HAPPY BIRTHDAY 阿部君

「おい三橋、今からちょっと来い」
 阿部に呼ばれ、三橋はぎくっとした。
 十二月十一日。
 今日は阿部の誕生日である。
 それをすっかり忘れていたのだ。
 思い出したのは、田島の、
「三橋ー。今日阿部の誕生日だけど、おめでとうコールしたか?」
 と言う台詞がきっかけだった。
 三橋も何とか上手い言葉を携帯で阿部に送ろうと思ったが、何も考えつかぬまま、今に至る。

 三橋は阿部のすぐ後ろをちょこちょことついて行っていた。
「寒くないか? 三橋」
「う、ううん。全然」
「こっちは雪がちっとも降らないもんなぁ」
 クリスマスも控えた冬の街、イルミネーションがきらきらと光っている。クリスマスソングも辺りに流れる。
 こんなロマンチックなシチェーションだというのに――三橋は、こちこちに固くなっていた。
 阿部の誕生日を忘れていた、なんて言ったら、彼は怒るだろう。怒るだけではなく、ウメボシも――
 つい想像してしまって、三橋は架空の痛さに泣いた。
(ひぃぃぃぃぃ!)
 つい、三橋は頭の中で叫び声を上げていた。
 阿部は、訝しげにそんな三橋を見ているだけだった。

「さあ着いた。ここだ」
 駅前の大きなクリスマスツリーの下で、阿部は言った。
 飾りがちかちかと点滅している。恋人とわかる男女が寄り添っている光景も見られる。
 三橋も、いつもは物珍しげにきょろきょろしているところだったが――今はそれどころではなかった。
(あ、あやまんなくちゃ……)
 三橋は、勇気を出して言った。
「あ、あべ、くん……今日、誕生日、だったよね……」
「おう。そうだけど?」
 阿部の態度にはいつもと違うところは見受けられない。
「あべ、くん、ごめ……オレ、誕生日、忘れてて……だから、プレゼント、クリスマスまで待っ……」
 三橋の台詞が途切れた。
 不意打ちのキス。
 三橋の唇に、阿部のそれが重なった。
「誕生日プレゼント、確かにもらったぜ。――ちょっとキザだな」
 阿部は照れ隠しのように笑った。
「あべ、くん……」
 三橋は魂だけ天国に行ってしまったような錯覚を覚えた。
(阿部君……俺の方こそ、誕生日プレゼントもらったような気分だよ……)
 三橋は、自分の顔から湯気が出そうな気分になった。
「もっかいキス、いいか?」
「あ、うん」
「大丈夫。それ以上のことは今はやんないから」
 そして、また軽いキス。
 二人は、生まれて初めての恋の甘さに酔っていた。
 三橋は、そっと心の中で相手の為に祝福をした。
 阿部君、ありがとう。そして、おめでとう。

後書き
阿部、誕生日おめでとう! 
久々のおお振り更新です。短編ですが。
これは山之辺黄菜里さんのお誕生日祝いを兼ねています。一日違いですが。
黄菜里さんも、お誕生日おめでとう! これからもよろしくね!
2009.12.11

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