アベミハ新婚ラブラブ話

「今日は、オレが、夕食、作りまーす!」
 三橋が阿部に宣言する。
「いいって、いいって。そんなことオレがやるから。包丁持って怪我でもしたらどうすんだ?」
 阿部は、相変わらずの過保護ぶりを発揮する。
「だって、オレ、阿部君の役に立ちたいし……」
 三橋ははらはらと涙をこぼした。
「泣くこたねぇだろ? わかったよ。今日はオマエが夕食作れ」
「うん。わかった」
 三橋の顔が、ぱあっと明るくなった。
(三橋のヤツ……もう充分オレの役に立っているのにな)
 今まではバッテリーとして。そして、今夜からはベッドの中で……ムフフ。
 阿部はとりとめもない妄想に耽っていた。

「痛っ!」
「どうした、三橋ッ!」
 阿部が、台所に駆けつけて来てくれた。
「指、切った……」
「どの指だ? 貸せ!」
 阿部が、血の出ている三橋の指を口に銜えた。
 三橋は、幸福感で、目が眩みそうだった。
「あ、阿部君……」
「ちょっと待ってろ」
 阿部は絆創膏を持ってくると、器用に三橋の傷口に貼った。
「あ、ありがと……」
「にしても、三橋の血って、甘かったな」
「阿部君……吸血鬼みたい」
「オレが吸血鬼なら、おまえも吸血鬼になるんだぞ」
 阿部は、どこかで聞いたような台詞を発した。だが、三橋は言われ慣れていないので、新鮮に感じた。
(オレ、阿部君となら、吸血鬼になってもいいや……)

「おー、うめぇ」
 味噌汁をすすりながら、阿部が言った。
「ほんと? 良かった」
「三橋の味付けが良かったんだな」
 結婚しても、彼らの呼び名は、『三橋』『阿部君』
 悪いとは思わないけど、何となく、どことなく他人行儀。
「なぁ、三橋」
 三橋の考えを察知したかのように、阿部は言った。
「オレ達夫婦別姓ってことになったけどさ、二人きりの時は、名前で呼ぼうぜ」
「う、うん」
 三橋が頷いた。
「……廉」
「隆也……君」
「『君』はいらねぇって。呼び捨てでいいよ」
「……隆也」
 阿部が笑顔になった。そこで、三橋もフヒッと笑った。

 その夜、彼らが幸せな初夜を迎えたのは、言うまでもない……。

後書き
SSです。どこかで読んだような表現もちらほら。
バカップルなアベミハを書きたかったのです。
夫婦別姓については、どちらの親戚も譲らなかったのでしょう。本人達を差し置いて(笑)。
2009.9.4


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