わたし、鏑木楓

 わたしの一日は朝起きて手帳のバーナビー様の切り抜きにキスするところから始まる。
「おはよっ! バーナビー様ッ!」
 机の中にはバーナビー様の切り抜きでいっぱいなの。
 どうしてって? だって大好きなんだもん!
 将来はバーナビー様のお嫁さんになるんだ!
 バーナビー様は背が高くて、王子様みたいなの!
 ブルーローズやスカイハイもかっこいいけど、ダンチ! さまになり方が違うのよね。
 うんっ! やっぱりバーナビー様が一番! KOH、つまり、キングオブヒーローにもなったしね。
 それに、わたしのこと助けてくれたし。
 ワイルドタイガ―は見ていてつらい。
 嫌いじゃないんだけど、うちのお父さんを思い出すから。ちょっと寂しくなるから。
 ごめん。涙出て来ちゃった。
 でも、だいじょうぶ。おばあちゃんがいるから。
 え? お母さんはって?
 ――死んじゃった。わたしの小さいうちに。
 でも、あの時はお父さんがいたから……でも、今は離れて暮らしてる。
 お父さんなんて嫌い。
 よく約束破るし、わたしのこと子供扱いするし。
 ううん、ほんとはね……お父さんのこと大好き。
 たまにしか会えないけど。電話越しでしか顔見れないけど。
 ワイルドタイガ―なんかよりは、ずーっとカッコイイんだから! バーナビー様には負けるけど。
 見ててね。天国のお母さん。楓、がんばるから!
 お父さんにあまり会えなくても、文句言わない。
 バーナビー様もいるからがんばれる。
 楓、おっとなー!
 お父さんは乙女心をわからな過ぎるのよ。だから、そういうお父さんは、嫌い。
 わたしのこと、心配してくれてるのはわかるけど。愛してくれているのはわかるけど。
 やっぱり形に表して欲しいんだよね。
 プレゼントがほしいって意味じゃない。そりゃ、くれるのならもらうけど。
 あっ、今はバーナビー様の写真集が欲しいかな。本屋に行っても売り切れ続出なんだよね。
 ……何話してたんだっけ。
 そうそう。お父さんのこと。
 わたしはかわいいってよく言われる。自慢じゃないけど。
 写真や記憶の中にあるお母さんは美人だったし、お父さんだって悪くはないと思うけどね!
 小さい時は、お母さんが帰ってくることを本気で願った。
 お父さんとまた三人で一緒に暮らしたかった。
 もうお母さんに会えないと知ったときは、お父さんとだけでもいいから、一緒に暮らしたかった。
 でも、お父さんはそうは思っていないみたい。
「お父さんはみんなの為に働いてるんだぞ」
 ……うそつき。
 わたしの為には全然働いてないじゃない。
 仕事中のお父さんの顔なんて、全然見たことない。それがさびしいんだよね。
 いつか、シュテルンビルトから帰ってくることがあるのかなぁ。このオリエンタルタウンに。
 おばあちゃんも、村正おじさんも、みんなお父さんのこと待ってるのに。
 おばあちゃんが言ったことによると、お父さんは『ヒーロー』に関する仕事をしてるみたい。
 あのバーナビー様と関係あるのかな。
 だから、『HERO TV』があると目を皿のようにして見てる。
 あのワイルドタイガ―がお父さんだったらな……。
 あっ、バーナビー様、浮気じゃないからね!
 ワイルドタイガ―はお父さんに何となく似てるから気になるだけで、わたしはバーナビー様一筋だからねっ!
 スカイハイが好きっていう子も、学校にはいっぱいいるけど、バーナビー様に転んだ人も大勢いる。
 わたしはそうじゃないから。
 スケート場で助けられてから、わたしはずーっとファンだからね!
 そして、将来はブルーローズみたいないい女になるの。
 お父さんには結婚式に出てほしいなぁ……。
 どんなに約束すっぽかされてもいいから、その日だけは出てほしい。
 バーナビー様には、恋人いるのかな。彼女がいるって話は聞いたことないけど。
 それが人気の秘密かもねー。
 でも、わたしは運命感じちゃったんだ。バーナビー様と目が合った時。
 テレビでもよくバーナビー様のことやってる。
 実名で、しかもあんなにカッコイイんだから、人気が出るのも当然よね。
 時々ジェラシーおぼえることあるけど、あんなにさまになるんだもんね。
 ファンがいっぱいいることはわるいことじゃないけど……時々、わたしだけの……わたしだけの……。
 ……恋人になってくれたらいいなって思うんだ。きゃっ。
「あいつ、絶対性格わりーぜ」
 なんて言う男子もいるけど、あれ絶対妬いてんのよね。
 わたしは、バーナビー様はやさしいって信じてる。だって、目が澄んでたもの。
 間近で見たバーナビー様は、とても綺麗だった。そして何より、カッコよかったの。
 わたしが大人になるまで、待っててくれるかなぁ。
 んー、でも、わたしはバーナビー様にあこがれているだけだし。
「何ぼーっとしてんの? 楓」
 友達の良子ちゃんが声をかけてくれた。
「まーたバーナビー様のこと考えてたんでしょ」
「当たり」
「まぁねぇ……ムリもないわねぇ。あんなにカッコイイんだから。わたしはワイルドタイガーの方が好みだけどなぁ……」
「ええっ?! どうして?! あんなおじさん!」
「大人の色気はまだ楓には早過ぎるか」
「ばかにしないでよっ! バーナビー様も立派な大人よっ!」
「そう言っている女子が、あんた、このクラスで何人いると思う?」
「う……」
 そう言われると、絶句するしかなかった。
「で、でもね、ワイルドタイガ―はしょっちゅう物壊すじゃない。あれは大人としてどうかと思うんだ」
「だからこそ、ワイルドタイガ―は男子に人気あるのよね。もっとも、今はバーナビーの活躍のかげにかくれているけど」
 良子ちゃんに言われると……わたし、ワイルドタイガ―派ではないのに、ちょっと悔しい。
 やっぱり、お父さんとおもかげがだぶるからかなぁ。
 でもっ! やっぱりバーナビー様が一番!
「あーあ。わたしもヒーローになりたいなぁ」
 そしたら、ブルーローズみたいにいつもバーナビー様のとなりにいられるのに。
 うん。わたし、本当はバーナビー様と一緒に戦いたかったのかもしれない。
 シュテルンビルトは無理でも、オリエンタルタウンの平和を守りたかったのかもしれない。
 でもなぁ……ここでは、犯罪の『は』の字もないもんなぁ。
 いつかシュテルンビルトへ行きたい。
 そして、バーナビー様と、ついでにお父さんに会いたい。
 お父さんはいつもシュテルンビルトの自慢してたもの。まるで、自分のふるさとであるかのように。
 お父さんのふるさとはここなのに。早く帰って来てよ。
「ヒーローはNEXTじゃなきゃなれないわよ。あんたNEXT?」
 ぶんぶんっ、と首を横に振る。
「じゃあヒーローは無理ね。それより一緒に帰ろうよ」
「うんっ」
 良子ちゃんにばれないように自分の手帳を開いて、バーナビー様の写真をこっそり盗み見た。
 ほんとはちゅってしたかったけど、さすがにやめておいた。

後書き
牽引役にオリキャラ出しました。
2011.11.22

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