寝物語

「オレ、榛名さん、みたいな、投手、に、なりたい」
 三橋が突然そんなこと言ったのでオレは驚いた。
「あのなぁ、榛名なんて、そんなに憧れるほどのモンじゃねぇよ。ノーコンだし」
「で、でも、榛名さん、イイ、人、だよ」
「イイ人ねぇ……」
 オレは頭を掻いた。
 あいつは、オマエを見下してたんだぜ――言いかけて、やめた。
「阿部君?」
「あんなヤツがいいのか?」
「う……だって、球、速いし。体格、だって、いいし」
「確かに榛名は豪速球だけどな。オレはあいつのおかげで中学時代は生傷が絶えなかったぜ」
 つか、何でこんな話してるんだ?
 楽しかるべきピロートークが、一気に不愉快なものになった。
「おまえには、おまえの良さがあるよ、三橋」
「――うん」
「だから、榛名みたいになりたい、なんて言うのなしな」
「――やだ」
 こいつ……変なところで強情だな。
 確かに榛名のスピードと三橋のコントロールがあれば、最強のピッチャーになる……かもしれない。
「でも、オレは、榛名よりオマエの方が好きだぜ。前にも言ったろうが。『オレはオマエが好きだ』って」
 少なくとも、南京錠の数字を『871(はない)』から『みはし(384)』に変えたいな、と思うくらいには、好きだぜ。
「阿部、くん……」
 三橋は赤くなってうつむいた。
 よしよし。やっと甘い雰囲気になってきた。
 あれだな。ちょっとした行き違いも、恋人同士のフレーズってヤツだな。
 今日は三橋が珍しく家に来たので、オレ達はなしくずしに部屋の中で結ばれた。
 バッテリーから恋人になってからも、三橋の思考回路は相変わらずわからない。
 今だって、急に榛名のことを言い出してみたり。
 あ、やなこと思い出した。
 オレ、榛名と何回か寝たことあるんだよな……そのときは、オレは受ける側で、今とはまるで逆だけれど。オレは男の味を榛名に教え込まれた。
 いや、あいつのことは忘れよう。オレには三橋、三橋だけだ。
 三橋が男だからではない。女でも惚れていただろう。
「どうか、したの? 阿部君」
「いや。オマエには関係ない」
「そう……」
 三橋はどことなく、寂しそうだった。
 素っ気なさすぎたかな?
「よし。今日はもう一発やろう」
 こういうときは、気を紛らすに限る。
 今日は家族も帰って来ない。というか、泊まりだ。
 だから、三橋が様子を見に来たのだ。思いがけない陣中見舞い(?)だった。
「ステーキ焼くから、オマエはシャワー浴びてこい」
「ええっ?! ステーキ?!」
「嫌いじぇねぇだろ? 肉。それとも、オマエは食べ飽きているか?」
「そ、そんなことないよ」
「じゃ、キッチンで食べるか? それとも、ベッドで食うか?」
「き、気を使わなくても、大丈夫、だよ」
「オレが気を使いたいの。心配するな。ヤル為には、体力も必要だろ」
 そして、オレはあまり人に見せない全開の笑顔を見せた。
 三橋が、またポッポッと赤くなった。
 オレは台所に行って、肉に火を通す。肉の焼ける旨そうな匂いが広がる。
 我ながら世話女房だな、と、オレは苦笑する。
 それは、榛名とバッテリ―を組んでいた頃も変わらなかった。
 オレは一生懸命榛名の世話を焼こうとしていたっけ。
 ちょっとほろ苦い味の思い出。
 今、榛名はどうしてるんだろうなぁ。ま、あいつのことだ。新しい相手でも見つけただろう。
 おっと。これ以上やると焦げる。
 三橋に負担がかからないように、今晩はあと一発でやめておこう。
 その代わり、うんと甘くて濃密な行為にしよう。オレはそう決めて鼻唄を歌い始めた。ほとんど無意識のうちに。

後書き
今度は阿部の一人称です。
今度も18禁……最近18禁が多いな……。
久々にアベミハ書いたような気がします。
阿部は榛名と行為済みという設定です。
私は今までアフタを読んでいなかったので、ネタ的に古いところもあるかも。
阿部の言った(というか思った)『恋人同士のフレーズ』というのは、名曲『SAY YES』からです。
2009.6.30

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