花井とモモカンの同窓会

 ああ、遅くなっちゃった。今日はバイトがあったから……。せっかくの同窓会に遅刻してしまった。私は西浦高校野球部のカントクなのに。――私は会場に飛び込んだ。
「みんなー、遅くなってごめーん」
 はぁはぁとちょっと肩で息をしながら私が言う。
「モモカーン!」
 みんながわっと集まる。かつての西浦ナイン。今はもう大学生。
 私の名前は百枝まりあだから、みんな私のことをモモカンって呼んでるの。
「三橋、モモカンだぞ。モモカン」
 田島君が三橋君に声をかける。みんな大人になったけど――変わらないわねぇ。田島君と三橋くんは。
「うっ、えっ、モモカン?」
 三橋君は食べ物を頬張りながら喋る。
「モモカン、久しぶりー」
「久しぶりね、田島君」
 ……あら? 一人見たことのない人が混じってるわね。えーと……もしかして。
「花井ー! モモカン来たよー」
 ええっ?! やっぱり花井君?! 花井梓君なの?!
「モモカン!」
 花井君が私を見て明るい顔になった、と思ったのは気のせいかしら。
「花井君! 一瞬誰だかわからなかったわ!」
 黒いウェーブがかった髪。花井君はハンサムに育っていた。きっと大学でもモテるだろう。
「やっぱり、花井ってわかんなかったか、モモカンも。オレも誰だかわかんなかったよ。髪があるもんな」
「うっせ。田島」
 花井君が田島君にチョップをする。
「オレはハゲなわけじゃねぇと何度言ったらわかるんだ!」
「えー、だって、ねぇ……」
 うーん。田島君の言いたいことはわかるかな。私も花井君といえばあの坊主頭しか思い浮かばなかったから。
 でも、こうして見ると、本当に花井君、かっこよくなった。
 花井君は田島君とじゃれ合っている。こういうところは本当に昔のままなのにな。
「モモカンは変わんないなー、胸がデカいところも」
「田島君……」
 私はつい苦笑いをしてしまった。田島君は昔通りね。野生児なのに何となく人を和ますところも。花井君が言った。
「こら田島。モモカンに失礼なこと言うな」
「えっ、失礼だった? モモカンごめん」
 田島君は謝った。
「いいのよ、田島君」
 だって、田島君てそういうキャラだもんねぇ。
「三橋、あんまり食い過ぎんなよ」
 阿部君が三橋君に注意してる。
「えっ、だって、こんなにご馳走……」
「お前は家でも食ってんじゃねぇか? ……まぁいいや。お前大食いな割に体重ねぇもんな。縦には育ったけど」
 そうねぇ。三橋君は背伸びたわね。
「三橋、オレも気持ちわかるぜ! タッパー持ってきたんだぜ、オレ。家族に食べさせてやりたくってさぁ」
 田島君は相変わらず家族に優しい。西浦に来たのも、ひいおじいさんが倒れて心配だったから――と言うのも聞いたことがある。
「花井ー。うち大家族だから少し分けてくれー」
「冗談言うな!」
「一品だけでいいからさー」
「わかったほらよ」
「ありがとー」
「田島君、これも持っていく?」
「これもやるよ」
「みんな……ありがとー!」
 かつてのチームメイト達がわらわらと田島君のところに集まって行く。田島君には何かそういう、人を惹きつける磁力みたいなものがある。
「モモカン。同窓会が終わったら、近くのファミレスに寄りません? オレ、いろいろと話したいことがあるんで」
 花井君が近づいてそっと囁く。
「いいわよ」
 私が答える。
 田島君はじっと見ていたが、何も言わなかった。
 ――そうなんだよね。田島君て、こういう時は何も言わないんだよね。助かるところもあるんだけど……。
 あらやだ。私ってば。花井君とちょっと喋っただけなのに、田島君が何も言わないのが助かるって……。
「三橋にもあげる?」
 栄口君が三橋君に訊く。
「ありがとう、栄口、くん。でも、もう、いいよ」
 そうだねぇ……三橋君はこういう風に独特な喋り方をするんだよね。結構可愛いなとか、あまり変わらないな、とか思ったりするけど。
「じゃあ、田島にやるね」
「わーい、サンキュー、栄口!」
 同窓会はとても賑わっていた。田島君の活躍(?)もあったからかもしれない。
 私はちょっとお酒を飲んでほろ酔い気分だった。
「じゃあ、私はこれで。志賀先生、ありがとうございました」
「ああ、久しぶりで楽しかったね」
 田島君はまだはしゃいでいる。みんなもそれを受け入れているみたい。変わらない、西浦ナイン。
「オレもこれで」
 花井君がついてきた。ファミレスで話すって言ってたもんね。
 どきどきどき。
 心臓が鼓動を打つ。どうしたのかしらねぇ、私。花井君と話するだけなのに……。
 さては、私も恋かな。花井君に――。
 花井君は随分変わった。真面目そうなところは昔通りだけど。彼を意識するようになったのはやっぱり髪型のせいかしら。
 そういえば、花井君の妹も可愛かったわね。美形家族なのかしら。
「着いたぜ、モモカン」
 花井君はバイクでファミレスまで送ってくれた。
「あ……ありがとう。――花井君?」
「何すか?」
「かっこよくなったね」
「え……あ、ども……」
 花井君も動揺しているみたい。――取り敢えず私達は店に入った。
「花井君は相変わらず田島君と仲いいのねぇ」
「仲いいっていうか――あいつと話してっと退屈しないし。それに、あいつはオレのライバルでもあるし」
「会ったのは同窓会が久しぶり?」
「そうっすね。メールのやり取りはしてるけど。三橋と阿部も仲良くなってたのには驚いたっすね」
「三橋君と阿部君て、同じ大学だっけ?」
「じゃなかったかなぁ」
 花井君はスパゲティーナポリタンやグラタンを口に運ぶ。惚れ惚れするような食べっぷりねぇ。やはり男の子だわ。
「花井君は美味しそうに食べるわね」
 オニオンスープを口に運びながら私が言う。
「そうかな。だって実際旨いから。ここ。――モモカン、確かに変わりませんね」
「まぁ、あまり変わった自覚はないわね」
「独身でしたっけ?」
「独身よ」
「じゃあ……」
 花井君は何かを言いかけて、まぁいいや、と取り消した。花井君の言いたいことは、私にはわかったような気がした。
 花井君、真面目もいいけど男は押しも肝腎よ。
 今日はもう遅いから、明日、花井君にメールを送ろう。今回は花井君がおごってくれるって言うから、次回は私がご馳走しよう、と思っていた。

後書き
花モモです。
この話はメールのやり取りをしていた山之辺黄菜里さんのアイディアを基に書きました。
黄菜里さん、ありがとうございます。この話は黄菜里さんに捧げます。
2015.5.30

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