すまない・・ 後編

「そんで、オマエらこれからどうするんだ? まさかこのまま反省会でもないだろ?」と虹村。
「あてはあるのだよ」
 緑間が自分の髪の色と同じ、ラッキーカラーの緑のケータイで高尾を呼び出すと、
「高尾、折沢の連絡先知ってるだろう? そいつに荻原シゲヒロの家教えてもらってこい。えーじゃないだろ。元はといえばオマエの責任なんだからな。――わかってる。オレも少々入れ込み過ぎだが、どうしようもないのだよ。え? 苗字が違うって? ――まぁ、似てるけれどな。苗字の違いは、母方の従兄弟とか、理由はいっぱいあるだろう。頼んだぞ」
 プツッと通信を切ると――
「緑間君て案外亭主関白なんですねぇ」
「こんな男前な緑間、オレ初めて見たわ」
 黒子と灰崎が茶々を入れる。
「うるさいのだよ!」
「まぁ、茶でも飲んで待ってな。オレもついてくから」
 と、虹村。
「何で?」
「そりゃ、元帝光バスケ部の部長として、ほっとくわけにはいかんだろ」
「ほっときゃいいのに。そんな面倒なヤツ」
「灰崎……世の中は強い人間ばかりとは限らないんだぜ。オマエもわかってるだろ」
「はい……すみません、でした……」
 灰崎は大人しく謝った。彼にも思い当たることがあるのであろう。虹村も大人としての貫録が出てきた。
(赤司とは違うな……)
 赤司は、勝利にこだわり過ぎて、大切なものが見えなくなっていた。
 もし、虹村の父が健在だったなら――。
 だが、それも詮無い繰り言だ。
 灰崎が台所に引っ込む。台所から魚を焼くいい匂いがする。緑間達がお茶を飲みながら学校の話などをして待っていると、しばらくしてから電話が鳴った。
「あ、高尾からなのだよ」
 緑間は高尾の連絡を聞いて、うんうんと頷いた。荻原の住所と道順がわかったのだ。今は意外と近くに引っ越しているらしい。
「よくやったのだよ! 高尾!」
 緑間が高尾を褒めた。
『そんなに褒められたら高尾ちゃん照れちゃうな~』
「……切るぞ」
「あ、ちょっと待って。おーい。黄瀬~」
「あいよ」
 高尾が黄瀬と代わったらしかった。
「黄瀬……何でオマエが高尾といる」
「帰る途中に会ったんス。んで、昔のことを訊かれたんスよ。高尾っちに」
「何を聞いたんだ、高尾に」
「えーと……明洸中との試合で何があった?って訊かれたから、喋りましたっス」
「そうか……」
「くだらないことやってたね。オレ達――負けてみて初めてわかったっスよ。負ける方も真剣に戦ってきたのだということを――」
「そうだな……」
 洛山対秀徳戦。因縁の誠凛と戦うこともせず、緑間達は洛山に――赤司に負けた。今でもその時のことを思うと鼻の奥がつうんとなる。
「じゃ、今から荻原っちのところに殴り込みっス~」
「殴り込みってオマエ……しかも荻原っちって……」
「黒子っちの友達だった。それだけで未来の強力なライバルっスよ! そういえば、緑間っち、今も黒子っちと一緒に行動してるんスか?」
「ああ」
「――あ、赤司っちからメールが来てる。『今度こそお互い実力を出し合って頑張ろう。そう伝えておいてくれ』だってさ。もう一通、今度は紫原っちから来てるっス。『バスケ、あんま嫌いじゃなくなってきたから、また試合で会おうね』だって。紫原っちらしいっす。もちろん、どっちも荻原っち宛てっすよ」
 緑間は――今度こそ感激の涙で、泣いた。
(荻原、ありがとう。オマエのおかげで何かが変わった気がする。それから黒子。オレ達を見捨てないでくれてありがとう)
 緑間達は待ち合わせ場所を決め、通信を切ってから言った。
「オレは荻原のところへ行く。黒子、オマエはどうする?」
「勿論、僕も行きます」
 黒子は頷いた。もともと生真面目だった目つきが更に真摯なものに変わった。そして、彼は虹村の方に向き直った。
「虹村先輩。これは僕達の問題ですから、僕達に任せてください。荻原君の家にはついて来なくて結構です。虹村先輩達にもいろいろ予定があると思いますから。――誠に身勝手ですがすみません。話を聞いてくださってありがとうございました。灰崎君も」
「黒子……」
 虹村は目を瞠っていた。
「じゃあ、オマエらは何しにここへ来たんだ?」
「背中を押してもらいに来たんです。後、過去の懺悔というところでしょうか」
 緑間が答えた。虹村が笑った。
「――そうか。わかった。もう何も言わねぇ。頑張れよ。それから、時々は遊びに来いよな」
「オメーら、メシ食わねぇの? せっかく作ったのに。もうできてんぞ」
 灰崎の心遣いが身に染みる。
「はい。今度、また来た時に御馳走になります」
「オレも――これで失礼するのだよ」
 緑間と黒子は虹村のアパートを後にした。
「なんか……良かったですね」
「ああ。すっかりのろけられてしまったのだよ」
 緑間と黒子はお互いふっと微笑んだ。

