ミハシ太郎3

「おーい、三橋ー。今日阿部の家行こうぜー」
「え、うえ? 阿部君の家?」
 三橋は、ちらと顔色をうかがうように、阿部を見た。
「オレは、ちっとも構わないぜ」
 三橋一人だけでなく、田島も一緒と言うのが少し残念だったが。
「ハムスター飼ったんだよ。阿部が」
「へぇー、ハムスター」
「三橋、ハムスター好きか?」
 三橋はこくこくと頷いた。
「お、オレ、ハムスター、好きだ」
「よーし、決まり!」
「ちょっと待て」
 阿部が言った。
「ハムスターが見たいなら、別にオレの家でなくても、田島の家だって」
 せっかくの僥倖を不意にするようなことを、阿部は言った。
「三橋はオレの家に何度も行っているからさ。ミハシに会わせたいし」
「あー。そう」
 田島と三橋は仲がいい。当然、お互い行き来してもいるのだろう。
 阿部は、それ以上深く考えなかった。

 三橋と田島は、阿部と共に阿部の家に来た。
「ピンポンダッシュは今日はしねぇからな」
「あ、客の姿が見えねぇことがあると思ってたら、あれは田島だったのか?!」
「わりぃわりぃ、勘弁勘弁」
 田島は笑っていた。
「いいけどさ。もうするなよ」
「へーい」
 阿部の母が出迎える。シュンも一緒だ。
「あらあら。隆也が友達連れてくるなんて、珍しいわね」
 阿部は、簡潔に、「おう」と答えただけだった。
「さぁさ、あがって。飲み物持って行くわね」
「兄貴、なんで三橋さん達が来たの?」
「ん、なんかハムスター見たいんだって」
「あれ、オレのペットなのにさぁ……」
 シュンは恨めしそうに阿部を見た。
「兄貴ったらひどいんだぜ。ミハシのケージを自分の部屋に移したりしてさぁ……」
「ミハシ……」
「ああ、ハムスターの名前。なんか三橋さんに似ているようでさぁ……」
「シュン、おまえ少し黙れ」
 阿部がすごんだ。
「隆也! シュンちゃん脅かさないの!」
 すかさず阿部母の叱責が飛ぶ。
「ははは、おまえら、変わってねぇなぁ」
 シュンにラブの阿部母も変わっていない。
「まぁ、恥ずかしいことをお見せしてしまって。隆也。オレンジジュースでいいでしょ?」
「ああ」
「隆也は付き合いづらいかもしれないけど、これからも宜しくお願いしますね」
「はーい」
「は、はい」
「オラ、行くぞ。三橋。田島」
 二階に行く阿部の後を、西浦のチビコンビがくっついて行った。

 阿部の部屋は綺麗に片付いている。
「キレイな、部屋だねー」
 三橋が感心したような声を上げる。
「あん。普通だろ?」
「でも、オレのとこより、ずっとキレイ」
「まぁ、おまえのベッド回りよりはな」
 思い出して、阿部は苦笑した。
「でも、三橋の部屋だって、そんなに汚くないと思うぜ」
「あ、それは、親が、掃除、してくれるから……」
「へーえ」
「なぁ、ミハシ見ようぜ、ミハシ」
 田島が大声で言ったので、三橋は一瞬戸惑ったようだった。
 でも、怖がってはいない。三橋は、田島のことは怖くないのだ。
「ほらほら、ミハシ。三橋だぜー。おまえの兄ちゃんだよー」
「は、初めましてー」
 二人ともケージの前に顔を近づける。
「おー。ここもキレイにしているじゃんかー」
 田島が中を覗きながら言った。
「一応、ペットだからな」
 阿部は言った。得意げな響きは隠しきれない。
「ほんと、シュンのペットと言うより阿部のペットだな」
「そ……そうなの?」
「あー! 観察日記発見!」
「み……見るんじゃねぇ!」
 田島と阿部がノートを取り合っているとき、三橋は、じーっとケージの中のミハシを見つめていた。
「阿部、ミハシ、出していいか?」
 日記からミハシに興味の対象が移ったらしい田島が訊いた。
「――どうぞ」
 でも、すぐ逃げるかもしれねぇぞ――そう思いながら見ていると。
 ミハシは田島の手の中にすっぽり収まっている。
「やーっぱ可愛いな。コイツ」
 田島がまた笑顔を見せる。よく笑う少年なのだ。
(ふーん。同類はわかるんだな)
 阿部は失礼極まりないことを思う。
 阿部ですら、ミハシを手の平に乗せることができるようになるまで、何日もかかったんだ。それなのに、田島は易々と――この前来たときもそうだった。
「田島は動物の扱いが上手いんだな」
 ちょっと皮肉のひとつも言ってやる。
「うん。動物好きだからな」
 田島はこたえない。
「ほーら、三橋、持ってみるか? ふわふわだぞー」
 田島は三橋にハムスターを渡す。
 ミハシは逃げない。
 三橋はミハシを見つめる。
 ミハシも三橋を見つめる。
 阿部がそれを眺めている。
(うーん、やっぱ三橋も同類なんだな)と思いながら。
 しばらくした後、三橋が言った。
「こ、この子っ! か、カワイイ!」
「いつもはすぐに隠れ家に逃げ出すぜ」
「そ、それ、わかる。でも、今はおとなしいね」
「そうだな」
 阿部は、苦笑を噛み殺している
「な、なんか、こう言うの、変なんだけど。こ、この子、オレに、似てる、ような気が、する」
 無心に眺める様子も、ちょっとくしゃくしゃになった体毛も。
(そうだよ――だから、ミハシと名付けたんだ)
 阿部が声に出さずに答えてやった。
 阿部母が、ジュースを持ってきた。
「遅くなってごめんね。お茶うけを探してたら、時間かかっちゃって」
「やったー、おばさん、ありがとー!」
 田島が早速おやつに食らいつく。
 三橋は、またミハシとお見合いをしている。
「三橋。ソイツが気に入ったんなら、また家来ていいぞ」
「ほ、ホント?」
 三橋の顔がぱあっと明るくなった。
(単純なヤツ)
 でも、それが三橋のいいところなのだ。そして、ミハシも。
「三橋、ひまわりの種やってみるか?」
 阿部がひらひらと一粒の種を振って見せた。
「ひまわりの種、好きなの?」
「ハムスターは好きみたいだぜ。当然コイツもな」
 ミハシがひまわりの種を食べ始めると、三橋は夢中で見つめていた。

後書き
三橋とミハシ、同じ名前でややこしかったです。
お見合いする三橋とミハシ、『ミハシ観察日記』を書いてから、ずっとこの子達の話作ろうと思っていたんですよ。
でも、ミハシの描写は短かったかも(汗)
2009.7.4

BACK/HOME