テレフォンショッキング

 オレは三橋ん家に遊びに来ていた。――と言っても、何も深い関係とかはねぇけどな。
 田島が旅行で不在なんで、寂しそうだった三橋のところに、
「オレが行ってやろうか?」
 と、進み出てやった。
 あくまでやましいことはない。ほんとだぞ。
 三橋は変顔で悩んでいた。でも、そんなに嫌ではなかったはずだ――と思いたい。
「ゲーム持ってきてやっからさ。一緒にやろうぜ」
 そんなオレの言葉に、
「う……うん」
 と三橋は頷いた。可愛いな。
 ――んで、三橋ん家。
 ゲームと言ったら、やっぱり野球ゲームだよな。
 三橋も興奮している。
 ――と、電話が鳴った。
「三橋、電話だぞ」
「う、うん」
 返事しながらも、三橋はゲームに夢中だ。こいつ、聞いてないな……。
 三橋の両親は今留守だ。
「三橋! 出ろ!」
「わ、わかった……阿部君」
 三橋はオレに答えて、名残惜しそうにちらっとテレビ画面を見てから電話に出た。
「もしもし――あ、藤倉さん?」
 オレの耳がぴくんと動いた。藤倉?
 もしかして藤倉理奈か?
「貸せ」
 オレは三橋から受話器を奪い取った。
「よぉ、藤倉」
「その声は阿部! 何だって三橋の家にいるんだよ!」
「オレ、三橋の家に遊びに来てるんだもんねー」
「ええー、いいなー」
(へへん。羨ましいだろう)
 オレは鼻高々だった。
 藤倉理奈はオレの恋敵だ。
 日本にいた時は長い髪をポニーテールにしたバスケ少女だったが、アメリカに渡って、今どうしているかわからない。
 案外花井みたいなスキンヘッドにしてたりしてな。あいつ、変わったヤツだったから。
 エキセントリックっつーか……女のくせに俺言葉だし。
「藤倉ー。オマエ相変わらず一人称『俺』なんだなー。嫁の貰い手なくなるぞ」
「うっせいやい! 三橋を婿に取るからいいんだ!」
「婿養子派か。だけど、三橋はオレのだかんな」
「オマエ、まだ男同士で結婚する気あんのか? 三橋のこと本気か?」
「あったりまえだろー」
 オレは、三橋が聞いてないかどうか様子を見る。
 三橋はゲームに夢中だ。良かった。
「まぁ、でも、三橋も阿部も、元気そうで良かったな」
「おう……」
 基本的にはいいヤツなんだよな。藤倉って。
 男だったら親友になっていたかもしれない。
 あ、だからって、三橋はやんねーぞ!
「あ、そうだ。オマエ、髪剃ったか?」
 疑問に思ったことを訊いてみる。
「うんにゃ。何で?」
 やっぱりオレの予想は外れたか……。
「オマエだったらそのぐらいしそうだからな」
「阿部……俺を何だと思ってるんだ……」
「何だも何も……オレ達ライバルだろ」
「友達じゃなかったっけ?」
「誰がいつ、オマエと友達になった」
「阿部って冷てぇな。俺は友達のつもりでいたけど」
「うん、友達になってやるから、三橋は諦めろ」
「嫌だ。……おまえ、友達いねぇだろ」
「んなことねぇよ」
 これは親父にも言われたことだった。『隆也、おまえ友達いないだろ』って。
 そんなにオレはひどいヤツか? そんなにオレは性格悪いか?
 まぁ、中坊の頃の知り合いなんて、しのーかしかいないがな。
 そうそう。しのーか。本名、篠岡千代。藤倉と違ってとっても優しいヤツだ。野球部のマネージャーでな。
 あいつがマネージャーやってるのはいまいち謎だ。ソフトボールでもイイ線行ってたのに。
 女ってわからねぇな。しのーかのことも、藤倉も。
 藤倉って、三橋の唯一のガールフレンドかもしれねぇ。しのーかともいい感じだったけど。
 オレは……諦めた方がいいのか?
 そう悪い方じゃないって、自負はしてるけど、要するに、オレは男だし。
 でも、オレは三橋に対しては本気だ。
 あのコントロール。あの努力。そして、あの茶がかったふわふわの髪と瞳。あいつを手に入れる為だったら、何だってする。
「もしもし、もしもーし、阿部?」
 はっ、やべ。電話の途中だった。
「あのー……機嫌悪くしたらすまなかった!」
 あの藤倉が謝ってる。
 留学生活は思いの他、藤倉にいい影響を与えていたらしい。
「すまん。ぼーっとしてた」
「大丈夫か?」
「おう……」
 藤倉、前よりいいヤツになった。オレが藤倉のことよく見てなかっただけかもしれないが。
「あのな、藤倉。さっきはあんなこと言ったけど、オレだって、オマエのこと、大切なダチだと思ってるよ」
「そうだろそうだろ」
 藤倉は得意そうに威張る。
「ところでよ……三橋に話があるんじゃなかったのか?」
「阿部……」
 藤倉の声が掠れる。
「オマエ……本当にずいぶん親切になったな。三橋と俺との仲を取り持とうとしてくれるなんて」
「違う!」
 オレの声に、三橋は驚いたようだった。動揺して変な顔になっている三橋にオレは、「わり」と、小声で謝った。聞こえたかどうかはわからないが。
「まぁ、冗談はともかく」
 冗談かよ。
「今、ちょっと感動しちまったぜ」
 ああ、それで声が掠れたのか。
「三橋ならゲームだぜ――呼ぶか?」
「いや、三橋とはいくらでも話ができるから。それより阿部。オマエの連絡先、教えてくんね」
「いいぜ」
 オレは電話と携帯の番号を教えてやった。
 こんな仲だと言って、誤解しないで欲しい。オレと藤倉の関係は、男友達の間柄に近い。
 あくまで、本命は三橋だかんな!

後書き
今回は、ドリーム小説ではないのね。
藤倉理奈、お気に入りのキャラであります。
2012.5.3


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