榛名元希という男

「今日、オレんち誰もいないんだ。泊ってけよ」
 中一のときだった。
 そう言われて、のこのこついて行ったオレもどうかしていた。
「タカヤ、二階に行かないか? 一緒に寝よう」
 いつになく親切な榛名に、オレもついつい油断してしまった。
 榛名の部屋は、ひどく散らかっていた。
「ベッド、ひとつしかないけど……」
 榛名は床に布団でも敷いて寝るんだろうか。そんなスペースはなさそうだった。
 オレが榛名を気の毒に思っていると、
「タカヤ……」
 榛名がオレの名を呼んで、ベッドに押し倒した。
「な、何を……」
 言いかけたオレの唇を、榛名のそれが塞いだ。
「冗談やめてください! 元希さん!」
 キスから逃れたオレは、必死で諌めた。そう。この頃はまだ榛名を元希さんと呼んでいたのだ。
 ちなみに、オレはタカヤと呼ばれていた。フルネームは阿部隆也。
「オレは、本気だ」
 榛名の眼が、ぎらりと光った。
 それから先のことは、思い出したくもない。
 ただ、オレは、ピストン運動の途中、何度も――

「元希さん! 元希さん――」

と、あいつの名前を呼んでいたっけ。

 今まで男同士での知識のなかったオレは、終わった後、呆然としていた。
 しばらく経って、だんだん正気を取り戻してきたオレは、相手の名前を呼んでみた。
「元希さん――」
「元希でいいよ」
「――元希」
 なんかくすぐったい感じがした。
「タカヤ」
「何?」
「最高だったぜ」
 そう言って、榛名はとっておきの笑みを浮かべた。
 オレはそのとき、嬉しいのと腰が痛いという気持ちが、半々だった。

 もし、あのとき、三橋がいたら――。
 いや、よそう。もしもなんてことは、現実にはないんだ。
 三橋がいたら、絶対榛名と寝なかったかどうかは、永久にわからないんだし。
 それから何回か、オレは榛名と寝た。
 過去は消せないけれど。
 未来は変えていくことができる。
 オレの感情を弄んでと恨んだこともあったけど。
 今なら、榛名の気持もわかる気すんだ。
 三橋。
 それをオレに気づかせてくれたのはオマエだよ。

中学時代の阿部の「元希さん」にうっかり萌えて作った短編です。
おお振りで行為を書いたのは初めてなので、ちょっとどきどきです。
2008.8.12


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