よろしく真ちゃん

 えーと、バスケ部バスケ部っと……。
 しっかしさすが名門秀徳高校。バスケ部以外でも活気がありやがんの。
 入学式から間もなく。新入生への部活の勧誘が始まったんだけど――。
 まぁー、いっぱいありやがんの。どうしてこんな部まであるんだよ、って言いたいものもある(百人一首研究会なんてホントに必要か?)
 でも、オレの心はもう決まってるもんね。
 秀徳高校バスケットボール部。
 ここはめちゃ強いって有名なんだよな。東の王者って言われてるもんな。オレもあんまり成績良くないけど、一生懸命がんばってこの高校に入ったんだ。
 全ては好きなバスケをやるため!
「あ、兄ちゃん、バスケ部の受付ってどこ?」
「あー、あそこ、真っ直ぐ行って左だから」
「わかった。あんがと」
 親切なセンパイに教えてもらい、オレは目的地に着いた。
「あ、あのっ、オレ、バスケ部に入部したいんだけどっ」
「名前をこれに書いてください。あ、それから質問にも答えてくださいね」
 オレは必要事項を書き込む。さーてと、後は名前だ。深呼吸して落ち着いて――
 高尾和成――と。
「失礼」
 耳に心地いい声と共に影がさした。
 あ、あれ……?
 オレは声のした方へ振り向いた。
 どっくん。
 オレの心臓、跳ね上がる。
 超美形!
 背、たっけぇー!
 まつげ、なっげー!
 緑色の髪に黒ぶち眼鏡――何もかもがオレの好みに合っていた。
 っつーか、眼鏡っ子によえぇんだ、オレ。ゲームでも眼鏡っ子をターゲットに落とすぐらい。
 ふわりと馨ったのは桜の香だろうか。
 そいつは左手で眼鏡のブリッジを直した。
 指、ぐるぐる巻きじゃん。怪我でもしたのかな。ドジっ子だったらそれはそれで超萌え!
「アンタ、名前は?」
 オレが訊くと――。
「緑間さん!」
 受付のセンパイが声を上げた。
「緑間……?」
 どっかで聞いたような気がする。
「どうして緑間さん自らこんなところへ?」
「決まってるだろう、入部届を出しに来たのだよ」
「えー、でも、緑間さんならわざわざそんな手続きいらないでしょうが」
「オレもそう思うのだが」
 わっ、こいつもしかして特待生?!
「でも、こういうことはきっちりしておかないといけないのだよ」
「はいはい。わかりましたよ。噂通り律儀なお方なんですねぇ」
「人事を尽くしているだけなのだよ」
 ん? もしかして、この男……。
 思い出した! 帝光中学『キセキの世代』の№1シューター、緑間真太郎!
 もっと早く気付かなかったなんて、オレもヤキが回ったね!
 それにしても、キセキの世代の一人と同じバスケ部かぁ……すっげーラッキーじゃね?
「あのー」
「何なのだよ? 君は」
「オレ、高尾和成、よろしくでっす。同じバスケ部で超光栄っす。緑間真太郎――いや、真ちゃん」
「――馴れ馴れしいのだよ」
「だってー。同じがっこで同じ部活だろ。仲良くしようぜ」
「ふん」
「それより、指のぐるぐる巻き、超痛そうなんだけど、何かあったの?」
「これはテーピングだ。左手の爪を保護しているのだよ」
「へぇ~、そこまでやるわけ」
「当たり前だ。それが人事を尽くすということなのだよ」
 ふーん。人事を尽くすことにこだわっているようだけど、それが真ちゃんのポリシーなわけ?
「あ」
 可愛い兎のマスコットがカバンにぶら下がっている。
「なんかそれ、超カワイイんですけど」
「可愛い? 何が」
「うさぎのマスコット」
「これか。これはおは朝占いのラッキーアイテムなのだよ」
 え? おは朝……?
「オレも見てるけどさ……なに? 真ちゃん占いなんて信じてんの?」
「そうだ……よく当たるのだからな」
 かわええ! 真ちゃんかわええ!
 よーし、絶対コイツと友達になる!
 真ちゃんはこっちを見て――それから深ーい溜息を吐いた。
「ん? どしたの? 真ちゃん」
「……おは朝占いもごくたまには外れることもあるのだな」
「なぁに? なんて言ってたの?」
「かに座の人には運命の出会いがあるかも――と」
「え? 運命の出会い? それだったらあったじゃーん。真ちゃんとオレ」
「真ちゃんはよせ――こんなのが運命の出会いか」
「そうだよー」
 オレはかかかと笑った。
「ちなみに高尾」
「わっ。名前覚えてくれたんだ。嬉しいねぇ」
「そんなことがそんなに嬉しいか」
「だって、友達への第一歩じゃーん?」
「……オマエの星座は?」
「え? オレの星座? さそり座だけど?」
「ますます最悪なのだよ……」
「え? オレと真ちゃんの相性ってそんなに悪い?」
「――最高なのだよ……」
「え?」
「だから、かに座のオレとさそり座のオマエとの相性はばっちりなのだよ!」
「おー、そりゃ嬉しいね!」
「これだけは外れるといいのだよ。それよりも君」
「は、はい」
 受付のセンパイは慌てて返事する。
 そりゃ、ビビっちまうのも無理ねぇよなぁ。新入生のくせに真ちゃん、背、高いんだもん。190は悠々超えてると見た。威圧感もあるし。
「どうして外にいるんだ。体育館を探した分、時間を損したではないか」
「じゃんけんで負けたんです……すみません」
「そうか――まぁいい」
 オレもラッキーだったんじゃね? やっぱりこれって運命の出会いだよな。名前も知らないセンパイ、ありがとう!
「――帰る」
「あ、オレもオレも。真ちゃんどこに住んでんの?」
「××町だが?」
「へぇー。オレんちの近くじゃん。けど、学校からは遠いよな。チャリか――いっそのことリアカーで行くか?」
「リアカー?」
 真ちゃんが不思議そうな顔をした。
「あれ? 真ちゃんリアカー嫌い?」
「そんなこと考えたこともないのだよ。鬱陶しいから離れるのだよ」
「まーたまたぁ。真ちゃんてオレの見たところツンデレっぽいけど?」
「…………」
 真ちゃんはだんまり。
 やっぱりちょっと怒らせちまったかな。本気で振り払おうとしているわけではなさそうだけど。
「――別にリアカーは嫌いではないのだよ」
 ぼそっと真ちゃんが呟く。
 あれ? もしかして今、リアカーのこと真剣に考えてた? 真ちゃんて本当はちょっとズレてる? でもそこがまたかわいかったりするんだけど。
 これから同じ部員としてやっていくんだ。よろしく真ちゃん。

後書き
秀徳コンビパラレル風味出会い編です。
管理人は黒バスにハマって日が浅いので高緑コンビの過去とかよく知りません。でも高緑ちゃんが可愛いことはちゃんと知ってます(笑)。
おいおい勉強していきますね。
この話は気に入ってたので、お蔵入りもしのびないなと思ったので、「いっそパラレルにしちゃえ☆」と開き直りました(笑)。
2013.5.12

BACK/HOME