猛男考

 オレは砂川誠。猛男には『すな』と呼ばれている。猛男の親友だ。十年来の。
 猛男のことは知っているようであまり知らないこともある。だけど、一緒にいたい。そんなところのある男、いや、漢である。
 あいつはかっこいい。それに、体格もいい。運動では負け知らずだ。角刈りの、ちょいとおっさんに見える高校生――それが、剛田猛男だ。
 あいつの彼女の大和凛子さんも、うちの姉も、なかなか目が高いとは思う。
 姉さんには織田さんがいるから、まぁいいだろう。姉さんは織田さんのことを意識していないようだが、織田さんはあれはあれでいい男だ。あの男が義兄になると思うと、ちょっと複雑だけどね。
 西城さんも、猛男を選ぶ辺り、なかなか見る目あると思う。あいつを好きになる女の子、みんないい子だよ。
 まぁ、猛男も昔は女を見る目なかったりしたけどね。成長したってことかな。
 それに、脊髄反射でいいことをやってしまう。
 ――以前は佐藤さんからストーカーを追い払ったこともあったっけな。佐藤さんは猛男の陰口叩いてたのに。そのこと、オレは猛男に話したのに。
 猛男、優し過ぎるんだよ。おまえは。
 だから、そんな猛男を大和さんも好きになったんだろうけど。
 でも、大和さんは気が気じゃないだろうな。あいつ、すぐ危ないことするから。
 落ちてきた鉄骨支えたりしたり、火事から大和さんの友達二人救ったり――。
 いいヤツなんだよなぁ。これまではいいヤツ止まりだったけど、大和さんが彼女になってくれた。
 オレは、これで肩の荷が下りたかと思ったけど、大和さんも天然だからね……可愛いけど。
 少なくとも、退屈はしないね。あの二人見てると。
 それに、両思いもいいもんだって思う。
 ――オレも、彼女はいたらいたでいいなと思うようになった。前はひたすらだるいだけだったけど。
 そんなオレは、どういうわけかしらないが、女にモテる。
 どこがいいんだろうな、このオレの、とは思う。顔――か。確かに両親にはいわゆる整った顔には産んでもらった。だけど、そうじゃない。
 オレは――猛男の悪口を言っていた女子にモテた。だから――この顔は嫌いだった。オレには顔だけしかないのか。そう思えて。
 でも、大和さんはそうじゃなかった。猛男の外見にも中身にも惚れている。
 だから、オレは、大和さんには猛男を託せると思う。
 あ、あいつが乗り移ったかな。こんなこと言いそうだもんな。猛男。『あの子になら、砂川(すな)を託せる』って。
 猛男は、オレに彼女がいないのが気になるようだが、オレは、猛男達とつるんでいるだけで結構楽しいんだ。青春てヤツかな。
 だから――天海さんに告白された時には、正直言って嬉しかった。でも、恋には発展しなかった。
 天海さんはいい子だ。ちゃんと猛男のいいところも見てくれて。流石に十年間見てくれていただけのことはある。
 でもね……オレは、猛男と大和さんのような恋がしたい。
 オレと天海さんとではそんな仲になれなかった。何故なのか、オレ自身もわからないけれど。天海さんが悪いわけでもないけれど。十年間のお礼と共に彼女を断った。
 赤い糸、なんてガラじゃないけど。
 猛男と大和さんにはそれがあって、オレと天海さんにはそれがなかった。それだけの話だ。
 でも、天海さんは可愛いし、きっとオレ以上の男と結ばれる。
 オレも、いつかは恋をするのかもしれない。だから、それまでは猛男達に付き合って馬鹿やっていたい。
 ちょっと上から目線だったかな。でも、反省はしない。そんなの必要もないと思うし。
 人を好きになる――それがこれほど難しいとは思わなかったけど。
 猛男や大和さんとは上手く友達づきあいできるから、これはこれでいいのかなぁ、なんて。
 あ、猛男だ。
 あいつ、体格が規格外だからすぐ見つかるんだよね。
 声、かけようかと思った時――。
「よう、砂川(すな)」
 あっちから気付くなんて珍しい。まぁいいや。
「おはよう。猛男」
「おはよう。いい天気だな。大和もいい天気だって言ってたぞ」
「メールでも来たの?」
