ミハシ太郎 「ねー、お母さん。オレ、ペット飼いたい」 阿部隆也の弟、シュンが言った。 「まぁ、そうなの」 シュンが大好きな阿部の母は、手もなく折れた。 阿部は、自分には関係ない、と言った面持ちで、冷蔵庫から出した牛乳を飲んでいた。 「でさー、兄貴」 「ん?」 こっちに話が回ってきたので、阿部はコップから口を離した。 「なんだ?」 「俺、どんなのがいいかわかんないからさ、兄貴もついてきてくれる?」 「はぁ? おまえ、いい加減自立しろよ」 「いいから、一緒に行ってあげなさい。どうせヒマなんでしょ、タカ」 「しゃあねぇなぁ」 牛乳を飲み干すと、コトンと机にコップを置いた。阿部だって、弟がかわいくないわけではないのだ。 まぁ、そのうちオレが面倒見ることになるんだろうな……そう思ったが、阿部は、仕方なく、と言った形で、シュンの付き添いを引き受けた。 「で? どんなのがいいんだ? シュン」 行く道々、阿部が弟に尋ねた。 「んー、小さくてふわふわしたのがいいな」 「ハムスターとか、小鳥とか?」 「んー。ハムスターの方がいいかな」 「ま、いいけどさ」 母から財布を預かっている。決して少ない額ではない。それで足りるだろう、と、阿部はふんでいた。 意外な人間を見つけた。田島だ。 「おー、阿部」 「よう。何してんだ? こんなところで」 「散歩してたんだ。最近こっちあまり来ないから」 田島が言った。そばかすの似合う、明るい少年だ。 「三橋は?」 すぐ三橋の話に行くのが、阿部の阿部たる所以だ。 「三橋は用があるって」 「どんな用?」 「そこまでは聞いてない」 「兄貴、兄貴」と、ちょんちょんとシュンが袖を引っ張る。 「あの人、田島さんだよね?」 「そうだけど?」 シュンはテレビで、田島の顔を見て知っている。 「よろしく」 そう言って、阿部と話していた田島は、シュンを見て、ニカッと笑った。 「わぁ! 本物の田島さんだー! 近くで見れるなんて、感激ー!」 「そいつ、阿部の弟?」 田島が訊いた。 「なんでわかるんだ?」 「顔がそっくりだもん。すぐわかるよ」 そんなことを言われたことは、少ない。阿部とシュンとでは、性格も違うし。 シュンが、目をきらきらさせながら、挨拶と自己紹介をした。 「オレ、三橋さんにも会ったんですよ。西浦野球部っていいなぁ、と思っていたところに、田島さんとも話すことができて、オレ、嬉しいです」 「そっか。じゃあ、入学したら、野球部に来いよ」 シュンと田島は、すぐに意気投合したようだった。 「オレ、ペットショップに行くんです」 「じゃあ、オレもつき合うぜ。いいだろ? 阿部」 田島が動物好きなのは、阿部も知っている。阿部より動物には詳しそうだ。そういえば、田島にも、動物めいたところがある。 (類は友を呼ぶ……) 阿部はこっそり思った。 ペットショップには、当然だが、色々な動物がいた。 シュンは田島と、ああだこうだと話し合っている。 阿部も、初めは、血統書付きの猫の値段を見て、その高さに驚いたものだが、慣れてくると退屈なだけだった。うるさいし。 (早く選べよな……) 自分も動物は嫌いではないが。こういう檻に入れられた獣達があちこちで寝たり起きたりうろうろしたりしているペットショップは、すぐ飽きる。以上の理由で、動物園もあまり好きではない。動物は、やはり触れ合うことができないと。 阿部がかっかっと足踏みし始めたときだった。 「あっ! 三橋だ!」 (何ッ?!) 三橋だ!と言う田島の声に即座に反応した阿部は、自分はもしかしてバカかもしれない、と冷静になって反省した。 (三橋もこの店に来ているのかな) 阿部は、田島に近づいた。 「三橋が、いたのか?」 「あー、阿部」 シュンと田島の二人が見ていたのは、ハムスター売り場だった。 「この中に、三橋に似たハムスターがいたんだよ」 「どれ?」 ハムスターが、何匹かショーケースに入っている。 物陰に隠れていたハムスターが、そろそろと姿を見せる。頭の毛がバサバサだ。 阿部を見ると、元いたところにぴゃっと逃げ去る。 その途端――阿部の体の中を電撃が走った。 これを、運命の出会いと呼ぶのかもしれない。 「おい。シュン。これ、飼うぞ」 「ええっ?! オレのペット一緒に選んでくれるんじゃなかったの?!」 「いいだろ。オレが育てるんだから」 「私からも、お勧めします。おとなしいですから手はかからないと思いますよ。人見知りが激しいので、ちゃんと懐くかは問題ですが――」 店員が言った。正直なところが好感を持てる。ひとくさり説明したあと、様子をうかがっているハムスターをケースから出し、阿部に手渡した。 「――仕方ないなぁ。可愛いし。世話してくれるっていうんだから」 シュンは、兄の気紛れに呆れた。だが、この小動物はシュンのお眼鏡にもかなったようだった。 「なぁなぁ、名前は何にするんだ?」 田島の無邪気な問いに、阿部は警戒して辺りを見渡しているハムスターを手に乗せたまま、自慢げな響きを潜めて答えた。 「今日からこいつの名は――ミハシだ」 「ミハシか、ぴったりだな。おーい、ミハシ」 ミハシは見回すのをやめ、口を開け、大きな目で、驚いたように田島を見た。その様子も、三橋にそっくりだ。 こうして、阿部はミハシを飼うことになった。 この後の話を書くかどうかは、筆者(わたし)のやる気にかかっている――。 後書き タイトルはハ○太郎のパクリです。 筆者が出てきたりと、いろいろめちゃくちゃな点はありますが、お許しを。 種類は、断定してませんが、ゴールデンとかジャンガリアンをイメージしてます。 あとは……あんまり書くことないなぁ。 季節はわざと特定してません。今は新年ですが。 2009.1.2 |