とっておきのプレゼント

 そろそろクリスマスだ。
 わたしもそわそわ。この頃はオリエンタルタウンもクリスマスが近づくときらきらしてくる。
 それに、お父さんも家にいる。
 嬉しいな。幸せだな。
 おばあちゃんと村正おじさんとお父さんと過ごせるんだ。今日は。
「楓~」
 あ、鍵かけ忘れてた。
「お父さん、もう! ノックぐらいしてよね!」
「悪い悪い。珍客が来てたもんでな」
「珍客?」
「おう。楓も喜ぶと思うぞ。――来いよ」
「楓ちゃん」
 とても素敵な爽やかな声。
「バーナビー!」
「久しぶりだね。楓ちゃん。ちょっと大きくなったかな」
 あははは、とバーナビーは笑いながら私を軽々と抱き上げる。
「俺の時は重くなった、と言ったくせに」
 お父さんは唇を尖らせる。お父さんたら、大人げない。
「虎徹さんはいいんですよ、ね」
 バーナビーがまた笑いかける。
「うん。そうだね」
 バーナビーは私の初恋の人。そりゃ、バーナビーはモテるからわたしみたいな子供相手にしないかもしれないけど。
 でも、いいんだ。思うことは自由だもんね。
「これから外へ出ないか?」
 お父さんが提案する。
「楓もクリスマスの街、好きだろ?」
「なんだ。お父さん。わかってるじゃない」
「伊達に楓のパパになったわけじゃないんだぞ」
 バーナビーが柔らかい目で見守ってくれている。よぉし、みんなで出陣だ!
「俺はいいよ」
 村正おじさんが言った。
「私はちょっと眠くてねぇ……少し寝てくるよ」
 とおばあちゃん。
 もう! みんな付き合い悪いんだから!
 でも、お父さんとバーナビーと一緒にいられるのは悪くない。
 外に出ると、いろんな色の光で溢れていた。わたしはお父さんとバーナビーの二人の間に入って手を繋ぐ。
 昔はお母さんがいたんだよねぇ……。
「ママ、どうしてきょうはまちがきれいなの?」
 と訊いたら、お母さんは、
「今日はね、クリスマスが近いのよ。クリスマスっていうのはイエス様がお生まれになった日のことなの」
「ふぅん……」
 こんなに祝ってもらえるんだから、イエス様って偉い人なんだろうな、と思ってたけど。
 聖書を読んで、ますます、イエス様って偉い人なんだと思った。
「あー。あれ、バーナビーじゃない?」
「タイガ―そっくりの人もいるー」
「あ、楓ちゃんだ! やっぱり本物もかわいいなぁ」
 わたしの知らない人がわたしのことをかわいいと言う。アニエスさんのおかげで、わたしもすっかり有名人だ。かわいいと言われて、わたしもちょっと得意な気分。
 お父さん達のおかげで、ヒーローは人気者になった。
 昔はNEXTは迫害されていたというけど、いまいちぴんと来ない。かくいうわたしもNEXTなんだ。
 能力は触ったNEXTの能力をコピーするというもの。今のわたしは多分お父さんとバーナビーの能力をコピーしているのかな。
 とにかく、わたしも騒がれるようになったわけ。
 お父さんは、
「シュテルンビルトに行くともっと大変だぞ」
 と言っていたけれど。
 赤、青、黄色、緑……イルミネーションは年々きらびやかになっていく。
 聞き覚えのあるクリスマスソングが流れている。英語の歌だ。まだ私にはどういう意味かわからないけどね。
「we wish a merry X'mas……」
 その歌がきよしこの夜に変わった時、わたしは素敵なクリスマスツリーの飾ってあるショーウィンドウに気がついた。
 うわぁ……綺麗……。
 クリスマスツリーの横にはぬいぐるみが飾ってある。おもちゃ屋さんかもしれない。今まで注目してなかったけど。
 わたしは足を止めた。
「楓。何か買ってやるか?」
「ええっ?! いいよ、わたしはっ!」
 そう。いいんだ。お父さんとバーナビーと一緒に街を歩ければそれで……。
 そりゃ、買ってくれるなら嬉しいけど……。
「待ってな」
 お父さんはわたしから離れて、店に入った。
