ボーイ・ミーツ・ボーイ ~三橋編~ 「投手としてでなくても、三橋、オレはオマエが好きだよ」 それが、阿部君と、初めて心がつながった瞬間だった。 好き……。 オレ達は男同士だから、人間愛ってことだな。 でも、好きって言われたの、家族以外に言われたの初めて……。ルリは論外だし。 「お、オレもっ、阿部君がっ、好きだっ!」 オレにしては、スムーズに言えたと思う。 「あっそ……」 あ、阿部君引いてる……。 せっかく好きになってくれたのに……。 阿部君に嫌われたら、オレはダメピに戻っちゃうよ……。 「行くぞ! 三橋!」 「う……うん!」 三橋って言うのは、オレの名前。あ、ちゃんと下の名前もあるんだよ。 三橋廉。ポジションは多分投手。 成り行きで野球部に入っちゃったんだけど、阿部君に会えて良かった。 だって、阿部君、リードすごいんだもん。 阿部君に嫌われたら怖い。 嫌われて、無視されるのが怖い。 阿部君、好き……。 だって、阿部君は、かっこいい。 男らしいし、強いし……。 阿部君の言うことを聞いていれば、オレはほんとのエースになれる。 なれる……よね。 甲子園とかはまだ無理かもだけど、この試合だけは。 だって、三星との対戦なんだもん。 阿部君に呆れられたくない。 そして―― 試合はオレ達が勝った。 勝っちゃったんだ。三星に……。一年生だけの試合でも。 叶君は、やっぱりすごかった。 みんな……ありがとう。 つぐない、してくれるって言ってくれただけでも、嬉しかったよ。 西浦の野球部に入ったんだから。 オレは、西浦ナインの一人だから。 それに……阿部君がいるから。 久々に、友達、できそうなんだよ。 叶君も友達だけど。 それに、オレが三星に戻ったら、三星がまた弱くなっちゃう。 オレも、ダメピに逆戻りだ。 だから、振り返らない。 オレは、西浦の仲間たちと、野球をする。 三星と、対戦できて、よかったよ。 この試合で、オレは、変わった。 「良かったぞ。三橋」 「ほんと? 阿部君」 「ああ」 阿部君も、カントクも、田島、君も、変わってるけど、すごい人達だ。 もちろん、みんな、すごいんだけど。 今日から、オレはこのメンバーで野球をする。 でも今は―― 疲れていてしようがなかった。 オレはぐっすり眠っていたらしい。 阿部君が夢に出てきて、 「三橋。オレは三年間、オマエに尽くす」 と言ってくれた……。 他のことは忘れたけど、そのことだけは覚えている。 阿部君は、すごい、のに、何で、オレのことを構うんだろう。 尽くすって、キャッチャーとしてだよね。それにしても、何て都合の良いユメ……。 オレは、阿部君にふさわしいキャッチャーにならなくちゃ。 ダメピは卒業だ。 いじめられて泣いている三橋廉はもういない。 いるのは、西浦のエースだ。 たくさん、投げられるといいな。 みんな、いい人だし。 西浦に来て、良かったな。 野球部に見学に行って、良かったな。 オレ、がんばるよ。 今までより、もっともっと。 まずは体幹を鍛えなきゃ。 速い球、投げたいから。 阿部君は、あまりいい顔しなかったけど、でも、やるんだ。 そして、コントロールの良さも残す。 難しいけど、やるんだ。 将来、阿部君と、こ……甲子園に行く為に。 ううん。高望みしちゃ、だめだ。実力もないのに。 阿部君はすごいから、甲子園に行けるかもしれないけど。 ああ、でも、野球は、一人や二人でやるわけじゃないんだ。 チーム全員で、やるんだ。 田島君や花井君……。 みんな、みんなでやるんだ。 オレは、マウンド譲りたくない。 だから、負けないように、がんばる。 エースの座、取られないように。 お母さんにも、西浦の野球部のこと、話した。 お母さんは、笑っていた。 「廉……楽しそうね。良かったわぁ」 お母さんは、いつも明るい。 だから、言えなかった。三星でのこと。 でも、西浦のことなら言える。いくらでも。 お母さん、嬉しそう。 「でね、阿部君が、オレのこと、好き、だって」 「廉……いい友達、持ったわね」 お母さんが泣いたように見えたのは、気のせい……。 気のせい、だよね。 オレは、晩御飯が終わるまで、久々にお母さんと話をした。 後書き 三橋は純粋でいいなぁ(笑)。 2011.8.6 |