三択小説~兎虎編~
「やっぱりなー。バニーちゃんとこ帰るっきゃないか」
虎徹はそう呟いて玄関前に立ち止まる。そこはバーナビーが住んでいる部屋だ。
ブロンズステージにも自分の部屋があるのだが、そこへは滅多に帰らなくなってから数ヶ月が過ぎた。
虎徹はチャイムを鳴らした。
「はい……」
バーナビーはすぐに出た。虎徹を見て一瞬素の表情を見せたが、改めて顔を引き締めた。
「何の用ですか――おじさん」
名前呼びから『おじさん』呼びに戻っている。そんなに怒らせてたのか。――だったら自分の家に帰るしかないかもしれない。
でも、俺はやっぱりバニ―、いや、バーナビー・ブルックス・Jrが好きだ。
あの信念。真っ直ぐな目。溢れる若さ。内に秘めた優しさ強さ。
ヒーローは美形揃いだが、図抜けてハンサムな男、バーナビー。
だが、そんなこととは関係なく、虎徹はバーナビーが好きになった。理由なんて後からいくらでもつけられる。
バーナビーとバディでいたい。たとえ恋人としてはフラれる運命が待っていたとしても。
(大好きだよ、バニ―ちゃん……)
「バニ―、あのな……」
ぱしん、と頬を張られた。ごく軽くだが。
頬を張られたのは確か今回で二度目だ。
「虎徹さん……」
あ、名前呼びに戻った。
「心配してたんですよ……」
「わりぃな……」
「僕の一生の時間を無駄にしたことを絶対忘れません」
「わりぃ、わりぃ、って……え? 一生?」
「離しませんよ、虎徹さん」
虎徹は脳内でバーナビーが鎖をじゃらじゃら鳴らしてる音を聞いたような気がした。
「とりあえず入ってください」
「おう、そうだな」
バーナビーを怒らせた手前、虎徹は素直に頷く。
「さて、僕を心配させた分、払ってもらいましょうか、体で」
「い? 今から?」
「ええ」
バーナビーが真顔で頷いた。
「ん……はっ!」
ベッドでキスを交わし合う、大の男が二人。
相変わらずバーナビーのキスは巧みだ。虎徹も積極的に舌を絡ませ合う。
「なんて卑猥なおじさんなんでしょうね……本当は閉じ込めて外出させたくないのですが……でも、皆に囲まれている虎徹さんも好きですし……」
「バーナビー……」
「バニ―、と呼んでくださって構いませんよ。少なくとも今は」
愛しているから、閉じ込めたい。その気持ちは虎徹にはわかるような気がする。尤も、実現できるものではないし、その対象に自分が選ばれるというのもよくわからないのだが。
でも、これだけは言える。
バニ―の為なら死んでもいい。
バーナビーが内股を舐める。虎徹は視覚と触覚とから来る快さにうち震えた。
「もういきたいですか? 虎徹さん」
「い……いや、まだ余裕はあるかなって……」
けれども息は上がってくる。バーナビーは内股から膝裏を攻める。そこを柔く噛んで、露わになった上半身にも舌を這わせる。唾液からは健康的な何とも言えない、いい匂いがした。
「バニ―ちゃんて、いい匂いがすんだな」
「そうですか?」
バーナビーは顔を上げて首を傾げる。
「虎徹さんもいい匂いがしますよ」
「コロンかな」
「それとも少し違う感じですね」
バーナビーがあどけなく笑った。虎徹は言った。
「おじさん、何でバニ―に抱かれるのか知りたいよ。むしろ逆だろ?!」
「そんなことをする輩がいたら、サオとタマを潰します」
「……おっかねぇなぁ。ジェームス・ブライアンかよ。そんな綺麗な顔して、意外と過激なんだな」
「ジェー……?」
「わかんないならそれでもいい」
再びバーナビーの舌が内股を丹念に刺激する。虎徹の下半身はいきり立っていた。
「虎徹さん……」
バーナビーが愛おしそうにキスをする。そして、虎徹のペニスを咥えた。巧みな舌使いに虎徹は翻弄される。
「ば……バニー……いやぁっ!」
バーナビーは裏筋を舌で辿る。時々甘噛みをする。とても――気持ちが良かった。
「バーナビー、おじさん、変になるよ」
「変になってください。そんな虎徹さんが――好きです」
棒状のものを咥えて発音が変になったバーナビーだが、虎徹には彼が言いたいことが伝わった。
わかってる。俺はもう狂ってる。
好きだ、バニ―。友恵と同じくらい。いや、比べるのは間違っているかもしれないけれども。
つー、とバーナビーの指が脇腹を伝った。
「うひゃひゃ。くすぐったいって。バーナビー」
