しのーかの恋

 私、しのーかこと、篠岡千代。
 西浦野球部のマネージャーやってます。
 マネージャーは一人しかいないから大変。
 監督はすっごい美人の女の人で、胸もおっきいの。
 でも、ちっともイヤミのない人なんで、みんな「モモカン、モモカン」(その人は百枝まりあという)と慕っているの。
 もちろん、私もモモカンさんは好き。
 でも、阿部君もモモカン好きかなぁ……もしかして。
 だとすると、ちょっと複雑。
 だって……私、阿部隆也君が好きだから。
 ソフトボールも好きだったけど。
 三橋君は阿部君とバッテリー組めて羨ましいなとは思うけど、男に生まれても、阿部君と恋はできないものねぇ……。
 私、やっぱり女の子で良かったな、うん。
 でも、やっぱり恋より野球!
 私、野球大好きだもん!
 だから、みんなに迷惑かけたくない。
 阿部君への恋心は秘密の小箱に閉まっておくの。
 鍵をかけて。
 それもすっごーく頑丈なヤツ!
 でもね……阿部君の前で赤くなってないかどうか、時々不安になることがあるの。
 まぁ、阿部君は、三橋君しか見てないけどさぁ……メゲ。
 でも、水谷君とか、察しが良さそうだからなぁ……気をつけないと。
 あ、あと田島君にも。
 だけどね、聞いて。
 合宿で阿部君と料理をすることになったの。
 三橋君もいるし、ほんの短期間なんだけど……。
 すっごいラッキー!!!
 私、恵まれてる!
 叶わぬ恋でもいいんだ。
 私にはこれが初恋だから。
 初恋は実らないって言うでしょ?
 だから……いいんだ……。
 ひと夏の想い出として、うーんと年を取った時に、
「そういうこともあったわねぇ」
 と思い出す程度。
 そんなもんで、いいんだ。
 でもね、私が阿部君に料理教えるんだよぉ。
 すっごーいって思わない???
 神様に思わず感謝したくなるぐらい。
 これで、高校生活に彩りができるというものよね。
 私、初恋が阿部君で良かった。
 まぁ、阿部君の相手は大変そうだけどね……はっきり言って。
 三橋君も大変そうだしなぁ……。
 それに、結婚までは考えてないし。
 できれば嬉しいけど、そんなことできないよね。
 告白さえもままならないのに。
 私の恋心を露わにして、部内が変になったらイヤ。
 阿部君も恋より野球なんだから、阿部君に迷惑かけるのはイヤ。
 でも、一度はデートしたいなぁ、なんて考えてしまう。
 その為の努力はひとつもしないくせに。
 ああ、しのーか――私は何てイヤな人間なの?
 告白しないのだって、本当はふられるのが怖いからじゃないの?
 このまんまだと、先に進めないんじゃないの?
 私の人生、一生受け身?
 どうして、阿部君に飛び込んでいけないんだろう……。
 恋の仕方がわからない。
 阿部君が他の誰かに取られてしまったらどうしよう。
 ううん。そんなことは考えない。
 阿部君は、野球のことしか考えてないから。
 私のことなんて、ちっとも何とも思ってないから。
 そうよ――気付いていたら、何らかの行動起こす……かもしれないもん。
 三橋君にはあんなに気を遣っている阿部君なのに……三橋君にはちっとも伝わっていない。
 三橋君には悪いけど……阿部君が気の毒。
 三橋君も嫌いじゃないけど、時々ニクい。
 シット、というヤツかしら……やだな。
 私、ほんとにやになっちゃうな……自分が。
 でもね、今はとても嬉しい。
 これから阿部君にお料理教えるんだ。
 私は三橋君と阿部君のお手伝い。
 お料理好きだから、これだけでも嬉しいのに、阿部君と一緒なんだよ!
 もう、幸せで死にそう。
 でも、この心は絶対皆に言わないんだ。
 そしてね、阿部君と私が並ぶと、身長差が……。
 阿部君は大きい。
 私は……小さい。
 阿部君とつり合いが取れないんだ。
 ああ、あと数センチ高かったらなぁ……。
 それに、阿部君、ますます背高くなってない?
 そして、ますますかっこよくなった!
 これって、贔屓の引き倒しじゃないと思う。
 私は、阿部君に見惚れてしまう。
 でも、阿部君はちっとも気付いてくれない。
 それでいいと思うんだけど、なんだかなんだか……私ね、そんな阿部君もニクい。
 矛盾してると思うんだけど、恋ってそういうものなのかもしれない。
 それとも、私だけなのかなぁ……。
 一度先輩に相談しようかなぁ……。
 だめだめ! そんなことしたら、秘密にした意味ないじゃない。
 けれど、阿部君を見た瞬間に、心拍数が急上昇!
 よく生きていられるもんだと自分でも思う。
 話は変るけど――あのね、阿部君。
 三橋君には少し冒険させてあげた方がいいと思うよ。
 包丁の持ち方は、ちゃんと三橋君に教えてあげるから、ね?
 みんな噂してるよ。
 阿部君は過保護だって。
 噂に乗っかるわけじゃないけど――ううん、乗っかってるのかなぁ、どっちだっていいか――私もそう思う。
 なんだかんだ言っても、阿部君と三橋君が最強のバッテリーになるように祈っているよ。
 だって、みんなの夢は――
 甲子園優勝、全国制覇、だもんね。
 私もその為のお手伝いがしたい。
 だから……自分の恋心にかまけている暇は……ないんだよね……。
 今だけ、私だけ、この想いを重ねる――……こっそりFall in love.

後書き
しのーか、原作の方がもっと天真爛漫で可愛い気がする……。
もっと可愛いしのーかを書きたいなぁ……。
2011.5.9

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