってみたいわ。
若い娘に、
「あたしも昔はねぇ……」
とかさ。言ってみたいじゃない。
エレインさんは既にそういうタイプだけど。つか、彼女、ロザリーの娘だから、いろいろあったんだろうな。
有名人の娘も大変なのよ、ってカンジ?
でも、あたしに言わせれば、
「なぁに言ってやがる。この甘ちゃんが!」
ってカンジよねぇ。
あたしはさ、ほら、どん底も体験したからさ、有名人二世のたわごとなんて何とも思わないってカンジ?
あたしをバカにするならさ、いっぺん街角立ってみろよぉ。男に暴力振るわれりゃ、人生観変わるわよ?
ま、あたしはそんな経験の少ないうちにリチャードさんに拾われたからさ。リチャードさんはあたしの恩人なの。
あたしは孤児院から逃げ出したのよ。今思えば、逃げて良かったと思うわ。思えばひどいとこだった。
あはは。あの頃のあたしの賢明な判断に乾杯!
え? あたしがこんなに文章打てるとはおかしい?
ゴーストライターが書いてるんじゃないかって?
そんな時もあったけど、今は猛勉強して何とか人前に出せる英語ぐらいは書けるようになったわ。
リチャードさんも、フェリアは頭がいいねって言ってくれたんだもの。嬉しいからがんばっちゃった☆
それに、努力すれば必ず身になるもんはあるのよね。出版社の人も、
「これぐらい書けるんだったら、上出来、上出来。またいつか仕事頼むね」
と保証してくれたもん。リップサービスかもしれないけど。
今は楽しくて楽しくて仕方がない。
だって、まだ若いんだもの。仕事も恋も楽しまにゃ。
結婚はする気ないけど、恋はしたいんだよねぇ……不倫の恋でもさ。
ううん。あたし、すっごい恋してる! リチャードさんに。
リチャードさん、あたしは好き。リチャードさんもあたしのこと好きなんだと思うけど、それはきっと恋じゃない。恋じゃないのが悲しい。
リチャードさんは年の順でほどなく他界するだろう。あたしはその時看取ってあげたい。
ロザリーの二の舞はごめんだろうからね、彼も。
リチャードさん、大好き。
好きだけど、あたしじゃ相手にならない。
だから、あたしを慰めてくれる人が必要。あたしの恋人になりたいって人はいっぱいいるけど、リチャードさんには敵わない。
いつか、リチャードさんより大人で、優しくしてくれる人が現われるといいなぁ……。
あたし、ファザコンなの。お父さんがいた記憶はないけれど。リチャードさんがあたしのお父さん。
辛い時もあったけど、あたし、生きててよかった。リチャードさんに会えたしね。それから、エレインさんやアビントンさんにも。
エイヴリーさんからは、他の映画にも出ないかって誘われてる。もう最初の方でちょこっと映画からもお呼びがかかってるって書いたけど。
今回の映画の監督はアゼルバート・アビントンさん。脚本は……えっと、カレン。カレン・ボールドウィンて女の人なの。
女の脚本家なんてすごいなぁ、と思ったんだけど。まだ脚本家としてはこれからの人よ(彼女が自分でそう言ったの)。でも、彼女に興味を持って近づいたのは私。エイヴリーさんを通さずに悪いな、とは思ったけど。まぁいいや。彼女、エイヴリーさんの姪だもん。
カレンさんは映画俳優のギルバート・マクベインを手玉に取ったりして、ものすごいんだって。彼女は否定してたけど。
すっごいよねぇ……今のあたしには到底真似できない。
一度そんな悪女の役やってみたいなぁ。あ、カレンさんには内緒よ。
え? 内緒よっつったって本に載ればわかるじゃないかって?
ジョークよジョーク。言葉のあやってヤツよ。
あたし、映画の中では何とギルバートさんと親子なのよ! 映画ってすごいと思わない?!
ギルバートさん……リチャードさんには負けるけどなかなかいい男よ。リチャードさん達やお友達の方々と一緒に一度食事したけど。打ち合わせと称して。
カレンさんも来てたわよ。うふっ。可愛らしい人だったわ。
なかなかキュートで頭も良くて……生まれ変わるならあんな人になりたいって思わせる何かがあって。
うん。ギルバートさん、なかなかお目が高いかもしれない。
リチャードさんもカレンさんが好きみたい。それは恋愛に似たものかもしれない。
うらやましいな。
だって、リチャードさんに恋されているんだよ、きっと。カレン・ボールドウィン!
才能もあって美人で。あたしもそうだけどさ。だから、才媛なら才媛なりの苦労があるのはわかっているつもりよ。
あたしはアイドル。でもこのままじゃ終わらない。
きっと明るい未来が待っている。今まで苦労してきたんだもの。楽しい苦労でもあったけど。
ああ。スペースがなくなってしまった。
とりあえず、天国のお父さんとお母さん。あたしの面倒を見てくれたリチャードさん。そして、このエッセイを読んでくれたあなたに。――愛を込めて。フェリア・ライラ。
後書き
『かつてのスターに花束を』番外編です。一昨年書いたものだから、ちょっと矛盾というか、本編と違うところがあるかも。二、三ヶ所直しました。
フェリア・ライラは割と好きなキャラです。謎も多いけどね。
これからも夜の天使としてがんばれ、フェリア! 勿論、映画の方もね。それから、発表するのが遅くなってごめんね。
どうもカレンに憧れているみたいです。
リチャードさんに叶わぬ恋をしているところも好きです。これからどうなるかわかりませんが、皆さんフェリアを宜しくね!
2015.4.20
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