クリスマスプレゼント

 クリスマス・イブ。華やかに着飾った男女がイルミネーションに飾られた街を歩く時――。
 オレ、阿部隆也は人を待っている。
(ちっ、三十分も早く来ちまったぜ)
 タカ、デートの時は遅くとも十分前にはついてなきゃだめよ、とお袋は言っていたが。
 待ってる途中、逆ナンされた。悪いけど、と断った。
 ちょっと踏める顔立ちの女だったが、オレにとっては三橋の方が可愛い。
 三橋。三橋廉。オレの大切なパートナーだ。野球でバッテリーを組んでいたが、同じ男だから、人生のパートナーになるのは難しいかな。けど、オレは負けねぇ。
 と、話が逸れた。
 今日は三橋にプレゼントを渡して、ちょいとデートとしゃれこもうってわけさ。
 ぱたぱたと駆けてくる人影がある。ふわふわの色素の薄い髪。
「三橋!」
 オレは叫んだ。さぞかし喜色満面だったことだろう。
「あ、あべ、くん!」
 三橋は寒い空気を吸い込んだようで息を整える。
「待った?」
「んにゃ、今来たとこ」
 と、オレは嘘をついた。
「オレ、遅くなった? ごめん」
 三橋の言葉にオレは何も答えずにふっと笑った。
 ――馬鹿だな。三橋。オレはおまえが来るまでずーっと待ってるつもりだったさ。
 だから、謝るなよ。
「行こうぜ。この先にでかいクリスマスツリーがあるだろ?」
 クリスマスツリーは本当にでかかった。今日は自分が主役とばかり、光で覆われている。飾りも勿論たくさんあった。
「わぁ……すごい、ね」
 三橋が感嘆の声を上げる。オレも悪い気はしない。
「そうだな」
「綺麗、だね」
 三橋の方が綺麗さ――そう言いかけて、やめた。
 ツリーの飾りはぴかぴか輝いている。
「あ、そうだ。三橋」
 何気なさを装って――。
 オレは鞄からプレゼント用の包みに入った贈り物を取り出した。
「ハッピーメリークリスマス、三橋!」
「あ、ありがとう。阿部君」
 そう言って三橋はにっこり笑う。ああ、天使の笑みだな。三橋もよく笑うようになった。
 昔は三橋も、よく笑う子供だったんだそうな。
「開けてみ」
「うん」
 それは、ちょっと高級な赤い手袋だった。
「暇な時はそれして。大切な手なんだからあっためねぇとな」
 オレは、ちょっと自分が口うるさい世話焼きになったような気がした。田島あたりだと、阿部は口うるさいなんてもんじゃねーだろー、と笑うだろう。
 ――なんか映像が浮かんできた。散れ散れッ!
「ありがとう。大切に、するね」
 三橋は早速、手袋をはめた。
「おー、ぴったしじゃん」
「……ウヒ」
 三橋が照れ笑いする。ちょっとキモいけど、そこが可愛い……。
 オレも末期だな。
「オレも、阿部君に、プレゼント、あるよ」
「何だ?」
「はい」
 オレも三橋から包みをもらう。
「サンキュ。開けていい?」
「うん」
 包みから出てきたのは、赤いマフラーだった。手触りがいい。
「ありがとな、三橋」
「よ……良かった」
 でも、奇しくも同じ赤のプレゼントだったとは――。やはりオレ達は思考回路が似ているんだろうか。
 前は三橋を理解してやれなくてイライラしたが、この頃はやっと、意志の疎通が図れるようになった。
 オレ達、三年はもう、西浦高校野球部を引退した。まぁ、引退してなかったとしても、クリスマスイブはオフだったが。
「三橋、大学でも野球、がんばろうな」
「うん!」
 三橋は目をきらきらさせて頷いた。その様はハムスターとかの小動物を思わせる。
 そういえば、オレ、ハムスター飼ってたんだよな。名前はミハシ。
 と、それはさておき。
「んじゃ、ちょっと歩くか。街もいつもと違うねぇ」
「うん、でも、オレ、正月も好き。クリスマスも好きだけど」
「正月かぁ……年賀状の宛名書きは大変なんだよな」
「……プリンターは?」
「壊れた。正月までに直っているといいけど」
 だが、正月のことを話題にしたって仕方がない。
 どこからか、ジングルベルの歌が聞こえてくる。巨大なサンタの看板があった。クリスマスが終わったら、あれどうすんだろう。
「ねぇ、阿部君。オレ、嬉しい」
「何が?」
「阿部君と、一緒に、いられる、ことが、嬉しい」
「――オレもだよ。三橋」
 かーっ。この口調、我ながらキッザー!
 他の奴らがいなくてよかった。いれば必ずからかわれるからな。
「ずっと、一緒に、いようね」
「ああ……」
 それはオレの台詞だぜ。三橋。オレのお株を取んなっての。
 他の元チームメイトの奴らは、今どうしているだろうか。
 幸せになったオレはそんなことを考える。
 どうして今の幸せに浸れないのだろう。わりぃ、三橋。こいつはきっと性分なんだ。
「みんな、どうしているかな」
 何だ。三橋も気になってたのか。
「んー。勉強は一時棚上げしてクリスマスとか祝ってるんじゃね?」
「そう、だね」
「オレ達もどっか行くか。いい店知ってんだ。予約制とかじゃないから、多分今からでも大丈夫だと思う」
 それは、ファミレスよりほんの少し垢抜けたレストランだった。
 オレはコートの下はダブルのスーツ。三橋もスーツなので、浮いている感じはしないだろう。
 そこはいい感じの店である。運ばれた料理を口に入れながら、BGMに聞き入る。
 三橋とだと、いつまでもだんまりでもいいような気がした。前は、何か喋らなきゃと、焦っていたが。
「阿部君、何も、話さないで、退屈、じゃない?」
「何で? オレはおまえといることができればそれでいいよ。なんだ。おまえ、退屈だったのか?」
「そうじゃないけど……かえって、喋らない方が、ドキドキできて、好きだ」
 好き……か。オレの心臓の鼓動がうるさい。
「阿部君、オレとじゃ、つまんないかな、と思って」
「そんなことねぇよ。おまえといる時間が一番のプレゼントだぜ」
 ――オレもよく言うぜ。でも、事実なんだから仕様がない。な、三橋。

後書き
これはクリスマスのお話ですが、阿部の誕生日と同じ月なんで阿部君ハピバ小説だと主張してみる(笑)。高校三年生の阿部達です。
ちなみに三橋は阿部の誕生日にもプレゼントを贈っています。それが何なのかはご想像にお任せします。
阿部君、ハッピーバースデイ&メリークリスマス!
この小説はアベミハファンの山之辺黄菜里さんとmaririnさんにお贈りします。
2014.12.11

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