バニーのライバル 「あの馬鹿また物壊したんだって? 物壊すのがヒーローの証とでも思ってんのかしら。時代遅れよね」 「ブルーローズ、そのおじさんとコンビ組んでる僕の身にもなってくださいよ。いつもいちいち呼びつけられて……僕のせいではないにしても!」 虎徹は、そんなブルーローズ――本名カリ―ナ・ライルとバーナビーの話を聞くともなく聞いていた。手に頭を乗せて机に肘をついて興味なさそうに。 「アンタ、何してんの。タイガー」 ファイアーエンブレム――炎の使い手であるオカマのネイサンがやってきた。 「バニーとブルーローズが俺の棚卸しやってんだよ。飽きないのかね、ったく」 虎徹が仕方なく答えた。 「彼らにとっては飽きないんでしょうよ。んもう、タイガーったら意外と鈍感ね」 「はぁ? あいつらに嫌われてるのは俺にもよくわかるぞ」 「嫌い嫌いも好きのうちってね」 「けど、こうして見ると美男美女のカップルだよなー……何とかまとめたいな、あの二人」 「本当? とりもちが好きなのね、タイガーは」 「よし、ここは俺が一肌脱ごう」 「ちょっと! 余計なことはしない方がいいわよ! ちょっと!」 ネイサンが止める間もなく、虎徹は走り出した。 バーナビーが家で夜景を見ていると、電話が鳴った。 「何だろう」 バーナビーは待ち受けを虎徹にしている。いつか虎徹がいたずらで撮った変顔の彼でなく、もっとかっこいい、隠し撮りした彼を。 電話は虎徹からだった。 どうせまた下らないことだろうと言う気持ちと、それでも、下らないことでも電話をかけてきてくれた、という嬉しさがせめぎ合う。 「はい、何でしょう」 バーナビーはできるだけクールに決めたつもりだった。 「あー。バニーちゃん?」 電話の相手は相変わらずである。彼にかっこつけても仕様がないと思ったバーナビーは素に戻った。 「どうしたんですか? おじさん。僕は忙しいんですが」 「あ? 彼女とデートとか?」 どうしてそんなことしか頭にないのだろうか、この男は。 虎徹とだったらデートしてもいいな、と思ったが、バーナビーはいやいや、と頭を振った。 「僕に彼女はいません。ヒーロー業で忙しいんですよ。おじさんと違って。それに、彼女の存在が明らかになったとしたら、多くの女性ファンが悲しむでしょう?」 「可愛くねぇな、おまえ……彼女くらい作れよ。夜寂しいだろ?」 「おじさんこそどうなんですか?」 もし虎徹に彼女がいるとしたら――ショックで死ねる。 「俺は……娘がいるから……」 虎徹から決まり悪げな声が聞こえた。つまり、彼も夜は一人だということだ。 (ああ、良かった……) そんなバーナビーの安堵を意に介さずに、 「それでさぁ……」 と相手は話し始める。 「……あのな、明日、近所の公園に来ないか? 天気予報じゃ明日も晴れって言ってたから、きっとデートは楽しいぞ」 「え?」 今、何と言った? もしかしてこれは――デートのお誘い? おじさんとデート? 「行きます! どんな困難があろうとも、万難を排してでも行きます!」 「あ……ああ」 虎徹はバーナビーの迫力に少し面食らったようだった。 「いいですか? これは貴方が無茶をしないように見張る為ですよ。いいですか?」 「わ……わかったよ。バニーちゃん。じゃ、おやすみ」 「おやすみなさい」 バーナビーは電話を切った後、待ち受けの虎徹にキスをした。 ――ところが。 緑いっぱいの公園にいたのは鏑木・T・虎徹ではなく、カリーナ・ライルであった。 時間を聞きそびれていたので、バーナビーは朝早くから待っていた。いつもの薄紫の眼鏡をかけて、洋服もそれに合わせてしっかりコーディネートして。クリーム色の三つ揃いに水色のシャツ、赤と紫の縞模様のネクタイだ。 ところが、虎徹の姿はなかなか見えない。 カリーナもそわそわしているようだ。誰かと約束でもしていたのだろうか。 ちょっと訊いてみよう。 「ブルーローズ」 「ハイ。ハンサム」 「誰かと待ち合わせ?」 「ん。ちょっとね」 カリーナはカジュアルながらも、女子校生らしいお洒落な服を着ていた。白のブラウスにギンガムチェックのプリーツスカート。白のハイソックスに焦げ茶のローファー。どことなく制服に見えないこともない。 そして、バスケットを持っている。誰かと食べるのだろうか。 (ま、興味ないけど――) 「ハンサムこそ、何よめかしこんで」 カリーナはにやにやした。 「いや、これは……」 バーナビーが答えに窮した時だった。 電話が鳴る。 虎徹からだ。 「おはよう、バニーちゃん」 「どうしたんですか? おじさん。ずっと待ってるんですよ。こっちは」 「そこにブルーローズはいるか?」 「? ……いますけど」 「おー、良かった。じゃ、二人でデート楽しんでくれ」 「で、デートって……」 「俺がセッティングしてやったんだぞー。ヒーロー業が忙しくて彼女も作れないバニーちゃんの為にな。ああ、お礼はいいって。じゃ、がんばれよ」 一人で喋って虎徹からの通信は消えた。 「あっ、おじさん……!」 待ってください、と言おうとしたが手遅れだった。 「ふうん。あのバカの差し金だったの」 カリーナが怒りのオーラを発していた。 「ええ。まんまとあのおじさんの策にハマったようです」 バーナビーもめらめらと心の中にどす黒い怒りが育っていくのを感じた。 昨日待ち受けにしたキス返せ。 「ほんとにばっかよねー。あのおじさん」 「ブルーローズも呼び出されたんですか? おじさんに」 「そうよ! あたしは忙しいの! 友達との約束を断って来たんだから!」 友達の約束を蹴ってまで虎徹との約束の場所に来たのか――そう思うと、バーナビーは何となく微笑ましく思えたが、それはつまりは……。 (僕のライバルってことですよね) 多分、カリーナも虎徹のことが好きだ。 それは、言葉の端々にわかる。虎徹には伝わってないようだが。 ついでに言うと虎徹はバーナビーの恋心もわかっていない。 (本当にどうしようもないおじさんなんですから――) そのおじさんに恋した自分も、どうしようもないとは思う。 まぁ、せっかく用意してくれたんだから――。 「どうします? カリーナさん。僕とデートしませんか?」 「え?」 カリーナはぽっと赤くなった。ハンサムな男に誘われた時の反射的な反応だろう。 「い……いいわよ。つきあってあげるわよ」 カリーナはそっぽを向いた。 「そのバスケットは何ですか?」 「お弁当よ。――ああ、でもいらなくなっちゃったわね。ハンサム、どこかいい店案内してくれない?」 「わかりました」 バーナビーは苦笑いをした。 道行く女性達が、 「あっ、バーナビー様よ」 「デートかしら。随分若い子のようだけど――」 「ちょっと年若過ぎない? 可愛いけど」 と噂しているのが聴こえた。 その後、バーナビーが連れて行った高級レストランの中でのバーナビーとカリーナの話題が虎徹の悪口に終始したというのは言うまでもない――。 後書き とりもちおじさん。誰も頼んでいないのに(笑)。 悪口言ってても、本当は二人とも虎徹のことが大好きなんだよね! 兎→虎←青薔薇大好きよ。 2011.6 |