黒バス小説『前略 ~タツヤへ~』
よぉ、タツヤ。オレ、シュウ。元気か? オレは元気だ。
ロスに来たばかりの頃は世話になったな。
でも、驚いちまったぜ、オレ。タツヤってば優男の癖に、大男のしちまうんだもんな。
高校は陽泉行くんだっけ? あれ、秋田だっけ。田舎だよな。
それに、冬は雪で大変じゃねぇか? ま、そんなことはどうでもいいんだけどな。
タツヤだったらどんなところに行っても大丈夫だよな。
今でもあの『寄り道』のことを思い出すと顔がにやけて来るぜ。まぁ、お前がいなかったら、オレは今頃大変な目に合ってただろうけどな。
いい思い出になったのはお前のおかげだよ。あんがとな。
諦めてたディパックも無事取り戻すことができたしな。
アレックスのお説教はこたえたけど、愛のあるしるしだよな。
お前、アレックスのこと好きだろ? ん? ま、いい女だしな。何でアレックスって言うんだろうな。アレクサンドラでもいいのに。
あー、英語圏のあだ名のことはわかんねぇや。
でも、英語自体には慣れたぜ。
もう二度とロスでは油断しねぇよ。つか、賭けバスケなんてもんもアメリカにはあるんだな。
それにしても、オレはお前の人脈の多さに驚いたよ……あれも師匠のアレックスの教育の賜物か?
親父の病気は一進一退みたいだけどよぉ、やたら元気でさ。から元気でねぇといいんだけど。
でも、ほっとしてる。
この間すげぇ大ゲンカしたばっかだけどよ。ケンカする元気があってよかったぜ。
親父達のいう寄り道でたくさんのこと経験したよ。
マイクやタツヤにも会えたしな。
オレは親父が治るまでしばらくこっちにいる。マイクもアレックスも親父もいるし、英語も上達したし、何とかなんだろ。
タツヤが日本に帰るって聞いて、マイク、泣いてたな。
もうタツヤとバスケできないのかってな。
ま、マイク達の面倒はオレが見てやる。
伊達に帝光中のバスケ部キャプテンやってたわけじゃねんだ。悪ガキの扱いには慣れてるさ。
やんちゃもしたことあるけどな。逆らう部員はシメたりしてさ。
特に灰崎にはてこずったな。アイツ、どうしてっかな。バスケに戻ってくれると嬉しいんだけど。
でもアイツ、本当に懲りないやつでなぁ……キャプテンも苦労の連続だぜ。
こういう文通、女みたいだけどさ、オレは好きだぜ。
なんつーの? 文字を書く作業ってオレに向いてるんだ。
英語はまだちょっと頼りないけど、日本語なら任せとけ!
ま、良かったら返事くれ。待ってるぜ。
おふくろも、今度タツヤに会いたいって言ってたからな。
タツヤに会ったら驚くぜ~。お前、ケンカ慣れしているくせに綺麗な顔してっからな。
オレも初めて見た時は驚いたよ。日本人のくせにロスの不良と渡り合えるなんてすげぇな、なんてさ。
夏休みはロスに帰ってくんだろ? またバスケやろうぜ。
ワンオンワンもやろうな。
お前、バスケ超上手いよな。帝光にも『キセキの世代』ってバスケ超上手い奴らがいんだけどよぉ。
お、そういえば、キセキには青峰ってヤツがいたっけ。
ちょっと好調過ぎて壁にぶつかっている、と聞いてたけどな。お前とならサシで勝負できんじゃねーの?
しかし、お前はバスケも上手くてケンカも強くて美形で英語もできて――って、天から二物も三物も与えられてんじゃねーか。
羨ましいぞ、この!
オレだってちょっとしたもんだと思ってたが、このオレとバスケでタメ張るなんてよぉ。
お前との最後のゲームでは負けたしな。
今度は勝つぜ!
これ、勝利宣言な。
オレもアレックスに習いたいけど、アレックスは女だしなぁ……。「タツヤとタイガで手一杯」って言ってたしな。
……これ、邪な気持ちで言ってんじゃねぇんだぜ。確かにアレックスはいい女だけど。
ま、油断のならない国だけど、アメリカってオレに合ってるみたいだぜ。こっちの学校にも慣れたしな。
後は親父の病気が治れば万々歳だ。じゃ、またな。草々。
前略 ~シュウへ~
手紙見たよ。ありがとう。
君らしいいい手紙だった。
君が来た時は大騒動だったね。君もよくしのいだと思うよ。
それに、倉庫の配電盤を使うなんていう君のアイディアは良かったと思うよ。
『寄り道』ってやっぱり大事なんだね。
お父さんは元気なのかい? 病気、早く良くなるといいね。
いつでも電話してきていいよ。何かあったら相談に乗るから。
一応電話番号書いておくね。
そこには文字が並んでいた。シュウこと虹村修造は手紙を読み続ける。
って、日本に帰る時に教えておいたんだけど、一応ね。
陽泉は面白い学校だよ。
ついでに言うと――バスケ部の監督は女の人なんだ。
とても美人なんだけど、怒ると怖いんだよ。そういうところはアレックスと似てるかな?
部員の人達もとてもいい人達でさ。
そうそう、オレ、スタメンに選ばれたんだよ。
帝光中のキャプテンを務めたシュウにバスケを褒められるのは光栄だけど、シュウもなかなかのもんだよ。
マイク達は元気かい?
「元気だよ」と虹村は声を出して言う。
今度もまたタツヤ――氷室辰也に手紙を書こうと思った。
手紙は続く。
オレの弟分のタイガも日本にいるんだ。
知ってるだろ? タイガ。オレがよく話してたから。
またタイガとも対戦したいなと思う。
シュウ、君は僕のこと、天から二物も三物も与えられてるって書いてたけど、そしてそれを否定する気もないんだけど。
――オレでも敵わない男はいる。
他ならぬタイガ。火神大我だ。
オレの方がバスケは好きなんだけど、タイガには天与の才がある。
他のなんかいらなかったから、タイガのようなバスケの才能が欲しかったな。
おっと、愚痴になっちゃった。ごめんね。
夏休みはロスに帰るから、また勝負しようね。今度も負けないよ。
また『寄り道』する機会があればいいね。
君のお父さんも『寄り道』を認めるほど寛大な人だそうだしね。
一度会ってみたいな。
病気を治す方が先かな。お見舞いにも行きたいけど、病状がよくわからないからね。ロスには夏まで行けないしさ。
この間、家族とシュウのこと話したよ。
母さんが、「辰也には本当にいい友達ができたわね」と、言ってたよ。
オレのおふくろも『寄り道』には寛大な人なんだ。
いつもタイガと無茶ばかりやってアレックスに怒られてたからね。オレもシュウと似ているね。
オレも手紙を書くのは大好き。また文通しようね。お父さんお大事に。草々。
「タツヤ……」
虹村の心がほんわかとなった。タツヤ。奇縁で結ばれた仲間。
また、会おうな。オレ達、友達だよな――。ずっと。
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