「ああ、今来たとこだ」
「ふぅん」
 猛男と大和さんはしょっちゅうメールのやり取りをしている。恋人だから当然か。
「すなにもよろしく、と書いてあったぞ」
「ふぅん」
 お気遣いどうも。大和さん。
 大和さんと出会ってから猛男はいつも幸せそうだ。両思いってすごいと思う。男を変えちまうんだからな。
 いや、猛男はそんなに変わってないか。ただ、いつも楽しそうで――。
 ……オレが女だったら、猛男に惚れてただろうな。
 姉さん、やっぱりオレは男で良かったよ。こうやって、親友の隣にいられる。大和さんの応援もできる。
 今は、それさえあればいい。結構楽しいし。猛男の友達みんな、優しいし。
「ん。何笑ってんだ? すな」
「――何でもない」
 オレはやっぱり猛男が好きだ。恋だとかそんなんじゃなく、友達としてだけど。
「そうか。オレはすなが元気だと嬉しいぞ」
「おまえはいつも元気だよな」
「ああ。いい人達に恵まれたからな。何てったって、今年は妹も生まれたしな」
 猛男も笑顔で言う。
 そうだな――妹。猛男はすごく可愛がっているらしい。実際可愛いし。オレも英語を教えてみようかな、と目論んだことがある。
 猛男の妹は真希ちゃん。体格こそ人並み外れているけど、美人で可愛い。将来が楽しみだけど、年齢差あり過ぎるからな……。
『おまえだったら妹を譲ってやる』
 猛男はそんなこと言ってたけどな。気持ちだけ有り難く受け取っておこう。
「あったかいな。今日は。大和も喜ぶかな」
「そうだね。でも、おまえと大和さんは年がら年中いいんじゃないか?」
「それもそうだ。オレは大和を幸せにする為に生まれてきたんだもんな。――あ、もちろんすなのことも忘れてないぞ」
「――どうも」
 猛男と大和さんは、オレとも普通に付き合ってくれている。それがオレにも有り難い。
 姉さんには味わえない特権だ。
「ふっ……」
「どうした? すな」
「いや、今のセリフ……大和さんからも聞けそうだなと思って」
 うちはたけおくんを幸せにする為に生まれてきたんだから――あ、砂川君のことも忘れてないよ、なんて。
 あ、やばい、ツボに入った。
「幸せそうだな、すな」
「幸せだよ。おまえや大和さんといると」
「そうか。じゃあ、伝えとく」
「いや、伝えなくていいから……」
 やはり、少し恥ずかしいから――。
 オレは猛男も好きだけど、大和さんも好きだ。幸せだね。こんないい友達を持ててさ。
 猛男も幸せそうなのが一番嬉しい。友達ってそういうもんだろ?
「大和さんと今日も会うんだろ?」
「おう。すなも来い」
「いいのか? おまえは人が良過ぎるぞ。オレは別にいなくても――」
「何を言うんだ。大和だっておまえが好きだぞ」
「ああ。友達としてね」
 そう。友達として。大和さんに限って浮気などあり得ないから。
 良かったな、猛男。オレはぽんぽんと猛男の背中を叩いた。
「――すな?」
「おまえといると退屈しないから、ほんと嬉しいわ」
 猛男は時々無茶ぶりするけどな。大和さんとのキスの練習させろとか。
 でも、それが猛男のいいところでもあるんだよな。
 人のことを考えるあまり突っ走ってしまうところもあるけど――。
 剛田猛男。オレの最高の親友だ。だから、幸せになって欲しい。それがオレの幸せだから。
 それから――いつか、おまえのような恋をオレもしてみたいと思う。重複かもしれないけど。
 まぁ、侠気については負けてるから、今は保留にしておく。そういえば、オレが悪い女とくっついたら、それでも受け入れるよう努力するみたいなこと言ってなかったっけか。猛男。まぁ、そんな女まだいないけどね。
 これがオレの猛男考だ。そして、これからもずっと猛男とは親友だ。

後書き
『俺物語!!の』砂川くんがいい男過ぎて困る……。猛男もいい男だけどね。
これからも猛男と大和と仲良くしてね。
彼が誰かに恋するのはいつでしょう……☆
2015.3.27


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