花井キャプテンの頭痛の種

 西浦野球部の主将として、頭の痛いことがある。
「花井ー、部活来いよー」
 それは、この一見ノーテンキな田島ではない。
 三橋と阿部。特に阿部だ。
 三橋は大丈夫だろう。話し方が独特で挙動不審だが、芯に強いものを秘めている。
 それに、マウンドに登っている限り、あいつは無敵だ。
 オレが不憫に思っているのは阿部のことだ。
 阿部は三橋にこれ以上ないと思うくらい尽くしている。
 でも、それがいまいち三橋に伝わっていない。
 バッテリーとして、それってどうよ?
 阿部にも言ったことがある。「おまえは不憫だな」と。
 その時阿部が何と答えたか忘れてしまったが。何も答えなかったかもしれない。
 三橋は阿部のことは嫌いではないだろう。ただし、怖がっていた。
 阿部が怪我したことは、三橋にとっても、青天の霹靂だろう。
 だが、オレは、いい機会だと考えている。これは主将としての勘だが。
 阿部も、三橋に頼ることを覚えなきゃなぁ。そんな矢先だったから。
 阿部が、三橋を大事にしているのは間違いない。
 けれど、過保護に過ぎた。
 三橋は、阿部から独り立ちする時だ。阿部も、三橋と一人の人間として向かい合わなければならない。
 そうでなければ、二人とも可哀想だ。
 マネージャーの存在もある。
 これがなかなか可愛い娘で――いや、そんなことはどうだっていいのだが。
 このマネージャーが、どうやら阿部に気があるらしい。
 三橋から子離れ(?)する絶好の機会だ。
 しかし、これも頭痛の種だ。と言うのは、水谷も彼女に気があるらしいからだ。
 世の中上手くいかんもんだな。
 阿部と千代(マネージャーの名前)がくっつけば楽なんだがなぁ。三橋は祝福するだろう。
 まぁ、水谷と千代でも悪くはないけど。
 それにしても、阿部は今まで三橋三橋言ってたもんなぁ。
 その阿部が好きだなんて、千代もえらいよ。見上げたもんだ。
 普通なら鼻もひっかけないところだろう。
 あいつは三橋と言うコブ付きだから……とか何とか思ってさ。あ、そう思っているのはオレか。
 阿部、もう少し三橋を信じた方がいいと思うなぁ。
 あんな奴だから、三橋に怖がられているし。
 ほんとに可哀想だよなぁ。
 このままだと、二人とも不幸になっちまう。
 でも、阿部の怪我で、あいつらは変わった。
 どこがどうとは言えないが、三橋が初めて首を振ったのは大事件である。たとえ相手が阿部でなくても。
 今まで阿部に対しては、首を振ったのも計算のうちだって言うもんなぁ……(ダミーサインのことは後で話に聞いた)
 三橋はなまじコントロールがいいから、美丞のやつらに利用されちまった。
 まぁ、それを逆手に取るんだから、阿部もなかなかしたたかだが。
 わからない、と言うなら、三橋ももう少しわからない。
 話す時は、助詞をつけて喋れ!
 これまでどんだけいらいらさせられてきたことか。
 ピッチャーとしての力量から、オレ達はあいつに一目置いているが。
 特に、桐青戦のあいつは見事だった。
 実力がなかったら、オレだって苛めていたかもしれない。田島はてんから無視していただろうし。
 出会いが高校だったのは、オレにとって良かった。そうでなきゃ、三星の奴らと同類になるところだったからな。 
 あいつは西浦に来てよかったと思う。
 三橋の実力を引き出した功労者は阿部だ。そいつは確かに認める。でも、世話焼き過ぎたんだよなぁ。
 しかし、あいつらがこれからどうなるか楽しみでもある。
 あーあ、あいつら、オレの頭痛の種であると同時に、オレの希望でもあるんだよなぁ……。

後書き
なんか花井の話が書きたくなったんですよ。でも、これじゃアベミハの話……まぁ、花井から見たアベミハ、と言うことで。
これは花井の一人称です。思いついたことつらつらと書いてみました。
私はコミックス派なので、シチェーションがちょっと古いところがあるでしょう。
2009.10.16


BACK/HOME