三択小説~牛虎編~

「ほう。それでバーナビーと喧嘩してきたってわけか」
「そうなんだよ。ひでぇだろ? バニ―のヤツ!」
「でも、おまえはもう大人なんだから、少しは大目に見てやってもいいんじゃねぇか? バニ―はまだ二十代なんだぜ」
 説教しているのはもう長い付き合いの親友、アントニオ。説教されているのは、アントニオの部屋に転がり込んできた、虎徹。
「うん、まぁ、そうなんだけどさ……まだおさまんねぇんだよ」
「――飲むか? 付き合うぞ」
「そうだな」
「焼酎がいいか?」
「ああ。バニ―ちゃんと暮らすようになってから、ロゼワインばっかで……嫌いじゃねぇけど、俺には焼酎が似合っているというか」
 アントニオが笑った。
「いいぜ。今夜はとことん飲もう」
「ああ」
「バニ―に連絡しなくていいのか?」
「いいんだよ……あんなヤツ」
「心配しているかもしれないぞ」
「そう、だな……」
「俺だったら心配するな。今もまだ、心配してる」
「どうして?」
「――おまえのことが、好きだからだ」
「――おう。俺もおまえのこと、好きだぜ」
「そうじゃなくてだな……」
 アントニオは虎徹の顔を上向かせる。そして触れるだけのキスをする。それだけで、虎徹の顔が朱に染まる。気のせいか、芋焼酎の味がした。
「俺、学生時代からおまえのこと好きだったんだぜ」
「そんなこと――」
 知らなかった。
「おまえが、おまえの死んだワイフと結婚した時、悔しさで泥酔したんだぜ。おまえのワイフが死んで、どうしようかまごまごしているうちに、今度はバニ―におまえを取られてさ――」
 そういえば――友恵がプロポーズを受けてくれた時、喜びでいっぱいになって、ついアントニオに抱き着いたことがあったっけ……あの時アントニオはどんな顔をしていただろう。覚えていない。
「鈍過ぎるんだよ、おまえは」
 アントニオは虎徹の額をこつんと叩いた。
「アントニオ……」
 虎徹はバニ―、いや、バーナビーが色っぽいと言ってくれる掠れた声で言った。
「今日だけは……俺をおまえの好きにしていいぞ」
「――いいのか?」
 アントニオは目を丸くした。
「ああ――今までの、罪滅ぼしだ」
「――本気に取るぞ」
「本気だもーん」
「もう酔ったのか? 虎徹」
「これぐらいで酔う訳ねぇだろ……ばーか」
 アントニオは虎徹に、さっきより深いキスをした。
「部屋に行くか」
 虎徹は赤い顔をしながら首を縦に振った。
 アントニオの部屋は散らかっていた。綺麗好きのバーナビーの部屋とは違う。それでも、昔からよく遊びに来ていたここは、どこかよそいきみたいなバーナビーの部屋とは違って、懐かしい。
 こいつ……俺のこと見て、何を思ってたんだろう。
 もし虎徹が、好きな女――或いは男でも、一緒の部屋で眠っていたのなら……耐えられなくなって出てきてしまうだろう。或いは、そんな事実を無視して、い寝がての夜を過ごすか。
 俺は随分無体なことを、アントンにしてしまっていたのだなぁ……。
 虎徹は自分からアントニオにキスを仕掛けた。アントニオはぐっと抱き締めると、虎徹の口内に舌を入れて来た。肉厚の舌が虎徹の口の中を這い回る。
「んーっ、んっんっ」
 アントニオのキスは乱暴ではないが些か苦しい。アントニオは、はっとした様子で虎徹から離れた。
「苦しかったか? すまんな。つい夢中になって」
「構わねぇよ。夜明けまで、俺はおまえのモンだ」
「虎徹……」
 アントニオはまたキスをした。そして、虎徹の服を脱がせにかかる。自分の服も脱ぎながら。
「向こうむいてな」
 それは、アントニオの羞恥心からだったのかもしれない。でも、アントニオのモノは、しょっちゅう見ていた。
(俺の中に、アレが入るのか――)
 そう思うと、恐怖心と――少しの期待とで心臓がばくばく言った。
「虎徹……」
 アントニオの手が虎徹のペニスに絡みついた。虎徹のモノはたちまち反応を示す。
「アントニオ……いきたい……」
「まだ待ってな」
 相手が太い指を入れて来る。一本、二本――
 ほぐしているつもりらしい。ローションもなければ、バーナビーのような丁寧さもないけれど、その無骨さがかえって虎徹を煽った。秘処が濡れているのが自分でもわかる。
「入れるぞ」
 アントニオが、ネイサンがいつも言う、『セクシーな声』で低く呟いた。
「はっ、い、いいぜ……」
 いつもはバーナビーを受け入れていた穴がぐっと広がった。
「あ……ああっ……」
『バニ―』と言いたくなるのを押さえた。
(こいつ……やっぱりバニ―よりでかい……)
 バニ―も充分大きい方だが、アントニオは彼より逞しい体をしている。その体格に違わず、立派なモノを持っていた。
「あ、アントニオ……」
「何だ?」
「顔が……見たい……」
 彼はバニ―ではないのだから、バニ―の代わりだと思っては失礼に当たる。
 そんな、自分でも訳のわからない自分の律儀さが虎徹にそう言わせた。それはアントニオのポイントを突いたようで、彼のモノは一層大きくなる。
 繋がったままひっくり返された。
 彼のモノはさっきから虎徹の前立腺に当たって来る。しかもがんがんと。虎徹のペニスが天を仰いだ。
 アントニオの動きが一旦止まった。
「――いつ見ても綺麗だな。おまえのは」
「何ぃッ?! おまえ、見てたのか?!」
「好きなヤツのだ。嫌でも見るだろ」
 そんなやり取りに、親友同士はふっと笑った。こんな関係も悪くない。
 虎徹の中をアントニオは激しく突いた。
「あ、ああっ!」
 虎徹は喘ぎながら達した。白濁した液が飛ぶ。虎徹が言った。
「汚れたな……」
「気にすんな」
 そしてまた、アントニオは腰をうごめかし始めた。
「はっ、はっ、いいっ! いいっ!」
 虎徹のモノはたちまち硬度を取り戻した。虎徹はアントニオを見て、
(こんなセクシーなヤツだとは思わなかった)
 と感心した。
 アントニオの鍛えた体からは汗が滴り落ちる。彼は眉根を寄せていた。それがものすごく――そう、さっき思ったようにセクシーだった。胸毛もセックスアピールに見える。むわっとする男くさい体臭もむしろ心地良い。アントニオの匂いに包まれながら虎徹はネイサンの気持ちがわかったような気がした。
(デキてんのかな、あいつと――)
「なぁ、くだらねぇこと訊くけど」
「何だ?」
 アントニオが一見苦しそうな顔をしながら訊き返す。
「おまえ、ネイサンとデキてる?」
「ぶっ!」
 アントニオが吹き出した。
「あのなぁ……ほんとにくだらねぇぞ、今のは」
「だから、くだらないこと訊くけど、って言ったじゃだろ」
 虎徹の答えに、アントニオの表情が緩んだ。
 虎徹が何度もいった後も、アントニオはいく気配を見せない。
「俺、――遅いんだよ。すまねぇな。虎徹」
「なぁに。それも悪くねぇよ」
 アントニオのモノの硬さを感じながら、虎徹はまた気持ち良さに溺れた。
(こいつに乗り換えようかな――)
 虎徹はこっそり思ったが、
(いや、やっぱり俺はバニ―ちゃんが好きだ)
 密かに不謹慎なことを思ったことを、バニ―と神様に詫びた。
「あっ……」
 虎徹はまたいった。――アントニオと交わった中で一番気持ち良かった。相手は違えど、体は慣れてくるものらしい。初めての相手でも、虎徹の体は快感を導き出す。
「くぅっ……」
 アントニオもうめいた。そして――虎徹の内部で欲を放った。

