ふつつか者ですがよろしくお願いします

「おとうさん、おかあさん。廉さんを僕にください!」
 阿部が頭を畳にすりつけた。
 よくある光景……だが、廉――三橋廉――は男である。
 それは日本ではまだよくあることではなかった……。

「いやぁ、隆也が結婚とはなぁ」
 ビール片手に阿部父が豪快に笑う。
「それにしても、相手が男の人とはねぇ……どこからどう育て方を間違えたのかしら。まぁ、私にはシュンちゃんがいるからいいわ」
 阿部母は、長男に関しては既に諦めている感じだ。
 これから、シュンには今まで以上の期待がかけられていくであろうが、もちろんそんなことは阿部の知ったことではない。
「なぁに。これからの世の中、同性同士の結婚も認められる日が来るかもしれないさ。日本が遅れているだけで。な、隆也」
「親父……」
「オレ、廉さんが義兄になるなら大賛成だぜ」
「ま、シュンちゃんまで」
 いつもと同じ家庭の団欒。
 その変わり映えのなさが、阿部にはありがたかった。
(三橋は今頃何してっかな……)

 三橋は今――
 泣かれていた。
「廉~! お嫁に行っちゃうのか~! お父さん寂しいぞ」
「まぁまぁ。一生会えないわけじゃないんだし」
 父親と、対照的な母親。
「ご、ごめ……お父さん、お母さん。でも、オレ、阿部君と、結婚したい……」
「ああ。わかってるよ」
「先方もいい人そうで、良かったわね」
「お父さんも、泣いてる場合じゃないな、こりゃ」
 三橋父はぐいっと目元を拭いた。
「じゃ、ルリちゃんとお祖父ちゃんにも報告しなきゃね」
 三橋母が電話の受話器を取り上げた。
「ま、待って……ルリには待って」
「何で?」
「きっと……馬鹿にされる……」
「馬鹿にされるぅ?」
 途端に三橋母の目が吊り上がった。
「アンタねぇ、結婚式のときはイヤでもわかるのよ。それとも、内緒にしておきたいわけでもあるの?!」
「だって、オレ達男同士だし……」
「情けないわねぇ。アンタ達の愛情は性別で揺らぐものなの?!」
 立ち上ったまま説教する母に、正座して聞いている三橋。
「うっ、うっ……男でもいいから、阿部君と、結婚したい」
 三橋は、本心を涙目になりながら訴えた。
「よし、じゃあ、電話するわね」
 三橋の祖父も泣いていた。嬉しさもあったわけだが。
 ルリは、
「そうなんだ……幸せになってね」
と、しんみりした口調だった。

 結婚式の日も近付いてきたある日――三橋は阿部の部屋にいた。
「オレ達も、もうすぐ結ばれるんだなぁ……」
「あ、あの、オレ、オレ……」
「なんだ? 婚前交渉ならしないぞ。したいのはやまやまだけどな」
 阿部は、にやりと笑った。
「ち、違うくて……ふ、ふ、不届き者ですが、よろ、よろよろよろ……」
「おいおい。それを言うなら『ふつつか者ですが、よろしくおねがいします』だろ」
「う…うん。ふつつか者ですが、よろしく、お願い、します」
 そう言って、三橋が三つ指を突く。
(かっ、かわいい~)
と阿部は思った。
「おまえは全然ふつつか者じゃないよ」
 そう言って阿部は三橋を引き寄せた。
 これぐらいなら、許されるだろう。
「あ、阿部君。これからも、よろしく……」
「ああ。オレの方こそ、よろしく頼むな」
 もう既に幸せいっぱいの二人であった。

後書き
妄想の一部です。
バカップルな阿部と三橋で締めてみました。どうでしたでしょうか。
新婚さんなアベミハを書きたかったのですが、結婚式も初夜もまだですね。
周囲の人間模様も、少ししたためることができて良かったです。

あ、ほんとは私、阿部は間違っても婚前交渉のことは言いそうにない、真面目な青年だと思います。
2009.8.14

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