その人を初めて見たとき、デジャヴュかと思った。

 それ程までに、その人は、タカヤに似ていた。

きっと忘れない

「加具山先輩」
 その人は、加具山直人と言った。2年生だ。
「なんだ? 1年」
「――オレ、榛名元希って名前があんすけど」
「ああ、そうかよ、1年」
 ちょっと生意気なところも、背丈も、中学時代、シニアでバッテリー組んでたタカヤに似ていた。
 まぁ、態度でかいのは、一応先輩だから、許してやっているけれども。
 うーん、やっぱり昔のタカヤに似ているなぁ……。
 短い髪も、くりくりした大きな目も。
 タカヤ、あいつどうしているかなぁ、なんてことまで頭に浮かぶ。

 ――先輩が『野球辞める』って聞いたときは、マジ驚いた。
 そして、ブチ切れた。
 先輩が野球嫌いなはずがない!
 先輩は、自分を知らないだけだ!
 オレの中2のときみたく、一時的な感情でヤケクソになってるだけなんだ――。
 
 オレ、先輩に野球辞めて欲しくない!

 そのオレの感情には、昔のタカヤに対する感情とは、また違うものが混じっていたのかもしれない。
 とにかく、オレも意地だった。
 先輩を止められるのは、オレしかいない!

 マネージャーの宮下先輩にも手伝ってもらって、加具山先輩と勝負することにした。50m走で。
 そのとき、オレはちょっと策を用いた。プラシーボ効果ってやつを利用して。
 先輩は、まだまだ早く走れるはずだから。そう信じて。

 結果は――俺の読みの通りだった。

「加具山先輩」
「なんだよ――榛名」
「今日、昼飯おごらせてください。昨日嘘ついたお詫びに」
「へぇー、殊勝なとこあんじゃん」
 そう言った後、加具山先輩は、俯いて、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
「――昨日のことはオレの方が礼を言いたいくらいだよ」
 先輩の礼は、オレを嬉しくさせた。
 タカヤも、オレの言い分が正しければ、素直に負けを認めたっけ。
 やっぱり似てんのかもな。この二人。
「いいんすよ。先輩が野球好きなこと、わかっただけでも」
 それから――オレにもわかったことがひとつだけある。
「あ、でも、せっかくだから、飯はおごってもらうからな」
 先輩のこの台詞は、照れ隠しだろう。こんなところもタカヤに似てる……かな?
 いや、もう先輩とタカヤを比べたりしない。
 好きになったきっかけは、タカヤにそっくりだったからだけど――今のオレが好きなのは、宮下先輩でも、タカヤでもなく、加具山先輩だってことがわかった。

 いつか、オレの記憶の中で、加具山先輩も、タカヤも薄れて行ったとしても――
 この瞬間は永遠に留まるだろう。

後書き
昔の阿部と加具山が似ていると言うだけで、書きました。矛盾だらけですね、内容。
もっと詰め込みたかったんですが、あまり長編向きではないんですよね……私(だから、後書きもいつも短い)。
『きっと忘れない』というタイトルは、今はなきZARDの曲から取りました。好きなんですよ。この歌。
2008.8.2

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