阿部君と篠岡さん

 阿部君と、比べると。
 篠岡さんて、小さいなぁ……。
 俺のバッテリーの相手、阿部君と、女子マネージャーの篠岡さん。
 なんだか、恋人同士に、見えるよ……。
「お、どうした? 三橋」
 阿部君がきいてくる。
「何か、顔色悪いぞ」
 阿部君の台詞に、
「な……何でも、ないよっ!」
 と、つい首を横に振ってしまう。
 普通じゃ、ないよね。
 篠岡さんが、ライバル、なんて……。
 それに、オレ、篠岡さん、好きだ。
 阿部君がいなければ、オレ、絶対、好きになってた。
 性格いいし、可愛いし、みんなの世話を焼くし。
 オレのおにぎり、作って、くれたんだっけ。
 でも、オレは阿部君と出会ってしまった。
 阿部君は、コワい。
 いや、阿部君に嫌われるのが、コワい。
 篠岡さんは、阿部君のこと、好きなのかな。
 阿部君は、篠岡さんのこと、好きなのかな。
 どっちにしても、イヤな結論に達しそうだよ。
「三橋。元気ねぇぞっ!」
 阿部君が大声で言う。
 阿部君のそういうとこ、嫌いじゃない。嫌いじゃないけど……。
 時々うるさい。
 でも、オレは阿部君がコワいから、阿部君に嫌われたくないから、心の中にふたをしてしまう。
 そんなオレは、卑怯者だ。
 きっと、阿部君を篠岡さんに取られてしまう。
 そんなのは、イヤだ。
 いつまでも、今のままの関係が、続けばいいと、思う。
 阿部君が、ワンマンなのには、目をつぶる。
 オレも少し、阿部君に意見、言えるようになったから。
 阿部君の弟、シュンくんも、かわいかったから。
 でも、変だよね。男同士、なんて。
 なんで、オレ、阿部君好きになったんだろう……。
 阿部君が、好きって言ったから?
 ううん。その前。
 阿部君が、オレのことを、認めて、くれたから。
 阿部君、大好きだよ……。
「三橋、手貸せ」
 う、え、何……?
 阿部君が、手を握ってくれる。
 オレの心臓、ドクドク言ってる。
 阿部君の手、あったかい……。
 何か、気持ちいい。
「よし、おまえの手、あったかくなったぞ」
 あ……。
 その為に、阿部君、オレの手を……。
「阿部くーん。三橋くーん」
 篠岡さんの声だ。オレは、反射的に、ぱっと手を離した。
「あ、ごめん。邪魔だった」
 邪魔だよ。
 そう言えたら、いいんだろうな。阿部君みたく。
 阿部君は、口が悪い。でも、本当は、すごく、優しいんだ。
 篠岡さんは……知ってるよね。
 篠岡さんも……優しい。
 阿部君と篠岡さんがつきあうとか、そういうことになったら、オレ、祝福できるかな。
 きっと、ものすごーく、泣いてしまいそうだ。
「あっ! 三橋ッ!」
 オレは……逃げた。
 逃げて……体育館裏に隠れた。
 前にもこんなこと、あったような気がする。
 あ、そうだ。三星学園と、試合、した時だ。
 あの時は、すぐ畠君に見つかってしまったんだっけ。
 修ちゃんに会うのが、コワくて……。
 だって、オレ、修ちゃんの邪魔ばかりしてたもん。
 でも、マウンド、譲る気、なかった。
 イヤなヤツって、阿部君にも言われたけど、ほんとなんだ。
 オレ、本当は、すごく性格悪いんだよ。
 篠岡さんにも。
 阿部君は渡さない。
 あのね、俺ね、篠岡さんが、阿部君を好きなこと、知ってる。
 知ってて、オレは、何もしない。
 何もしないことが、一番、ジャマなことだよね。
 三星でも、そうだったんだよ。
 篠岡さんの笑顔は、すごく柔らかい。
 その柔らかいほほえみが、阿部君に向けられるのが、イヤだ。
 阿部君は、きっとオレより、篠岡さんを選んで、しまう。
 だから、オレは何もしない。
 ただ、野球だけやってる。
 ただ、投げるだけ。
 投げるのは楽しい。
 今のキャッチャーは、田島君だから、すごく、やりやすい。田島君が、すごいから。
 でも、オレ、バッテリー組むなら、阿部君がいい。
 人生の、バッテリーも、阿部君と、組みたい。
 でも、男同士なんて、誰も、認めてくれないよね。
 阿部君と、篠岡さんだったら、祝福される、だろうな。
 きっと、お似合いだ。
「練習やろうぜー」
 そうだ。練習。
 練習は、楽しいから、わくわくして、やれる。
 なのに、今日は、気持ちが、弾まない。
「おい! 三橋! 今日、調子変だぞ!」
 阿部君……うるさいな。
 田島君は、騒いでも、うるさいと思わないのに。
「おい、しのーか……」
 阿部君が篠岡さんを呼んでいる。オレは……へたへたとその場に座り込んだ。
 阿部君に心配かけた……オレ、すごく、情けない。
 オレは、阿部君にとっては、いいバッテリー以上には、なれないんだね……。

後書き
すごく白い小説……(笑)。
この小説では、篠岡さんが三橋のライバル。
原作の三橋は、篠岡さんが好きみたいだけどね!
2011.6.17

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