「おー、オマエら」
 駅の近くのバスケットコート。そこで青峰大輝がダウンジャケットを羽織ったまま突っ立っていた。荻原の住んでいる家はここの駅から一駅しか離れていない。桃井さつきもいた。
「テツくーん!」
 桃井が黒子に抱き着いた。帝光中の面々にはお馴染みの光景である。
(あんなにあからさまに求愛しているのに、オレは何で気付かなかったのだよ……)
 高尾と付き合うようになってから、人の色恋沙汰に通じてしまうようになった。何となく匂いでわかってしまうのだ。――わかりたくなかったが。
「でも、青峰っちまで来るとは思わなかったっス~」
「黄瀬、オマエ、そればっかりだな」
「だって~。オレ、桃っちにしか連絡しなかったっスよ?」
「ばーろー。オレだって罪滅ぼしの気持ちくらいあらぁ」
「青峰君ね、誠凛のこと、褒めてたよ」
「それはオマエじゃねぇか。さつき。いくらテツがいる学校だからって……」
「誠凛は、いい学校です」
 黒子が首肯した。
「だから……中学時代に見たあのチームが羨ましくて、僕は志望校を誠凛に選んだんです」
「あ~ん、私も誠凛に行けばよかったぁ~。いろいろ楽しそうだし、テツ君はいるし」
「だったら今からでも行けば?」と、青峰。
「だって、それじゃ、青峰君またバカやるでしょ」
「まぁ……そうだな」
 しばらく間を置いてから、青峰は言った。
「行くぞ。さつき――罪滅ぼしの機会をくれて、あんがとな」
「青峰君……」
「やっぱり桃っちが青峰っちに言ったんスね! ――あ、緑間っち。高尾っちには今回は遠慮してもらったっス」
「ああ。その方がいいのだよ」
「ぺちゃくちゃうるせーぞ。置いてくぞ」
 そう言って青峰は先頭で風を切る。
「それでは、行きましょう」
「そうスね」
「――だね」
「ああ、行くとしよう」
 すまない、荻原。オレは、あの時、全力で止めるべきだったのだよ。それでこそ、人事を尽くすということだ。
 オレらには、オレ達が折ってしまったオマエの心を癒すことはできない。オレらにできるのはただ、オマエに――それから、真剣に相手をしてこなかった全ての敵に心の中で謝ること。そして――。
 人事を尽くすこと。
 オレは、全力を尽くして戦うのだよ。これからはもっと――。
(これからも支えてくれ、高尾。オマエにはどんなに感謝の言葉を尽くしても足りない)
 緑間は眼鏡を外した。視界がぼやけて抽象画のようだった。それは決して弱い視力のせいだけではなかった。
 青、ピンク、黄、水色――。そして、緑間は空を見上げた。地上にも天にも星が輝いている。

後書き
何とこの話には続きがあるのです。恐ろしいことに(笑)。
緑間視点ではありません。誰視点かは見てのお楽しみ。
でも……荻原君の話、勝手に作って良かったんですかねぇ……。まぁ、後悔はしていません。荻原君は黒子っちには期待を寄せていたと思いますが、キセキとも絡ませたくて。しかし、赤司はどうやって絡ませればいいのかな。
虹灰は、とある人気サイトさんにインスパイアされまして……書いてて楽しかった(『ギャグだぞー』の辺りね)。
2014.1.17


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