阿部隆也より愛を込めて

 三橋廉のスマホに阿部隆也から連絡が届いた。
『クリスマスプレゼント、何が欲しい?』
 三橋は飛び上がらんばかりに喜んだ。
 ――クリスマスプレゼントって、阿部君が、俺に……!
 あまりに嬉しくて何が欲しいのかわからなかった。
 そこで、三橋は阿部に返信した。
『阿部君が、くれる、ものだったら、何でも、いいよ』
 ――待つこと数分。
『お前も俺のスマホに連絡くれるようになったんだな……でも、何でもいいが一番困るんだよ』
 う……。俺、阿部君を怒らせた。
 確かに何でもいいは困るかもしれない。適当に選んでくれ、ということなのだろうか。 そういえば――
(阿部君の誕生日、もうすぐだったっけ――クリスマスプレゼントを兼ねて、と言ったら、怒るかなぁ)
 昔、十二月生まれの友人がこう言っていた。
「俺、誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントが一緒なんだよ。やんなっちゃうよなぁ。一緒にされちゃって」
 その気持ちは三橋にもわかるような気がした。
 阿部君も、きっとそうなんだな――。
 三橋は、自分は本当に何でもいいのだが、阿部には阿部の欲しい物を贈ろうと思った。そこで、訊いてみた。
『阿部君は、何が、欲しい?』
 返信はすぐに届いた。
『おまえ』
 三橋の身ぬちがかっとなった。
 お、俺も、阿部君欲しいかも……。
 また阿部からメールが届いた。
『ま、それは冗談だけどよ。適当なモン見繕ってやっから待ってな』
 冗談だったんだ――三橋はしおしおと自分の元気がなくなって行くのがわかった。

 十二月二十五日――。
 阿部と甘い夜を過ごした後帰って来た三橋を母が呼び止めた。
「廉、阿部さんから荷物が届いてるわよ」
「荷物……?」
「クリスマスプレゼントじゃないかしらねぇ。私達ももう送ったけど」
 阿部の誕生日兼クリスマスプレゼント。三橋は阿部からのリクエストの野球帽、三橋母は三橋の好きな焼きまんじゅうを贈った。
「廉も好きだから、阿部君も喜んでくれるといいんだけどねぇ」
 と三橋母は言いながら。

 三橋は取り敢えず届いた荷物を運んで行って開けてみる。しっかりと梱包されていた。
 出て来た物を見て、三橋は首を傾げた。
「?」
 ピンク色の棒状の物にそこかしこに小さな突起がついている。リモコンスイッチみたいな物もある。スイッチを入れるとそれは動き出した。
 それは俗に言う大人の玩具だったが、三橋にはわからなかった。少なくとも野球道具ではないな、ということぐらいはわかったが。
「何だろう、これ」
 メッセージカードも添えられていた、そこには、
『クリスマスおめでとう。愛を込めて。阿部隆也』
 と書かれていた。
 愛を込められるのは嬉しいけれど、何なのかわからなければ仕方がない。三橋は誰かに訊くことにした。
「お母さん、お母さん」
「どうしたの? 廉」
「これ、何?」
 そう言って大人の玩具を差し出された母は絶句した。三橋は悪いことしたかな、と思った。
「こ、これ……誰から贈られたの?」
 母はぷるぷる体を震わせている。笑っていたのだが、三橋には怒りを堪えているように見えた。
「お母さん……怒ってる?」
「怒ってるわけじゃないけど……廉にこんなの送ってくる人がいるなんて、ねぇ」
「阿部君からもらった」
 母の怒りを鎮めようとして三橋が言った。
「まぁ、これはちょっと……廉がもっと大きくなったら使いなさい。それまでお母さんが預かっておくわね」
「うん……」
 せっかく阿部からのクリスマスプレゼントだったのに――三橋はしょげたが、三橋にすら何なのかわからないものでは仕方がない。三橋はがっかりしながらも大人しく従った。

 部屋へ戻ると阿部から電話があった。
「おう。三橋。メリークリスマス!」
 それは阿部がベッドの中でも低く囁いた言葉だった。それを思い出した三橋の背筋に甘い電流が走った。
「あ、阿部君、クリスマスおめでとう」
「どうだ? 荷物、届いたか?」
「……うん、届いたよ」
「どうだ? 使ってみたか? あれ」
「使って――?」
「バイブだよ。バ・イ・ブ。調子はどうだ?」
「あ、あれ……お母さんが持ってる」
「はぁ?!」
 阿部が大声を出したので三橋はびっくりした。
「お前のお袋が持ってるってどういうことだよ。中身、開けたのか?!」
「開けたのは、俺、だよ。でも、どう使うかわかんなかったから、お母さんに訊いてみた」
「お・ま・え・な~!!!」
 阿部は怒っているようだ。三橋は何か阿部に酷いこと言ったかな、と考えを巡らせる。
「お前、バイブ知らねぇの?」
「う……うん……。でも、プレゼントありがとう」
「ありがとうってな……お前が使ってくんなきゃ意味ねぇんだよ」
「カードに『愛を込めて』って書いてくれたの、嬉しかった……」
「……はぁ」
 阿部は疲れたように嘆息した。
「お袋さん、さぞかしびっくりしただろうな。いいか。あれは大人の玩具だ」
「玩具……?」
「てめぇが寂しい時にケツの穴に突っ込むんだよ」
「あ、それならわかる」
「ったく……絶対返してもらえないぜ。それ」
「でも、一応言ってみる……阿部君からのだから返してって」
「いやいや、いい、いい。返してもらえないのは目に見えてるからな」
「でも、言ってみる」
 こうなると三橋は頑固だ。
 三橋は母に、『阿部君からのプレゼント返して』と言った。案に相違して母はすんなり返してくれた。

「あ――阿部君……」
 三橋は阿部に電話をしてみる。
「どうだ三橋。返してもらったか?」
「返してもらった――使ってもみたよ」
「どうだった?」
「うん……あのね……やっぱり阿部君の方が、気持ち、いい……」
「俺はバイブ代わりかよ」
 そう憎まれ口は叩いたが、阿部も満更ではなさそうだということを三橋は何となく声の調子で感じていた。三橋がそうだといいな、と思っていたからかもしれないが。

後書き
ちょっぴりアダルトな阿部誕小説です。主人公は三橋ですが。
このお話のアイディアは黄菜里さんとのメールのやり取りでできました。
小説はアベミハファンの山之辺黄菜里さんとmaririnさんに贈ります。それから黄菜里さん、昨日は誕生日おめでとうございます。
2015.12.11

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