 やがて、箱を抱えて戻って来た。
「ほら。楓、いつぞやお気に入りのくまちゃんのぬいぐるみがなくなったって言ってただろ。今度からこれをくまちゃんの代わりにするといい」
 わたしがくまのぬいぐるみを好きだったのは、それが病気で死んじゃったお母さんからもらったプレゼントだったから……。
 でも、バーナビーの前でそれを言うのはためらわれた。
 だって、バーナビーは子供の頃、目の前で両親を殺されていたんだから……。ちょうど今頃の時期に。
 わたしはまだ恵まれている方だよね……。
「うん。くまの代わりにはならないけど、大事にするね」
 わたしは嬉しくなって答えた。
「『くま』って言うの? なくなったぬいぐるみ」
 バーナビーの質問に、
「うん」
 とうなずいた。
「それは……大胆なネーミングだね」
 バーナビーが言うのに対してお父さんが大声で笑う。まるでサンタのおじさんみたい……。
 あの時はわたしも子供だったから、そのまんまの名前しかつけらんなかったのよ。今も子供だって言われればそれまでだけどさ。あーあ。早く大人になりたいなぁ。
「あのディスプレイのと同じやつ買ってきたぞ。くまさんだ」
 そう言って、お父さんはぬいぐるみを指差した。
「あの……虎徹さん」
 バーナビーがおずおずと、といった感じで口を開いた。
「何だ?」
「それ、いぬですけど……」
「…………」
「…………」
 二人は黙ってしまった。私は吹き出した。吹き出して――笑ってしまった。
「あはははははは!」
「なぁ、楓。取り換えてこようか?」
「いいよ。これで……はぁ、おかしい。わたし、いぬも好きだから」
「そうか。名前は何にするんだ? いぬだから『いぬ』か?」
「もう! お父さんたら、バカにしないでよッ! そんなイ―ジ―な名前、もうつけないんだからね!」
 でも、何にしよう……。そうだ!
「わたし、これにバーナビーってつける」
「バーナビー……バニ―は兎だろ!」
「でも、最愛の人の名前だもん!」
「最愛……そうか……楓のハ―トはもうバニ―のもんか……」
 バニ―とは、お父さんがつけたバーナビーのあだ名である。
「拗ねないでくださいよ。虎徹さん。楓ちゃん、買ったのは虎徹さんだから」
「じゃあ、ワイルドバーナビーってつける」
「おお! ワイルドバーナビー! いい名前じゃねぇか!」
 お父さんは立ち直りが早い。お情けでワイルドってつけてあげたんだけど。
 ああ、今年のクリスマスは特別幸せだなぁ……。
 お父さんもちゃんと家にいるし、バーナビーだって来てくれたし。
「ねぇ、お父さん、バーナビー、ありがとう。メリークリスマス!」
「僕も……今年は楽しかったな。クリスマスの頃はいつも辛かったけど……」
「こらこら、しけた話すんなよ」
 お父さんがバーナビーをたしなめる。
「だからね。今日は虎徹さんや楓ちゃん達と一緒に過ごせたことが嬉しいんです」
「良かったな、バーナビー、楓。俺も嬉しいよ」
 お父さんが顔をくしゃくしゃにして笑う。そんなお父さんがわたしは大好き。幸せを一身に現しているようで。
「今日は遠回りして帰ろうよ」
「――そうだな」
「ええ」
 できるだけ長く、このクリスマスムードに浸っていたい――お父さんやバーナビーと一緒に。
 家では村正おじさんやおばあちゃんが待っているかもしれないけど、ちょっとぐらい遅くなっても許してくれるだろう。
 なんたってわたしのそばには力強いヒーローが二人もいてくれるんだからね。

後書き
楓ちゃんにとって、とっておきのプレゼントとは、くま(いぬ)のぬいぐるみもそうだけど、バーナビーと虎徹と過ごしたこの時間だと思います。
いろいろなところからパクりましたが、全部元ネタがわかったら君は天才!
2012.12.18

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