昨日はオレの誕生日

 昨日は、楽しかった、な。
 みんな、オレのこと、お祝いしてくれて。
「三橋ー。誕生日おめでとー」
「プレゼントなくて、堪忍なー」
 でも、プレゼント、なくても、いいんだ。
 オレの為に、みんな祝福してくれた。それが一番のプレゼント。
 久々、だったな。あんなにみんながお祝いしてくれたのは。
 ギシギシ荘の時は、ハマちゃんや、みんなが、お祝い、してくれたから――。
 ハマちゃん、元気かなぁ。(注:この頃、ハマちゃんこと浜田も、同じクラスにいたわけである)
(廉ー。フルーツポンチ作ったわよー)
(三橋ー、これやるよ)
 ギシギシ荘での、パーティーの記憶がよみがえる。
 オレ、幸せ者だぁ……。
 オレが想い出に浸っていると――。
 携帯が鳴った。
 メールだ。件名は『誕生日おめでとう』
 差出人は――阿部君!
『昨日は、何も用意してなくて悪かったな。なんか欲しいもんあるか?』
 あ……阿部君が……プレゼントくれるなんて……。
 欲しい物、欲しい物……新しいボールしか思いつかないや。
 でも、ボールは自分で買うし……。
 それにオレ、何もなくても、今幸せなんだ。
『オレ、別に何もいらない』
 何もなくても嬉しいんだ。そう言おうとしたんだけど――
 阿部君からは、
『わかった』
 との返事だけ。
 やっぱり、怒っちゃったかなぁ。
 うん。怒ったんだ。
 だって、阿部君の好意、踏みにじっちゃったんだもん……。
 部活で顔、合わせ辛いな……。
「おっはよー。三橋」
 田島君が肩を抱いた。
「あ……あれ? どうしたの?」
「オレ、嫌われちゃったかも」
「はぁ、誰に?」
「阿部君に」
 田島君が、ぷっと吹き出した。
「そーんなわけないじゃん。心配性だな。三橋」
「でも、オレ、阿部君のメールに、誕生日プレゼント、いらないって……」
 う、嘘でもいいから、欲しい物、言えば、良かった……。
 そう思うと、ぶわっと涙が出てきた。
「それで、どうして阿部に嫌われるんだよー。――あ、わかった。断ったみたいで気になってるんだろー!」
 何で……田島君には、オレの気持ち、わかるのかな……。
「でも、欲しい物なきゃ、別にいいんだけどー」
「欲しいもの……ある」
「ん? 何?」
「新しいボールが、欲しい」
「そっか。ボールって、消耗品だからな。でも、どうしてその時阿部に言わなかったんだよ」
「悪い……と思って」
「あのなぁ、三橋。遠慮深いのも罪になること、あるんだぜ」
「へぇー……」
「と、オレのひいじいが言ってた」
 田島君が腰に手を当てて、ふんと、鼻息を飛ばした。
「今からでもいいから、阿部のところに行ってこい!」
「う……自信な……」
「それでもいいから。オレがついているから。ほら歩く」
「ううっ……」

 1年7組――
「あ、あの……阿部君いますか?」
 オレが言うと――
「阿部ー? 今日は見てねぇな。おまえら見たか?」
「いんや」
「わ……わかりました~」
 オレは、ヘロヘロになって、7組を後にした。
「まぁま、おまえのせいだと決まったわけじゃなし」
 田島君が声をかけてくれたけど、オレは、
(オレのせいだー)
 と思ってまた泣きそうになった。
 阿部君、ごめん。
 オレ、本当に、阿部君のことが好きだよ。
 だから、プレゼントなくても、それはそれで良かったんだ。みんなも、お祝い、してくれたし。
 あんなのは何年かぶりで、楽しかったんだ……。
「おい、三橋。勉強やろうぜ」
「ええっ?!」
 勉強嫌いな田島君が、勉強やろうって言ってる。
 どうしたんだろう。田島君が……。
「どうして?」
「こういう時には、気分を変えるのが一番! たとえ苦手な勉強でもさ」
「あ、そっか!」
「それに、テストも近いだろ? モモカンが、テストで赤点取ったら、試合には出さないって言ってたし。三橋、そんなのやだろう?」
 オレは、一生懸命コクコクとうなずいた。
「だから今は……その……勉強しようぜ」
「うんっ!」
 田島君は、やっぱり、すごい。
 だって、その通りだって、思うもん。

 放課後――
「おい、三橋」
 阿部君が、オレのクラスに、やってきた。
「何だろ……ちょっと行ってくる」
 田島君が、阿部君と何か話をしている。田島君は、さっきは、きつい顔、してたけど……今は明るくなってる。
「おい、三橋、来いよ」
「う、え……?」
「大丈夫だから」
 田島君が言った。
 阿部君が、新しいボールを手渡してくれた。
「それ、誕生日プレゼント」
 え……これって……もしかして、田島君……。
 田島君の方を見ると、田島君は首を横に振っていた。田島君は、何も、してないらしい。
「馬鹿だよな、オレ……おまえの誕生日知らなかったなんて……」
「そ、そんなことないよ!」
「ボールだったらいくらあったっていいだろ? 使ってくれよ」
「う……うん」
「じゃあな」
「あ、阿部君。ありがとう」
 阿部君が、笑った。
 ああ、良かった。阿部君、オレ、ますます、好きになった。
 このボールも大事にしよう。
「良かったな、三橋!」
 田島君がぽんと肩を叩く。俺も、笑った。

 そして――帰って来たあと、オレ以外は、誰もいない部屋で、そっと、阿部君からのボールにキスをした。

後書き
うっうっ。昨日、三橋の誕生日だってことに気付きました。
これは急いで書いたものです。
遅くなりましたが、三橋、ハピバ!
2011.5.18

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