――山之辺黄菜里さんへ

何よりの贈り物

 今日は、オレの誕生日。誕生日なんて忘れてたけど、起きがけの、
「兄ちゃん、誕生日おめでとう!」
 とのシュンの言葉で、思い出したのだ。
「おはよう、タカ。今日誕生日よね。母さん、腕によりをかけてご馳走作るからね」
 お袋が腕をまくって見せる。
 いつも、オレの誕生日の時よりシュンの誕生日の時の方が豪華なような気がするけど、気のせいかなー……。
 ま、お袋はシュンにラブラブだからな。オレだって、今更お袋にべたべたされても困るもんなー。
「今年は友達と誕生会やんないの?」
「おう……みんな追い込みだもんな」
 そう。オレ達は受験生。過去のような賑やかだった誕生会は開かれないだろう。
 オレと三橋はスポーツ推薦が決まっていたけれど。
 花井からのメール。
『すまん、阿部。今日の誕生会、何か参加するの無理っぽいわ』
 そうだろうなー。特に花井なんてレベルのすげぇ高い大学に入学する予定だからな。
 その代わり……。
 元野球部の皆から誕生日おめでとうメールが一斉に届いた。後輩からも。
 田島からもこんな文が届いた。
『阿部。今日、篠岡がケーキ作ってくれるってよ』
 篠岡はうちの野球部の元マネージャー。
 篠岡、料理とかお菓子作りとかうめぇんだよな……。
 受験勉強の合間によくやるもんだという気持ちと、ありがてぇという気持ちとが同時に湧き起る。
 会ったらお礼言っとくか。
 水谷の時もケーキ作ってやるんだろうか。篠岡は。まぁ、どうでもいいけど。
 クソレこと水谷は篠岡が好きらしい。オレ、水谷はちょっと苦手だけど(どう接していいかわからない為)、篠岡と幸せになって欲しいもんだと思う。
 何故こんなことをだらだらと考えているかというと……。
 ――あいつからのメールがまだ来ない。
 三橋。
 今日はオレの誕生日だかんな。シュンの一言で思い出したんだけど。
 家族に祝われるのは嬉しいけど、まぁ、どうでもよい。
 でも、三橋は。三橋にだけは誕生日を祝ってもらいたい。
 勝手だよなぁ。オレって。自分自身ですら忘れてたもんな。誕生日なんて。
 それに、まぁ、三橋だもんな。思い通りにならなくて当たり前だよな。
 ……淋しくなんて、ねぇからな……淋しいのは、ちょっとだけだかんな……。
 鞄に入っていたスマホを取り出して、
『アホ三橋』
 と書いて消した。

 学校に着くと、田島が駆け寄ってきた。寒い中でも元気なやっちゃ。廊下を走るな、という注意がわからないんだろうか。
「どーん」
「いきなり抱き着いてくんな。気色悪い」
「へへっ、誕生日おめでとう」
 田島はストレートでいいなぁ。三橋もこんくらいストレートだったらな。
 でも、三橋の行動の読めなさも三橋の魅力のひとつだもんな。
「おい、田島。阿部が嫌がってんぞ」
「ははっ、わりぃわりぃ」
 田島がオレから離れてにかっと笑う。そして箱を渡した。
「これ、旨いプロテインな。オマエにやるよ」
 田島の心遣いがありがたい。
 そういや、田島もスポーツ推薦が決まったんだっけ。そして、三橋はオレと、同じ大学に進むことがほぼ決定している。田島とは違う学校だが。
「花井は一般だったな。受験」
「ああ、推薦落ちたからな」
「がんばれよ、花井」
「お、おう……」
 田島に励まされて、花井はちょっと嬉しそうだった。
 いいよな。ああいうの。
 花井はモモカンが好きで、少しでも近づきたいと思っているようだ。オレも応援するのにやぶさかではない。素直に偉いと思う。
 田島のおかげで、なんとなく元野球部のメンバーの人間関係というか、相関図がわかってきた。
 花井は大学へ行っても、野球を続けるそうだ。入学時にはあんなに野球を馬鹿にしていたくせに、結局野球に魅せられてしまったようだ。
 花井が野球部のキャプテンになるなんて思いもしなかったけど。西浦の名キャプテンとして既に全国に名を馳せている。
 それは入学したばかりの時、花井との三打席勝負にオレ達が、いや、オレと三橋が花井を仰天させたからだが。――いや、あれは三橋の功績と言っていい。
 三橋の”まっすぐ”にオレは惹かれた。
 それから、三橋自身にも。
 オレはつい、溜息を吐いてしまった。
 足ががくがくする。くそっ、どうしたってんだ。
 三橋からメールがもらえなかったというだけで……。
 結局、放課後まで三橋に会えなかった。
 あいつのことだから、オレの誕生日なんて忘れているんだろうな……。
 辛くなんかねぇ、辛くなんか……。
「阿部君」
 三橋の声だ。心臓がぎょくんとなった。
「篠岡さん、呼んでるよ。みんなも、待ってるって。花井君も、ちょっと、だけなら、参加、するって」
「あ、ああ……」
 そういえば、ケーキ作ってるって田島から聞いてたな。忘れてた。
 せっかくオレの為にケーキ作ってくれたのに、オレも結構薄情なんだな。みんな……オレ達の仲間も、忙しい中来てくれてるんだろうな、きっと。
「今行く」
「阿部君……」
 三橋が挙動不審だ。いつものことだが。――いや、この頃は三橋も自信をつけてきたのか、そうきょどりはしなくなったが。
「お誕生日、おめでとう」
「おう……ありがと」
 どうしよう。
 心臓が嬉しさで破裂寸前だ。
「オレ、阿部君に言いたいことがあるんだ」
「何だ?」
「オレ……阿部君が本気で好きだ」
 好き。その言葉は三橋から昔聞いたことがあったのだが。そんな言葉では驚かないぜ。三橋。オレはフフンと笑ってやった。
「――オレも、オマエのことが好きだぜ」
 嘘ではなかった。三橋のことばかり考えている己に気付くことも少なくない。
 それに、正直――抱きたいと思う。
「阿部君……オレ、阿部君に恋して……ます」
 神様!
 オレは渾身の力を込めて、三橋を抱き締めた。
「阿部君……痛い……」
「オレも……オマエが好きだった。その……片想いの相手として。あ、もう片想いじゃねぇんだよな」
 三橋がオレの腕の中でこくんと頷いた。
「やったーーーー!」
 もう、ケーキもご馳走も……そりゃ欲しいけど、それよりも三橋の告白が何よりの贈り物だ。
「あ、オレ、プレゼント用意していなかった……阿部君に、どう、告白したらいいか、考えるのに手いっぱいで……」
 三橋が俯いてそう言った。畜生! 可愛いぜ!
「気にしなくていいぜ。三橋!」
 今日はオレにとって最高の日だ! 何よりも尊い贈り物のおかげでな!

後書き
阿部君、山之辺黄菜里さん、お誕生日おめでとうございます!
この話は黄菜里さんに捧げます! ラブラブアベミハ万歳!
2013.12.11

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