『黒バス』小説『青峰クンの襲来』

「ん? 何だコレ」
 火神が一枚の写真を拾った。
 青い髪に黒い肌――もしかして青峰大輝?
「どれどれ」
 黄瀬が覗き込む。
「あー。これ。オレの隣にいるの、中学生の頃の青峰っちっスよ~」
「ふぅん。……可愛いな」
 今の何人か殺めてそうな面の男とは大違いだ。
「火神っち~。黒子っち睨んでるっスよ~」
 黄瀬が怖がっても、火神は動じない。
 ……この普通の少年があの凶悪面になるなんて、時間の流れって不思議だ。
「おー。やってるやってる」
 青峰が台所から出て来た。
「あー! それ、うちのローストビーフ!」
「旨いから食ってた」
「もー、何なんスか。青峰っち~」
「青峰、オマエ中学の時は可愛かったんだな」
「あん? ……何だって?」
「あの頃の青峰っちは男子にも人気あったっス」
「まぁな。モトがいいからな」
 青峰がふっと得意そうに笑う。
「今とは大違いだ」
「何だとバカガミ!」
「やるか? アホミネ!」
「もうー。人ん家で喧嘩しないでくださいっス~」
「そうですよ。火神君、青峰君。ちゃんとお掃除やってください」
 黄瀬と黒子が注意する。
「んだよ。だから御馳走掃除してやってんじゃねぇか」
「そういうのは掃除とは言わないっス~」
 黄瀬が泣いていた。

 今は黄瀬の家の大掃除。彼が黒子に電話してきたのが始まりだった。
「あっ、黒子っちー。今ヒマー?」
「……特に忙しくはないですけど……どうしてですか?」
「うち、今ねー、大掃除してんスよ。親はいないんス」
「黄瀬君の両親は忙しい人達ですものね」
「黒子っちにも手伝って欲しいんスけど。緑間っちも来てるっスよ」
「わかりました」
 その後、黒子は火神と出会い、二人で黄瀬家を訪れたというわけだ。
 黄瀬は、
「人手は多い方がいいんで助かるっス」
 と火神に言った。
 青峰がいるのは――これは計算外というもので、彼が勝手に黄瀬の家に襲来してきたのだ。
「掃除終わったらバスケやろうな」
 なんて何もせずに高みの見物。黄瀬も本当は帰って欲しいみたいだ。
「オマエら、何をやっているのだよ」
 今まで隣の部屋の埃をはたいていた緑間が来て言った。
「ああ、緑間っち! ちょっと助けてくださいっスよ~。あの二人喧嘩始めたっス~」
「ああ、そうか」
「そうかって――止めないんスか?」
「無駄なのだよ。ああいうのはえてしてエスカレートする。巻き込まれたくはないのだよ。それに――」
「それに?」
「傍で見ている分には面白いのだよ」
 緑間はほくそ笑んで黒ぶち眼鏡のブリッジを直す。
「緑間っち、ひどいっスね」
「むっ。――いつそうなるかと思っていたのだよ。黄瀬、オマエには覚悟が足りないのだよ」
「そんな覚悟いらないっスよ……」
 黄瀬はまた泣いた。
「もう。二人ともやめてください」
 黒子が止めに入った。それでも火神と青峰は喧嘩をやめない。
「黒子っち……勇者っスね……」
「喧嘩する青峰君と火神君なんて嫌いです」
 そう言うと、彼らはぴたりと喧嘩をやめた。
「ほう……黒子が止めた。さすが元シックスマン」
「いや、それは関係ないと思うっス……」
 黒子の鶴の一声で喧嘩をやめた火神と青峰は掃除に戻った。青峰は台所の掃除、と称して相変わらずぱくぱく御馳走を食べていたが。
 チャイムが鳴った。黄瀬が玄関に向かった。
 やがて、また人が来た。
「テツくーん」
 青峰と同じ学校、桐皇の桃井さつきが来た。自称、黒子テツヤの彼女。
「テツくんちに遊びに行こうとしたら、キーちゃんちにいるって言うから来ちゃったー」
 そう言って黒子に抱き着いた。
「うわっぷ」
 黒子は戸惑っているようだ。
「何しに来た。さつき」
 と、青峰。
「えー。別にいいっしょ。青峰っち。桃っちが来てくれたんだから。桃っちおやつ食べる?」
「えー。キーちゃん、ムッ君みたいなこと言ってるー。もらうけど」
「紫原っちは滅多に人におやつあげなかったっスけどね~」
「おい、黄瀬。オレ達とは随分態度が違うじゃねぇか」
「オレはイイオンナの味方だもんね」
「きゃー、キーちゃん好きー。テツくんの次に好きー」
「あー、そうだ、桃井。これ、面白いモン見つけたんだけどよー」
 火神が中学時代の青峰の写真を取り出した。
「あ、これー? もっと面白い写真あるよー」
 そう言って桃井も写真を取り出す。
「うわっ。くっ、あはははは……」
「笑うな! バカガミ!」
 いつの間にか青峰が背後にいた。
「さつきー。てめ、よくこんな写真を……どうして持ってるんだ」
「話のタネにと思っていつも持ち歩いてんのー。これ、可愛いでしょ?」
「返せ!」
「やーだ」
 桃井はべぇ、と舌を出した。
「ああ。桃っちは癒しっスね~」
「そうか?」
 隣にいる緑間が黄瀬にきいた。
「桃っち可愛いからいるだけで癒しっスよ~」
「オマエはああいうのが好みなのか」
「まぁ、黒子っちも可愛いですけどね。つか、黒子っちが本命」
 火神はそれを聞いて、
「やっぱり見張りに来て良かったぜ……」
 とこっそり呟いた。

 掃除が終わった後は皆で打ち上げ。マジバへ行くことになった。
「みんな、お疲れ様っス~。なんだかんだ言っても楽しかったっスね!」
「こいつさえいなければな」
 火神と青峰は同時に互いを指差した。

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