宮森のストレート

 千朶との対戦が終わって――。
「あー。千朶はやっぱりやっぱりすごかったなー」
「そうだな」
「俺達もっとがんばんなきゃな」
 チームメイトの皆が口々に言い合う。
 千朶との練習試合は一年後――。
 一年後、オレ達は千朶に勝てるようになってるだろうか。花井君は千朶みたいにならなれると言ってたけど。実は、オレもそう思う。皆とだったら、なれる。
 まぁ、オレは調子を戻さないとだけど――。例えば投球練習で崩れたコントロールとか。
 いつの間にか皆はいなくなっていた。
「おい、三橋」
「あ、何? 田島君」
「ぼーっとしてた?」
「ああ、ちょっと……」
「何だ。まだそんなとこにいたのか。三橋」
 ――阿部君だ。
「ごめん――」
「皆もう行ったぞ」
「待ってて……くれたの?」
「いや――」
 阿部君は口を手で押さえた。何か言いたいようだった。
 ――何だろう。今までの感じからして怒られるようなことはないと思うんだけど。
 オレ、前より阿部君が怖くなくなってきた。意味もなく怒るようなことを阿部君はしないから。そう考えるのを、信頼って言うんだろうか。阿部君、どうなっても全部付き合うって、言って、くれた。
「投球のことなら心配いらねぇよ。さっきも言ったけど、オレやコーチがついてるから」
「あ……ありがとう!」
 田島君はにやにやしている。
「お前ら、距離近くなったな」
「え……?」
「三橋がコントロール崩れたの、かえって良かったかもな」
 でも、コントロール戻らないと、不安だよ……。
 あ、そうだ。
「田島君、ごめん。オレのせいで、宮森さん、打てなかったよね」
「ああ、それか。いいよ。宮森の球見れたし」
 田島君が猫のように伸びをした。
「けどなぁ……一度体験してみたかったって言うか、打ってみたかったってのはある。お前らが羨ましいぜ」
「そうだな。打つ機会がなくて残念だったな」と、阿部君。
「まぁな。でも、またチャンスはあるんだし、その時には――」
 田島君はバットを振るようなそぶりを見せた。
「三橋、宮森のストレート、どうだった?」
 阿部君が訊いてくる。
「い、今のオレには、投げられない球だ、と思った」
「あー、そうだな」
「でも、ああ、投げられたら、いい気持ちだったろうな、と、思う」
「うん」
「おう。今度はオレ、宮森のストレート、絶対打ってやっかんな」
 田島君がオレの肩を抱いた。田島君は、オレの面倒をいつも、見てくれる。阿部君も、そうだ。――田島君が、オレを放してくれた。
「後で皆にもどうだったか訊いてこようっと」
「さっきも、モモカンに、訊かれてた、と思うけど」
「他に何か感想あるかもしれねーじゃん」
「なるほど。そうだな」
 宮森さんのストレート、急に、消えた。
 まるで、魔球のようだ。
 オレのは、あんなじゃない。阿部君だって、一番のストレートだって言ってたし。
 あんな球を打つ人がいるチームでも、甲子園では優勝できない。
 何が足りないんだろう。オレ達と千朶と。
 そう言えば、花井君、田島君とオレは千朶でも見劣りしないって言ってくれた。オレ、コントロール崩れたのに。
 ホントは、コントロールガタガタで、悔しかった。
 早く、コントロール戻さないと。皆に、迷惑、かけてしまう。
 でも、皆は――。
 オレのこと、評価してくれた。このままでいいなんて勿論思わないけど……少し、ほっとした。
 野球を楽しめって、阿部君も言ってくれた。
「あ、阿部君……」
 怒らないでくれてありがとうって言うのは、変かな。あ、でも、怒られたこともあったか。
「オレと、バッテリーになってくれて、ありがとう」
 阿部君とも通じ合うものができたように思えたし。阿部君の顔が赤くなった――ような気がした。
「お、おう……」
 阿部君、どうしたんだろう。狼狽えてる。オレ、変なこと、言ったかな。
「阿部は三橋の直球に慣れてないんだよ」
 と、田島君。
 オレ、今、ボール投げてないよね。てことは――。
「オレが言ったことが、直球なの?」
「そう! 心臓にど真ん中!」
 田島君はオレを指差した。
「あ、あの……ごめん。コントロール、崩れて、オレ、力ないのかって、自分が、情けなかったけど、阿部君のおかげで、楽に、なった」
「お、おう……だって、あの時オレ、負けそうだったのに楽しかったんだよ。お前と野球できたから。お前の調子のことについては気になってたけどな……。今度はもっと楽しめるよな」
「うん!」
「田島もいるしな」
「オレにまで気ぃ使わなくていーよ。阿部」
 オレ、先に行ってんな、と阿部君はきびきびと歩いて去っていく。かっこいいなぁ……。阿部君の後姿に見惚れていると、田島君にとんとんと肩を叩かれた。田島君がこう言う。
「なぁ、三橋、質問があんだけど――宮森のストレートみたいな球、投げたい?」
「うーん……」
 投げたくないといえば、嘘になる。――さっき阿部君には言い損ねたけど。
「投げ、たい」
「でも、それだけじゃ千朶に負けるぞ」
「うっ……」
「オレ達は千朶を越えなきゃなんねんだからな! お前も宮森を越えろよ!」
「わかった……」
 後でモモカンや阿部君と相談して決めよう。
 こんなこと、昔はなかった。自分で組立てて、自分で投球しなければならなかったから――。
 オレには、仲間ができたんだ。

 皆が集まっている。話題と言えば当然、宮森さんのストレート。
「あんな球がこの世にあるなんて知らなかったよ」
「オレ、監督の言う通りうっとり見つめちゃってさぁ……」
「いいなぁ。打てなくてもいいから体験してみたかった」
 そう――まさしく体験。そう呼ぶしか、なかった。
 その体験をできたオレは幸運だったと思う。次に、生かせるから。
 オレ、宮森さんに、勝ち、たい。
 そう思えるようになったのは、やっぱりメントレの効果、なんだろうか――。
 オレ、打撃は苦手だけど、宮森さんのストレート打ちたいっていう、田島君の気持ちがわかったような気がした。
 今度こそ、オレも打ちたい!

後書き
おお振り26巻のその後です。アフタヌーン読んでないから想像ですが。
宮森のストレートについては私はまだよくわかっていません(それなのにタイトルにするって……)。
ちょっとアベミハ、タジミハ(?)要素ありです。タジミハは友情関係だと思いますが。
このお話はおお振りファンの山之辺黄菜里さんとmaririnさんに捧げます。
2016.2.29

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