世界で一番気になるアイツ2

 あたしは――アイツが嫌いだった。
 浜田良郎。みんなからはハマちゃん、ハマちゃん、と慕われているようだけど。
 みんなアイツの本性知らなさ過ぎ!
 三橋くん(ちょっと可愛いけど)すら、浜田には懐いているようだもん。
 あたしの後輩も、アイツには好印象持っているようだけど。
 ゆうりんも、あたしが浜田好きなんだって言ってたし。
 冗談じゃないわ!
 だから、この胸のときめきも――気のせいなのよ。
 だって、あたしは今から――応援部に殴り込みに行くんだもの!
「あれー。越智」
 他の応援部員はでれっとした。あたしはこの類の男どもの反応には慣れっこだった。
「まさか越智が来てくれるとはなぁ」
「来ちゃいけない?」
「いけないってことはないけど――なんか越智ってこんなとこ来そうにないんだもん」
「浜田は?」
 あたしは無視して簡単に尋ねた。
「今いねぇけど――何だ、そういうことか」
「そういうことって?」
「越智――おまえ、浜田に告白しに来たんだろ?」
 そう言って、二人の部員は口笛を吹いた。
「うっさいわね!」
 あたしは叫ぶ。叫んで男どもの頭を殴った。
「ひっでぇな、越智」
「凶暴なところは変わってねぇよ」
「アンタらが余計なこと言うからでしょ」
 あたしはツン、とそっぽを向いた。
「やぁ、みんな、遅れて――って越智?」
 浜田がやってきた。――戦闘用意。
「って、あれ? おまえら、そのたんこぶは――むぐっ!」
 越智は浜田の鳩尾に綺麗に正拳突きを食らわせた。
「越智……」
 ずるり……と浜田がへたり込んだ。
「後輩達を返してくれる?」
「ふぇ? 後輩達?」
「友井紋乃と小川美亜よ!」
「あー、あのかわいこちゃん達」
 浜田がでれっとしたので、今度はハイヒールのつま先で蹴ってやった。
「おい……越智……」
 さすがに行き過ぎだと思ったのか、圭介と力があたしを引きずって行こうとする。
「待ってよ―! あたしはもう一度アイツに蹴り入れるんだからー……」
 あたしはじたばたと足を動かす。
「おい! ケイ! リキ!」
「んだよ、浜田……」
「越智はオレに話があるんだろ? だったらオレにも話させてくれよ」
 浜田は必死の形相だった。
 そりゃあねぇ――元クラスメートが何の断りもなく、急に暴力振るったら、何があったのか、と思われるのも仕方ないかもねぇ。
 でも、あたしは浜田が気に入らない。これって立派な理由にならない?
 三橋君のおかげで、少しは見直すところも出てきたけど。
 わかった、と言って、圭介と力があたしから手を離す。おかげで尻もちをついてしまった。
「アンタらねー! あたしを何だと思ってるのよ! こんな華奢な乙女に乱暴なんかして」
「いや、華奢な乙女は俺達に先制攻撃なんかしねぇだろ……」
 圭介の言葉に、力はうんうんと頷く。
「アンタら、わたしをヤるつもりだったのね! そうでしょ! そうなんでしょ!」
「ヤるって……越智~」
「おまえ、オレらがそんなに即物的に見えるか?」
「見える!」
 あたしは即座に言ってやった。
「おまえ、外見いいけど、口は悪いのな」
「ほっといてよ」
「おい。ケイ、リキ」
「おう。そうだな。浜田。いきなり蹴られないように注意しろよ!」
「俺達は避難するからな!」
 圭介と力がその場から離れる。何だか、浜田に『あとはよろしく』とでも言いたそうに。
「ごめんな、何か話あったんだろ?」
 だから、何で……何でアンタが謝んのよ……。
 ドキドキする胸を押さえつつ、あたしは浜田の台詞を待った。
 浜田が赤くなった。
「あ、まぁ、上がれよ」
 浜田が部室に案内しようとする。
「イヤよ。ヘンなことされると困るから……」
「越智、あのなぁ、オレのこと誤解してるんじゃ――」
「誤解するようなことしてんじゃない!」
 あたしは、ばっと顔を上げた。涙がこぼれた。
 は、恥ずかしい……。
「越智……何で泣いてんの?」
 あーもう! 何て鈍感なの?! こいつは!
「友井と小川を返してもらいに来たのよ! あの子達はダンス部の部員なんですからね!」
「いやぁ、ダンス部の活動も真面目にやれよって言ってるんだけど……」
「散漫になっていると言いたいのよ!」
「さんま……?」
「アンタって……バカよね」
「うん。自覚はしてる」
 そう言って、また浜田は笑った。締まりのない顔。でも、鼓動が速くなるのはどうして――!
「でも、最終的には、あの二人が決めることじゃね?」
 あまりにも正論を言われて、あたしは言葉を失った。
 そうだけど……でも……。
 あたしは、あの子達が羨ましかったのかもしれない。
 チアガールをしていた友井と小川、綺麗だった。きらきらしていた。
 あたしもそんな風に、きらきらしてみたいなぁ、なんて。
 それから――浜田もいるし。
 浜田には、好きな人とかいるんだろうか。
「ねぇ、アンタ、好きな娘っている?」
「はぁ? 何だよ、いきなり。いねぇけど。あ、でも、越智とかは綺麗だと思う」
「どの辺が――?」
 あたしも、あの子達のようにきらきらしていたかしら――?
「あ、脚とか――」
 あたしはぶちっと何かが切れる音を聞いて、気がつけば浜田の頬に一発キックを食らわせていた。
 あたしが聞きたいのはそういうことじゃないの! 全く腹立つわ。
 やっぱりこいつは大嫌い!
 あたしは怒りの足音を響かせながら気絶している浜田を残して去って行った。

後書き
ハマオチ小説第二弾!
ハマオチ大好き!
高校生ってきらきらしてるよね! ひぐち先生も言ってたけど。
とあるタイバニサイト様の『役者でもきらきらしてあげるわよ』という台詞も好きだなぁ。
大丈夫! 越智様も充分きらきらしてます!
2012.1.16


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