コウサカ・ユウマの日常

「あ、姉さん。この間はありがとう」
 僕は姉のコウサカ・チナに電話をしていた。
「いいのよ。ユウマ」
 優しい姉の声。相変わらず綺麗なメゾ・ソプラノだ。
 僕は小さい頃、姉さんに憧れていた。涼しげな声。すらりとしたスタイル。まぁ、胸がないところが難点だけど。
 しかし、僕は別の人に恋をした。まぁ、いつまでも姉さん、姉さん言ってる年ではないし。
 その想い人の名は――カミキ・ミライさん。スタイルは姉さんよりいいし、胸だって大きいし顔だって可愛い。――姉さん、これ見たら怒るかな。怒ると怖いからなぁ……姉さん。
 唯一の難点は――あのカミキ・セカイの姉であること。
 何だってあのバカとミライさんが血が繋がっているんだ――そう思うけれど、やっぱりミライさんは綺麗だ。
 ミライさんの為なら、セカイ、おまえを義弟にしてやってもいいぞ。
 それから、ホシノ・フミナ先輩。僕の幼馴染で、僕は『ホシノ先輩』と普段は呼んでいるけれど、時々『フミちゃん』と呼んでしまう。
 まぁ、フミちゃん――じゃなかった、ホシノ先輩だって『ユウ君』て呼んでいるからな。
 そうそう、僕はコウサカ・ユウマ。模型部に所属していたが、今はガンプラバトルに出場しているチームトライファイターズの一翼を担っている。
 バカのセカイとホシノ先輩と一緒に戦っている。自分で言うのも何だが、僕達は結構強い。
 ガンプラバトルのトラウマも癒えたし、仲間もできたしで、ただ今絶好調!
 ……あ、セカイのテンションがうつってしまった。あいつもバカなようでいて、案外頭が回るところもある。次元覇王流の使い手だ。
 ミライさんも次元覇王流の使い手だ。うっかり怒らせるとゴールデンボールクラッシャーをおみまいされかねない。あの、ちゃら男なタレントのように。あれは、男としては食らいたくない。
 今日も今日とて、僕はガンプラのメンテナンスに余念がない。
『ガンプラバトルの才能がない』
 ――そう言われて一時は離れていたガンプラバトルも……。
 今は楽しくて仕方がない。ホシノ先輩と――それからセカイのおかげ……これはあまり認めたくないけれど。
「おーい、ユウマー」
 セカイの声だ。こいつはまだチビだし声変わりもしていない。僕は何故かニヤつくのを抑えて、
「どうした? セカイ」
 と答えた。セカイのことは、ガンプラファイターとしても一応認めている。
 セカイは諦めるということを知らない。バカだからだろうか。……バカだからだろうな、うん。
 でも、命がけでガンプラバトルに臨んでいるところは評価してやる。
「お、メンテナンスか? ユウマ」
「そうだ。――おまえがメンテナンスという言葉を知っているとは思わなかったな」
 手を止めた僕はくいっと眼鏡を上げた。
「んだよ。バカにすんのか?」
「ほう、バカにされたのはわかったのか。進化したな」
「ちょっと、セカイ君、ユウマ君」
 ホシノ先輩が割って入る。
「ここ、お店だから、ね」
 そう。ここはレストラン『コウサカ』。僕の家だ。姉さんも時々帰ってくる。離れているのは寂しいけれど――。
 僕にはそう、仲間がいる。
「何か欲しいものはありますか? ホシノ先輩」
「ちょっと、オレにも訊けよ!」
「何がいい、セカイ」
「――先輩に対する態度とズイブン違うじゃねぇか」
「ミライさんは元気か?」
「姉ちゃん? ああ、元気にしてるよ」
「そうか……それは良かった……」
 ミライさんのことを思い浮かべただけで、心がほわほわと暖かくなってくる。
 敢えて言おう! これは恋だと!
「こんにちは。フミナちゃん。ユウマ君」
 来たー! ミライさんだー!
「こんにちは。ミライさ……」
「ユウマー。ガンプラバトルやろうぜー」
「あ、ちょっと、セカイ、引っ張んなって」
「いいお友達を持ったわね。セカイ」
 ミライさんのスマイル! 相変わらず可愛いなー。ミライさんは年上だし、僕の好みにぴったりだ。
 まぁ、このバカ(セカイ)が弟であることは難点だけど……。
「姉ちゃん、行ってきまーす! 先輩も来てください!」
「待て、セカイ。このガンプラを……」
「おう! 持って来い!」
 僕は僕の愛機、ライトニングガンダムフルバーニアンを手にしたまま、セカイに引きずられて行った。ミライさんがにこにこしながら手を振っている。やんちゃな弟を見守る姉の表情だ。
 あ~、ミライさ~ん。
 ガンプラバトルはいいけれど、ミライさんと一緒に何か食べたかったなぁ……。僕の家はレストランでもあることだし。
 ホシノ先輩も美少女だし、姉さんも可愛いし、僕ってなにげに美人に囲まれているような気がするな……。セカイは男だから論外だけど。
 でも、ホシノ先輩とセカイは結構お似合いのような気がする。ホシノ先輩もセカイのことを憎からず思っているようだったなぁ……。
 フミちゃん――敢えてフミちゃんと呼ぼう――も幸せになるといい。
「ほら、着いた」
 ここはラルさんの……。
「さぁ、入った入った。ラルさーん」
「おお、セカイくん。ユウマくん。ホシノくん」
「ガンプラバトル、いいっすか?!」
「大歓迎だとも。さぁ」
「ユウマ、勝負だ!」
「わかった……受けて立とう!」
「私はここで見てるわ」
 ホシノ先輩が腕を組んだ。
 バトル、スタート!