虎徹は笑った。バーナビーも満足そうだ。
バーナビーの舌使いが激しくなる。虎徹ももう限界だった。
「う、うわっ!」
虎徹が放った白濁した液をバーナビーは飲み込んだ。飲み込みきれなかった精液が口から伝う彼の顔を、虎徹はとてもセクシーだと思った。
そして――バーナビーはまたキスをした。まだ虎徹自身の青臭い濃い精液の味が残っていた。
「んっ! ちょっと苦ぇ……」
「貴方の体から出たものですよ。ちゃんと愛してあげてくださいね」
「わかったよ。未来のヒーローになれなかった子供達だもんなぁ」
バーナビーは虎徹と顔を見合わせてくすっと笑った。
「そういえば、古代ローマには相手の吐瀉物を交互に食べさせ合う愛の儀式があったそうですよ」
「いきなり何だそのトリビアは。――やれと言われても俺はパスするわ」
「まぁ、僕もそこまでしたいとは思いませんけれどね。ああ、また出てきてますね」
少し萎えかかった虎徹自身にバーナビーは指を這わせる。――さっきの名残の蜜にまみれたその指を舐める。視覚的にいやらしいような気がして、上気した頬の虎徹はそこから顔を背ける。
それにも構わず、バーナビーは濡れた指を虎徹に入れる。時間をかけて、曝け出された虎徹の菊花を丁寧にほぐしていく。
「バニ―……俺さ、受け身も結構辛いんだけど」
「その代わり快楽は保証してあげますよ」
バーナビーがばちんとウィンクをした。名づけるならハンサムウィンクだろうか。
今だけだ。虎徹は思う。バーナビーが自分に対して夢中になっているのは今だけだ。
だから、この瞬間を想いのうちに留めておこう。たとえバーナビーが永遠を約束してくれたとしても。彼はまだ若い。これからいろんな出会いがあるだろう。
邪魔しちゃいけない。バーナビーのこれからの人生を。輝ける未来を。
「どうしました。虎徹さん。泣いてるのですか……」
バーナビーは虎徹の涙を吸い取った。微かに栗の花の匂いがした。
「そんな顔しないでください。どうしていいかわからなくなります」
「バニ―……おまえはまだ若いんだから、他の女の子と健全な愛を育てた方がいいと思うぞ」
「僕が愛しているのは、貴方だけです」
「すぐに後悔するぞ」
「しません!」
「する!」
「じゃあ見てください。これを。好きでなきゃ勃ちませんよ」
それは雄大なバーナビーのペニスであった。
「わかった、わかったよ。おまえさんが巨根なのは充分わかったからさ」
「――本当にわかったんですか? 僕は貴方を愛すること以外したくありません」
バーナビーは菊花にその長大なものを宛がう。そして一気に貫いた。
「あうっ!」
バーナビーは何度も何度も出し入れを繰り返す。いつもより抽送が激しい。腰を打ちつけられる度に体が揺れる。
「虎徹さん、虎徹さん虎徹さん」
「バニ―……」
それは優しい行為ではない。むしろ、怒りをぶつけるようなものだ。だが、それが虎徹にとって快感に変わる。
こんなに激情のままに人に愛されたことがあっただろうか。そして、こんなに人を愛したことがあっただろうか。
(友恵……)
亡き妻のことを思い出していた。ひたむきな目の前の青年と、心の支えとなってくれた女性の姿が重なり合う。
友恵――俺には大切な人ができた。死んでもいいと思えるくらい護ってやりたいヤツができた。――バーナビーの真っ直ぐさを失いたくない。
俺は生きて行かなくてはならない。だから――。
(ごめんな……)
虎徹は友恵に心の中で謝ると、めくるめく快楽に身を委ねた。
うっかり閉め忘れたらしいバーナビー宅の扉から、
「死ぬ! 死ぬ!」
という虎徹の声が聴こえた。
皆で鍋をやろうと誘いに来たスカイハイこと、キース・グッドマンは急いで、
「大丈夫かい?! ワイルド君!」
と、声がしたと思われる部屋を開けた。
二人はキースの目の前で固まってしまった。勿論、キースも。
「あ……邪魔してしまった、そして、失礼」
キースは逃げるように去って行った。
「あーあ、見られてしまいましたね」
「なんか、ややこしいことになりそうな予感しかしないんだけど……」
平然としているバーナビーに溜息をついている虎徹であった。
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