「虎徹……」
「ん……?」
 虎徹は半分眠っていた。アントニオの相手はちょっときついかもしれない。――良かったけど。
「今日だけ、なんだよな」
「何言ってんだよ……」
「俺は、おまえに手を出すのは今日だけにする」
「そうかいそうかい」
「おまえは――男を狂わす男だな」
「はいぃ?!」
 眠気が吹っ飛んだ虎徹は、妙な声を出して起き上る。
「バーナビーが半狂乱になるのもわかるよ――おまえはすごくエロい体してる。あの時の表情もエロいしな」
「なっ、なっ……」
「俺はせいぜい今日のおまえの顔をおかずにしながら己を慰めるさ。朝起きたら、俺達は親友同士に戻るんだ――おやすみ」
「アントニオ……!」
 アントニオは寝息を立てていた。
「って……もう朝じゃねぇか。俺も寝るぞ」
 虎徹もまたとろとろとしかけた。その時、服のポケットに入っていた携帯が鳴った。
「おはようございます。おじさん」
 硬い声が響く。
「バニ―ちゃん?!」
 呼び方が『虎徹さん』から『おじさん』に戻っている。かなり怒っている。
「今どこにいるんですか?」
 まさか、親友とセックスしてましたとは言えねぇ……。
「言いたくない」
「ふぅん。――まぁいいでしょう。後できっちり問い正しますからね」
 電話は切れた。
 怒った時のバーナビーは恐ろしい――。セックスの余韻も消えた。その代わりに嫌な汗が噴き出した。

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