 セカイとトライバーニングガンダムは前より一体化している。大丈夫かな……。ガンダムと一体化しているということは、ダメージも体に受けやすいということで……。
 でも、今はトライバーニングガンダムも防御面が補強されているから、大丈夫だと思うことにしておこう。何より、セカイが簡単に負けるはずがない。
 僕もセカイの機体に攻撃する。むっ、全部かわされた。やるなセカイ。
 こうなったら本気を出すか――!
 僕の攻撃はシールドで弾かれた。このシールドは……!
 僕の持ってきたトライバーニングガンダムの予備パーツの産物か? いや、これはギャン子とシモンの……! そうか! 彼らを味方につけたんだったな。セカイ。
 セカイもガンプラを作れるようになってきたし――こいつの強さに限界はないのか?
 僕のライトニングガンダムフルバーニアンもビームを撃ち続ける。セカイに負けないように。
「うおおおおおおおおお!」
 セカイが吼える。これは次元覇王流聖拳突きだな! 僕はセカイの攻撃を避ける。続いて第二弾、第三弾も。
「へぇーなかなかやるじゃん!」
「これで終わりにしよう、セカイ……!」
「上等だあっ!」
 トライバーニングが光を放つ。背後に火が燃え立つ。
 僕もフルバーニアンの火力と機動力を駆使して僕の持てる力を出し切った――。

 バトル、エンデッド、の独特の声が聞こえた。勝負は引き分けだった。
 くそっ、セカイめ……。でも、流石だな、セカイ……。
 好敵手と渡り合えた満足に僕は浸っていた。「ユウくん……!」とホシノ先輩の声が聞こえる。僕の機体も、セカイの機体も少し壊れてしまったけれど。
「楽しかった。またやろう。セカイ」
「ああ」
 僕達は握手をかわした。まだ戦いたい。補修したら今度はホシノ先輩の相手をすることになった――。
 今はセカイと同等だけれど、今度は彼を越えたい。そして、イオリ・セイさんにも負けないファイターになるんだ……!
 レストラン『コウサカ』に戻ってくると、ミライさんが笑顔で待っていてくれた。――いいなぁ。こういうの。僕の姉もなかなかだと思うけど、こんなミライさんみたいな姉がいるセカイがちょっと羨ましい。
 でも、ミライさんが実の姉だと恋人にはなれないから、これはこれで良いのかもしれない……。

後書き
私のお気に入り、ユウマくんの話です。ガンプラバトルの描写がちょっと甘かったかな?
この話は、風魔の杏里さんに捧げます。この間のビルファイトライは見逃したそうですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
2015.2.21


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