榛名にアタック! ああ、榛名先輩が投げている。青空のマウンドで。 榛名センパーイ、いつも見てますよー……。 「おい、佐々木! 佐々木美卯! いつまで寝てるんだ!」 あ、授業中だった! いっけなーい! 愛しの榛名先輩の夢を見ている場合ではなかったわ。 「たるんどるぞ! 佐々木!」 英語の西田が仁王立ちしている。 「すみませーん」 よだれは垂れてないようね。良かった。 「まぁいい。じゃ、25ページまでリーディングな」 そんなぁ。 あたしはつっかえつっかえ英文を睨みながら読んだ。わーん。英語嫌い! 西田はもっと嫌い! 「ねぇ、ミュウ」 お昼休みに親友のマコちゃんが言った。 あたしは仲間内では「ミュウ」って呼ばれてるの。可愛いでしょ。 「アンタ、榛名先輩の名前寝言で言ってたよ」 「えー?! ウソッ?!」 「うん、ウソ」 がくっとあたしはうなだれた。 でも、無理ないかもね―。 あたしの榛名先輩好きはクラス中に知れ渡っているもんね。 ああ。榛名先輩、好き好きっ! あの端正な顔も、立派な体格も、豪速球も! それに、聞くところによると、何でも武蔵野第一の野球部の救世主なんだとか。これ、早耳のレナちゃんから聞いたんだよー。 「アンタさぁ……そんなに榛名先輩が好きだったら、告ってみたら?」 マコちゃんが半月形に口を歪めて笑う。 う……それはあたしもいつも考えていることだけどさ。 あたしもいい加減桃色の片思いしてるけど……。 「だあって、断られたらショック……だもん」 あたしはまたうなだれた。 「女の子は行動あるのみよ。それに、榛名先輩だってミュウのこと知ってるかもしれないじゃん」 「そうだけどさー……」 あたしだって、自分ではかわいい方だと思うけどさ。 野球部にはマネージャーの宮下先輩がいる。 美人でさ、おっぱいなんかぼーんとでかっくってさ。あたしなんか張り合おうたって、ムリムリ。 「宮下先輩には敵わないもん」 あー、ついに声に出して言ってしまった。……自分にメゲ。 「宮下先輩なら、大河先輩と付き合ってるってよ」 「ええっ?! ホント?!」 「しかもかなりラブラブらしい」 神様……! しかし、何で大河先輩かね。鼻あぐらかいてるような人じゃん。わっかんないなー。 まぁいいや。これでライバルが一人減った、と。るん♪ あれ、でも……。 「マコちゃん、そんな情報誰から聞いたの?」 「レナに決まってるでしょー」 そっか。宮下先輩のこと、ライバル視しかしてなかったから、わからなかったな。 変なところでニブいってよく言われるの、あたし。 でも良かったー。宮下先輩が大河先輩と恋人同士で。 あの二人なら応援できるわね。うん、素直に応援しちゃう。 榛名先輩がフリ―になって安心、というのもあるけど。 「元気出た?」 「うん!」 「じゃあ早速榛名先輩に告白だね」 どうしてそうなるのー? まぁ、遅かれ早かれいずれ告白はしようと思ってたところなんだけどさー……。 心の準備ができてないよー! 「まぁま、あたしも物陰で様子を見ているから、しっかりがんばんな!」 「うん……」 マコちゃんはただ単に面白がっているだけのような気がするけど。 でも、マコちゃんがいれば百人力。榛名先輩にアタックじゃー! 「榛名センパーイ」 放課後、あたしは愛しの(この単語は抜かせないっ!)榛名元希先輩に声をかけた。 「……?」 榛名先輩は首を傾げている。 「誰だおまえ」 がくっ。 そりゃ、榛名先輩モテるから、あたしなんかただの女の子Aにしか思ってないかもしれないけどさ。 顔も覚えられていないと言うのは、ショックだなぁ……。 「ああ、こいつ、オレと同じクラスの佐々木美卯」 同クラの純君が助け舟を出してくれた。 「へぇー、可愛いじゃん。何? オマエの彼女?」 「やだなぁ、違いますって。それにコイツは榛名先輩一筋なんですから」 「オレに?」 やー、バレちゃった。しかも他人の口から。どうせなら自分で告りたかったな……。 「アンタ、オレのこと好きなの?」 「はい……」 つい蚊の鳴くような声になってしまった。 「うーん、でもさ、悪いけど、オレには好きな人がいるんだよね」 ああ、玉砕……。 でも、榛名先輩の好きな人って、誰だろ。 それを知るまで諦めないんだ。そしてあたしも、もっと女を磨いて。 「でも、好きになってくれたのは嬉しいよ。ありがとう」 ああ、やっぱり榛名先輩、いい人だ……。 「こいつ、榛名先輩、榛名先輩って、うるさいんだぜ!」 ああ、そこまでばらさなくていいでしょ! 純のヤツ! 「うーん、そう言われてもなぁ……」 そうだよね。榛名先輩あたしのこと知らないもんね。知らない人から急に告られたら、あたしだって戸惑ってしまうもん。 榛名先輩を呼び出して、あたしとマコちゃんしかいないところで告白するつもりだったんだけど……。 純君のおかげですっかり予定が狂ってしまったわ。 失恋ついでに気になること訊こう。 「――榛名先輩、先輩の好きな人って、誰ですか?」 宮下先輩じゃないよね。だって、宮下先輩と大河先輩、付き合っているもんね。それとも、まだ好きなのかな。 「あの人」 榛名先輩はある野球部員を指さした。 「おーい、榛名ー」 目がくりくりしてて坊主頭の少年が榛名先輩を呼んだ。あれが榛名先輩の好みのタイプ……? 「今行きますよ、カグヤン」 あ、敬語使ってるってことは、あの人、榛名先輩より年上なのかしら。そうは見えないけど……。 いずれにせよ、失恋確定じゃー! 坊主頭にするわけにもいかないしね……。 後でマコちゃんに慰めてもらお……。 後書き うちはハルカグです。 ミュウちゃん可哀想に……。 いつもだったらドリーム小説にするんだけど、『主人公がふられるドリーム小説なんて需要はあるのか?』という訳でこうなりました。 2013.9.15 |