シャルルカンとヤムライハ

「おまえ……シンドバッド王に手を出されかけたというのは本当か?」
 シャルルカンの質問に、
「本当ですわ」
 と、ヤムライハが答えた。
「朝目が覚めたら黒焦げになっていたことがあったが、あれは君だったのかい!」
 シンドバッドも初めて知る衝撃の事実!
「王も物好きな……こんな凶暴女相手にしなくたって……あてっ!」
「誰が凶暴よ、誰がっ!」
 ヤムライハはシャルルカンを足蹴にする。
「わかった! 王も飢えてたんですね! それなら気持ちはよっくわかります!」
 立ち直ったシャルルカンが心の底から咆哮した。
 ヤムライハは――
 今度はシンドバッド、ジャーファルと共にまたシャルルカンを攻撃した。
「いてっ! いてっ! いてっ!」
「ねぇ、マスルールさん、どうしてジャーファルさんまで混じってんの?」
 というピスティの素朴な問いに、
「大人の事情というヤツがあるんじゃないすかね……」
 と、彼は遠い目で応答した。

 剣術使いのシャルルカンと魔法使いのヤムライハ。
 どちらも八人将の仲間だ。
 というのは建前で――
 実はものすごく仲が悪い。
 それというのも――
「剣術こそが最強!」
「魔法こそが最高よ!」
 などとことあるごとに喧嘩をしている。
 シンドバッドは、
「またか……」
 という目で見ている。シンドバッドの頭痛の種のひとつであろう。
 そこにアラジンとアリババが入り込んで来たからさぁ大変!
 彼らはアラジンとアリババをも巻き込んで壮大な痴話喧嘩を始めたのである。
 アラジンとアリババ。どちらが強くなるか勝負することまで決まってしまったのである。
 ――ちなみにモルジアナはマスルールの元でマイペースに修行をしている。よって、この傍迷惑な二人の仲違いに巻き込まれずに済んだのである。
 それはさておき。

「やっぱり星空っていいよなぁ」
 シャルルカンがそう言いながら丘の上でごろ寝をしている。
「あ、あいつ……」
 ヤムライハは苦虫を噛み潰したような顔で言った。せっかくの美人が台無しだ。
「どいてくれる?」
 ヤムライハはシャルルカンに居丈高に言う。
「そこは私の場所なのよ」
「なんだぁ……? ヤムライハ。んなこと誰が決めたよ」
「私に決まってるじゃない」
「じゃあ、俺もここが俺の場所と決めるわ」
「勝手に取るんじゃないわよ」
「てめぇこそ。――ちょっと魔法が使えるからっていい気になってんじゃねぇぞ」
「そっちこそ。剣ぶんぶん振り回してかっこつけてるなんて異常よ……」
「異常ね……」
 シャルルカンは立ち上がった。
「面白い。今日こそ決着つけてやるか?!」
「望むところよ――と思ったけどやめたわ」
 アンタみたいな馬鹿相手にしてる暇ないし――とヤムライハは付け加えた。
 実はシャルルカンは心の中でほっとしていた。
(ヤムライハと本気で戦ったら、こっちもただじゃすまねぇもんな)
 心の奥底ではヤムライハにも一目置いているシャルルカンであった。
 それに――今の自分には大切な使命がある。
 アリババを強くすること。
 ヤムライハとの競争心がなくてもそれはできるが、ヤムライハがいなかったらシャルルカンはもっと適当にやっていたかもしれない。
(ま、少しくらいは認めてやっても良いけどな)
 シャルルカンは剣を納めた。
「――で、今、どうなってるの?」
「え? 何が?」
 シャルルカンはからっとぼけた。
「――アリババくんよ! 少しは修行の成果はあったの?」
「うーん……」
 シャルルカンが首を傾げる。
「まぁ……筋はイイけどな。まだまだだぜ」
「そう……」
 ヤムライハはほっとしたようだった。
「アラジンは――?」
「こっちもまだまだってとこね。でも、アラジンくんには何か考えがあるようだから」
「へぇー。おまえの教え方が悪いんじゃねぇの?」
「何ですって?!」
「滾るなよ」
 些か冷静さを取り戻したシャルルカンが言った。
「俺達が苦労して手に入れた技をそう簡単に習得されたらこっちの立場がないぜ」
「そうね……私達だって血の滲むような思いで修行したんですからね」
(うぉっ! 初めて意見が合った!)
「ま、順を追ってやっていくしかないわね……」
 尤もだ、とシャルルカンは頷いた。
「でも……アラジンくんはすごいんだからぁ。どこかの剣術バカとは違って。あの子は絶対すぐに大魔法使いになれるわ。そりゃアリババくんもすごいかもしれないけど、アラジンくんと私とのタッグには敵わないでしょうねぇ」
 ――前言撤回!
 シャルルカンはぎりぎりと歯噛みをした。
「アリババくんはどう? いくら筋が良くても教える人次第よねぇ」
「……まぁな」
 シャルルカンはこきこきと首を鳴らした。
「な……何よ。そんなに素直じゃ気味悪いじゃない」
「おー、どうせ素直な俺は気味悪いよ」
「いつもそんなだったらいいのに……」
「……は?」
「何でもないわ」
「つまり、俺達の勝負は今んとこ互角ってわけだな」
「ええ、そうね」
 シャルルカンがにやりと笑うと、ヤムライハも何か決意したような緊張した面持ちを見せた。
(俺は……!)
(私は……!)
 絶対こいつに勝つ!
 星空が彼らを見守っている。もし星座に人格があったら、「やれやれ」と呆れていたことであろう。

後書き
アラジンとアリババがシャルルカンやヤムライハと修行したごく初期の話です。
個人的に、アラジンもアリババも初めから上手くいくわけないよなー、なんて思ってたりしたのですが。
シャルルカンとヤムライハはお互いに認めていると思います。恋人同士になってくれたら嬉しいかも……!
でも、そうしても喧嘩は絶えないだろうなぁ……(笑)。
2013.4.20

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