優しいだけじゃ物足りない

 俺はアメリカ合衆国。またの名をアルフレッド・F・ジョーンズ。
 アルフレッドとは、アーサーがつけた名だ。
 改名することも考えたんだけど、それをやることもせずに今に至る。
 アーサー・カークランド。俺の元『兄』で、俺の片恋の相手だ。
 いつか、結ばれたいと思ってる。
 いや、絶対結ばれるよね! そうでなきゃ、ハッピーエンドじゃないもんね!
 君が俺の兄だった頃から、君のことが好きだったなんて、君は知らないだろうね。
 ネガティブ思考の上に、超ど・ん・か・んだもんねぇ。
 友達ではいられないけれど。
 君の友達なんてやだからね。君はドジだから、フォローするのが大変だ。酒癖悪いし、口も悪いし。
 でも……そんな君に恋してるんだぞ。
 フランシスや他の国がいても何のその。もうフランシスとは別れたんだよね? そう聞いたけど。
 それって、やっぱり俺のせい?
 にま~っ。
 それってすっごく、嬉しいんだぞ。
 俺のことで、アーサーがフランシスと別れることをしたっていうんなら。
 でも、俺はまだ、好きって言わない。
 だって、そんなことしたら、君は何しでかすかわからないからね。
 君から好きと言わせたい。
 だから、いい男になるんだ。君に釣り合うような。
 世界に冠たる超大国。
 努力して努力して、やっとここまでのし上がってきたんだぞ!
 そういう俺に好かれてる君は、地球で一番の幸せ者なんだぞ、アーサー。
 それなのに、ああ、それなのに……。
 アーサーは今でも俺のことは弟としか見ていないんだぞ。涙がちょちょ切れるんだぞ。
 今でも寝言で、笑いながら「まーたおねしょか」なんて、小さい頃の俺のこと言ってるんだぞ。そんな黒歴史、早く抹殺したいんだぞ。
 ……アーサーには、いろいろ弱味を掴まれてるんだぞ……。
 フランシスが、アーサーの子供の頃の恥を知っているように。
 俺が、
「アーサー愛してる!」
 って言ったら、アーサーはどういう反応示すかな。
「俺、そんなこと考えたことなかった」
 なんて答えたら御の字。
「そうかそうか。おまえもそんなこという年頃になったのか。でも、エイプリルフールは今日じゃねぇんだぞ」
 などと言ったら……俺、アーサーぶん殴るかも……。
 ま、ぶん殴るのはアーサーの専売特許みたいなところもあるけどさ。なんせ元ヤンだし。
 今は紳士を気取っているけどね。ぷぷっ、おかしいよね。
 子供の頃、アーサーは、いつでも俺に優しかった。
 だけどね、優しいだけじゃ嫌なんだ。
 怒って泣いて、それを全部俺に見せて欲しいしぶつけて欲しい。
 それが、アーサー・カークランドを愛した理由なのだから。
 俺が、これを恋だと知ったのはいつ頃だったろう。
 まだ独立前の話なのは確かだよな……。
 何か、アーサー見る度どきどきして、隠すのに大変だったんだぞ。
 屋根裏部屋には、たまにしか行かない。子供だった俺と、兄だった頃のアーサーの想い出がたくさんあるから。
 アーサー、アーサー、アーサー……。
 好きだ、好きだ、好きだ……。
 フランシスと付き合ってたこともわかってた。
 だから、早く大人になりたかった。君に恋を語っても、滑稽でなくなるように。違和感がなくなるように。
 ああ、そうだ。だから、猛スピードで成長したんだな、俺。
 アーサーは俺の成長速度にびっくりしてたけど。俺は天下のアルフレッド様。大きくなるのなんて、お茶の子さいさい♪
 それにね……これはアーサーには秘密だけど……ずっとアーサーを抱きたかったんだぞ。
 フランシスの家にアーサーと行った時、つい、見てしまったんだ。
 フランシスとアーサーの、あられもない姿。
 初めは、アーサーはいじめられてるんだと思ってた。だから、掃除用具のあるとこ行って、モップを持って戻った。
 その時、フランシスの奴、何て言ったと思う?
「好きだよ、アーサー」
 好き? 好きだって?
 好きだと、あんなことして、いじめたくなるのか? まぁ、気持ちはわかるけど、いやいや……。
 アーサーはひどい目にあったはず。なのに……。
「俺もだよ、フランシス」
 フランシスを愛してるだって? あのアーサーが?!
 俺は頭の中がぐるぐるして、一晩眠れなかったよ。
 あの行為の意味を知ったのは、あれからすぐ後のことだった。
 ひどいよ! アーサー! フランシスなんかと寝るなんて!
 これは立派に裏切り行為なんだぞ。
 まぁ、当時は、裏切り行為とは思わなかったんだけどね。恋人同士で寝ることの意味もわからなかったし。
 でも、アーサーはフランシスを愛している。
 その事実が面白くなくて。
 だから、俺はハンストしてやろうとした。
 フランシスの料理は美味しいし、いい匂いもするんだけど、我慢した。
「どうした? アルフレッド」
 いつもアーサーの二倍は食べる俺が、美味な朝食にちっとも見向きもしないので、アーサーは心配そうに覗き込んだ。
 ようし。このぐちゃぐちゃした錯綜した想い、アーサーにぶつけてみよう。八つ当たりなのかもしんないけど。
「……アーサーは、フランシスを愛しているのかい?」
「まさか!」
 間髪を入れずに答えが返って来た。
「ひどいよ、坊っちゃん。昨夜は……」
「う、うるせ……あれは、リップサービスだ」
「本当かなぁ、それにしちゃ……」
 フランシスが二ヨ二ヨしている。
「ああ、もう。それ以上言ったら、ぶっ殺すかんな!」
 俺は……。
 フランシスが羨ましかった。
 そんな風にアーサーと喧嘩しているフランシスが。
 だって、それって、お互いに信頼し合ってるってことだよね。
 俺は……蚊帳の外だ。
 いつか俺も、アーサーと対等の立場に立ちたい。
 そして、大喧嘩とかもしてみたい。国民には迷惑かもしんないが。
 それから……俺はアーサーをフランシスから横取りしたかった。
 おかしいね。
 アーサーは、『弟』であった頃の俺にはいつでも優しかった。
 それが不満なんて。……贅沢だね。俺。
 でも、優しいだけじゃ、嫌だったんだ。
「こら! フランシスが変なこと言うから、アル泣きそうじゃねぇか!」
「ええっ?! 悪いのお兄さん?!」
 違う。いや、そうなのかな。――言葉にならなかった。
 気がついた時は、しゃっくりと共に涙が出てきて止まらなかった。アーサーがハンカチで涙を拭いてくれた。
 ――また、昔のことを思い出してしまった。嫌な思い出のはずなのに、何故かくすっと笑ってしまった。
 このゆとり、この余裕。俺、中身も成長したんだぞ。
後書き
アルフレッド、見ちゃったんだね、あのシーン……。
2010.6.22

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