榛名とカグヤン

「カーグヤン♪」
 榛名がご機嫌で名前を呼ぶときは、絶対ほかに裏がある。
「言っとくけど、セックスはしねぇからな」
とオレは答えた。
「ええー?! いいじゃんか。しようよ、しようよ」
 子犬みたいにまとわりついてくる。涙目が意外と――
(可愛い)
「わかったよ。その代わり、家でな」
 つっても、榛名は秘密主義だから、まだオレはコイツの家に入ったことがない。家と言えば、オレの家だ。

 榛名は、オレの上で、腰を動かし、出したり入れたりしている。
 筋トレの甲斐もあってか、しなやかな筋肉がついていた。
 始めてから一時間は経っている。もう三発目だぞ。――いい加減しんどい。
「――くっ!」
 榛名がうめいた。クライマックスも近い。さぁ、ラストスパートだ。
「――タカヤ」
 イク寸前、榛名は、オレの名でない相手の名前を呼んだ。それは、シニア時代のバッテリーの相手だ。

 ヤっているとき、女の名前を呼び間違える、というのはよく聞く話だが、実際に間違われてみると、正直――かなり頭にくる。

「カグヤーン。カグヤン先輩、なに怒ってるんすか?」
「うるさい!」
「タカヤって呼んだこと、まだ怒ってる?」
「怒ってないってば」
「嘘だ。そんな顔して。カグヤン、ひょっとしてジェラシー?」
「バカ」
 オレは手近にあった枕を投げつけた。
 それでも、榛名はこたえない。
「もう一度やりましょうよ。オレ、まだまだし足りないっす」
「一人でマスかいてろよ」
「ひでー! せっかく相手がいるのに、一人上手なんて!」
「――おまえの相手はしんどいんだよ」
「じゃあ、今度は優しくしますから、ね」
 榛名は、尻尾があったらぱたぱたと振っていただろう。そんな表情をしていた。
 しかたない。おあずけの辛さはわかるもんな。幸か不幸か、男だから。実際、したい盛りでもあるし。
 タカヤのことは、とりあえず今回は許してやる。オレには関係ねぇもん。
 大切な思い出なんだろ? その『タカヤ』と言うヤツとのことは。
「……一回だけな」
 こいつも、涼音に失恋したりして、けっこうかわいそうなヤツだからな。
「マジっすか?」
 榛名は目をきらきらさせた。
 あーあ、憎めないヤツなんだよな、っとに。
 この表情を見ることができるのは、多分、オレだけの特権。

後書き
安直なタイトルつけたなぁ、私も。
私の書く榛名とカグヤンの間には、未だに阿部がいるようです。
榛名が子供っぽくなってしまいましたが、原作のはもっとかっこいいです。
2008.11.10


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