その名は田島悠一郎

 オレは変態か?!と思うことがある。
 あいつがバッターボックスに立ったとき、わけもなくドキドキする。
 あいつがクリーンヒットを打ったとき、盗塁を成功させたとき……オレのドキドキは絶頂に達する。
 いつだったか、あいつに「花井、二打点じゃん!」と言われたとき、オレはそのセリフを反芻して、ぽわぽわしていた。
「なぁ、花井。試合中の田島って、かっこいいよな」
 そう言ったのは、チームメイトの栄口。
「そ……そうかぁ?」
 オレは、できるだけ平静を装って、言った。
「うん。なんかこう……ドキドキする」
 そっかー! オレだけでなく、栄口もそう思うか。
 栄口は、オレの知る限りではノーマルで、良識もあるヤツだ。
 その栄口が言うんだから、本当に田島はカッコイイんだ。
 オレがヘンタイではなかったというわけだ。良かった~。
 田島と言えば、変わった特技ががある。
 それは、ピッチャーの三橋の言いたいことを即座に理解することである。オレだけでなく、阿部にさえわからないのに。
 だから、今は、阿部と三橋の通訳を引き受けているらしい。
 三橋みたいにわかりづらい話し方をするヤツの言いたいことを、よく察することができるなぁと思うが、モーションを盗むこともできる田島のことだ。これは余技に違いない。
 勉強はできそうにないのになぁ……。
 あいつは動物的直感で生きているのだ。
 しかし、ただのバカではない。天然だが。
 今、西浦で一番野球の上手いヤツだと思うが、それを鼻にかける様子もない。というか、初めから気にもしていないのだろう。多分、いつも自然体なのだ。
 西浦の四番で、目下オレのライバル。その名は田島悠一郎。

後書き
はい。花井の一人称です。
田島様のことについて語らせていただきました。
しかし、おお振りは短い話が多いなぁ。
山之辺黄菜里さんの情報も参考にいたしました。ありがとうございます。
タイトルは、手前味噌ですが、なかなか上手いものをつけられたと思います。タイトルセンスのない私にしては珍しく。
2009.6.27

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