だからオレ達は長いキスをする

「三橋、おはよう」
「お、おはよう、あべ、くん」
 起きたら早速モーニングコール。
 オレ達はケータイ越しにキスをする。

「三橋!」
 朝練の途中、チームメイトの目を盗んで、キスをする。
「阿部君……」
 ほんのり赤くなった三橋の頬に、オレはまたキスをする。

 授業中――
 窓の外を見ながら。
 オレは想像の中で三橋にキスをする。

 休み時間。
 廊下で三橋達とすれ違った。
 オレは残像にキスをする。

 昼休み。
 オレは三橋を呼び出し――
 田島や泉達に気付かれないようにキスをする。

 もし弁当を食った後だったら――
 屋上に呼び出し、何度も何度もキスをする。
 ――休み時間が終わるまで。

 午後の勉強中――
 退屈な古典の時間。
 オレは夢の中で三橋にキスをする。
(言っとくが、いつも寝ているわけじゃないぞ)

 部活の時間。
「おお、三橋。今日もがんばろうな」
「うん!」
 声をかけたついでに、キスをする。
 ポジションにつく時、すれ違いざまキスをする。
 アクエリを飲んだ後に、キスをする。

 内緒でキスをしてても、勘の鋭い花井や田島にはわかったかもしれない。
 それでいい。
 逆に見せつけてやる。

 部活は今日も無事終わる。
「三橋、家まで送ってく」
「え、い、いいよ」
「嫌なのか?」
「う、ううん。うれしい、けど……」
 三橋が変な顔になってる。
 それも可愛いと思うのは末期だろうか。
 ゆっくり歩きながら、オレはまたキスをする。

 キスをする、キスをする、キスをする――

 その度に、オレ達の歩く速度は遅くなる。

 けれど、それでも三橋の家の前まで来てしまった。
「じゃあな、三橋」
 オレは平静を装う。
 本当は名残惜しい。
「あ、阿部君、あのね……」
「なんだ?」
「今日、うち、親いないんだ……」
 三橋が何を言おうとしたのか、オレにもわかった。

 オレは三橋が好きだ。
 多分、三橋もオレを――
 だからオレ達は長いキスをする。


後書き
アベミハです。
長いタイトルのわりには、短い話でした。
というか、詩ですね、これ。
キスというテーマで書いてみました。
萩尾望都の『残酷な神が支配する』のパクリの部分もあるな――でも、シチュエーションはおお振り仕様に変えました。
2010.6.20

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