花言葉

 んー、どうしようかなー。何にしたらいいんだろ。
 オレは三橋の誕生会へ行く道々考えていた。
 三橋の誕生会は三橋の家でやる。三橋の家は結構広い。野球部の面々の恒例行事になりつつある。
 ――今年は篠岡も来るんだったな。
 我が野球部の敏腕マネージャー、篠岡。男子の憧れの的で、密かに恋しているヤツも多いと聞く。
 篠岡はオレも好きだが、三橋のことはもっと好きだ。
 バッテリーを組んでいる相手に恋をするとは……倒錯的だな、オレ。
 ま、いいや。
 んで、その三橋の誕生日、プレゼントがまだ決まってない。
 ボールは消耗品だろうが、今更って感じだし、グローブは誰か持ってきそうだしな……。
 ――歩いていたオレの足が止まる。
「花か……」
「いらっしゃいませー」
「あ、あの……」
 花屋のおば……いや、おねーさんに声をかけられて、オレはつい花を買ってしまった。
 黄色い薔薇の花束。
 花屋のおねーさんに、
「友人にあげる花束なんです」
 と言ったら、相手はこれを勧めてきた。
 三橋のヤツ、花にアレルギーなんか持ってねぇよな……。
 大丈夫だよな。気は弱いけど、体は丈夫なヤツだし。
 三橋家に着くと、田島が出迎えてくれた。
 何で田島が――とツッコむ気力もこっちは失せている。
「やっほー、阿部。わ、すげぇ。薔薇の花束だ。きっざー」
「うるせぇ」
「おーい。どうしたー、田島……ぷっ」
 奥から出てきた花井が吹き出した。一体何だっていうんだろう。
「何がおかしい」
「だって……オマエ、その花……」
「オレが花持ってちゃおかしいか」
「似合わねぇんだよ。鏡見てみな――まぁ、赤い薔薇でないのが救いだがな」
「そうそう。花井の言う通り」
 んだよ、二人して。
 オレがくさっていると、ようやく主役が登場した。
「阿部君!」
 オレの姿を見つけて駆け出す。小動物みてぇだ。
「……これ、お誕生日おめでとう」
 オレがそっぽを向きながら三橋に押し付けるように花束を渡す。
「うわー、綺麗な薔薇。ありがとう、阿部君!」
 田島と花井が同時に笑い出した。
「んだよ、てめぇら」
 今度はぎろり、と睨んでやった。
「だって……恥じらう阿部なんて貴重だもん!」
「笑っちゃ悪いぞ、田島。恥じらう権利くらい誰だってある」
「わーっはっはっはっ」
 田島は花井の肩を叩いている。
「あー、なんか盛り上がってるなー。どうしたの?」
 そう呼びかけたのは水谷。クソレの通称が世間的に有名になったのは決してオレのせいじゃない。不憫なヤツだが同情する気は起きない。
「水谷ー、阿部のヤツ、薔薇の花束持ってきてよー」
「ええっ?! 信じらんないッ!」
 水谷はしなを作る。オマエはオカマか。
「黄色い花束の花言葉は、確か『嫉妬』というんだったな」
「嘘だろー、花井」
「そうか、それほど阿部は篠岡のことを好きだったってわけか」
 オレを差し置いて花井と水谷と田島は話を進める。
「違うか。阿部が篠岡に妬いてんだ」
 田島が言う。……まぁ、その通りだから文句も言えない。しかし、カン鋭過ぎだろうが。
「あ、あの……」
 そばで固まっていた三橋が声を出す。オレ達は一斉に三橋を見る。三橋はオレ達の注視を浴びてどもりながら、話す。
「オレの、聞いた、花言葉は、黄色い薔薇は、『友情』っていうんだよ」
 そっか。だから花屋のおねーさん、オレに黄色い薔薇の花束を作って渡したんだな。
 途端にオレは嬉しくなった。三橋はオレの心を知っている。それだけで充分だ。
「ああ。『友情』だったらわかるな。オレの聞いた話とは違うけど」
「えー、一体どっちなんだよー」
「まぁ、待てよ、オレ、スマホ持ってるもんね。これで調べればいいと思うんだけど」
 ちゃららちゃっちゃら~♪と歌いながら、田島は玄関に置いていた自分の鞄からスマートフォンを取り出した。
「おお。さすがたじえもん!」
「よせよ、水谷ー。んじゃ、早速」
 田島はスマホで薔薇の花言葉を検索し始める。かなりの数がヒットする。
「どれどれ」
 オレ達は画面を覗き込む。いろいろな花言葉が並んでいる。
「お~、『友情』あった!」
「『嫉妬』もあるぜ、ほら」
「『愛情の薄らぎ』なんてものもあるぞ~! 三橋、阿部の愛情が薄くなったらオレが拾ってやっかんな」
「田島!」
 オレの愛情が薄らぐなんてあり得ない。むしろ、想いは募るばかり……って昔聴いた歌にあったな。
「あー、見て見て」
「んだよ、今度は」
「薔薇ってさ、108本なら結婚してくださいって意味なんだってさ」
「へぇー、そうなんだー」
 水谷が感心している。
「水谷もさ、篠岡に贈ったら?」
「えっ?! たったったっ、田島っ?!」
 水谷の声が裏返る。
 こいつも篠岡好きだったのか? もしかして。
「まぁ、水谷はなぁ、まずは一本目から始めないと」
「一目惚れか……うん、いいかもな」
 花井がうんうんと頷いている。
「花井だって他人事じゃねんだぞ。モモカンに贈ってやったら?」
「あれは一目惚れじゃなくて、ただ単にびっくりしただけだから!」
「阿部も今度は三橋に赤い薔薇108本贈れよー」
「でも、三橋が受け取らないんじゃ……」
 だよなー、野郎からプロポーズされても嬉しくねぇよなー。
「お、オレ……阿部君からの、花だったら、全部、受け取るよ!」
 三橋がおどおどしながらも囁くように言う。その様が可愛くて愛しくて――。
 オレの頭の中に歓喜の光が点った。神よ……。
「みんなー、準備できたよー」
「あ、わりぃ、篠岡」
 篠岡、三橋のおばさんの手伝いでもしてたのかな。いい子だ。水谷には勿体ねぇな。三橋がいなかったら、オレだって惚れてたかもしれねぇ。
 ――来年の誕生日には、108本の赤い薔薇の花束を三橋に贈ろう。ちなみに赤い薔薇には『愛情』という花言葉があるらしい。

後書き
実際にスマホで調べてみました。三橋誕生日おめでとう! ミハ誕本番ですねv
この小説は山之辺黄菜里さんに捧げます。
2014.5.17

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