独伊小説『好きになっちゃった』
「ねぇねぇ、ルートー、靴ひも結んで」
はいはい。フェリシアーノ、どうしておまえはそうなんだ。
「ねぇねぇルートー、ねぇねぇルートー」
今度は何だよ。
「俺ルートヴィヒのこと、好きになっちゃったみたい」
……俺は飲んでいた水を吹き出した。
「何で俺なんだよッ!」
「えーとー……」
垂れ目のフェリシアーノは小首を傾げた。
「わかんない。何となく?」
「……殴るぞ」
「ウソウソ冗談」
フェリシアーノが手をぶんぶん振る。
「多分……真面目で優しいところかな」
「…………」
何だ。意外とまともな答えだな。
「俺は優しくないぞ」
「優しいよー。俺にはわかるよー」
「同じ枢軸だからって無理しなくていいんだぞ」
「してないって! 菊のことも好きだけど、ルートは特別ッ!」
「貴様、その台詞何回吐いた」
「可愛い女の子に。でも、一回も経験ないよ。俺、ルートに童貞あげるね」
「いらんッ! つーか俺が女役か?!」
「怒った?」
「ああ、怒ったとも」
そのまま、沈黙。
「――ねぇ、パスタ食べない?」
「食わん」
「えー、パスタ食べないと死んじゃうよー。明るく生きられないよー?」
「そんなのはおまえだけだ」
「ルートはジャガイモとビールとソーセージさえあれば生きていけるんだよね」
「…………」
なるほど。確かにそうかもしれない。
俺もこいつをよく見てるけど、こいつも俺をよく見てる。
やっぱり俺ら、お似合いかもな。
フェリシアーノは可愛くないこともないしな。この会話、兄さんが知ったら焼き餅やくな。
兄さんもフェリシアーノが好きだからな。
フェリちゃん、フェリちゃん――って可愛がってたもんな。
悪いけど、兄さん。フェリシアーノは譲らんぞ。
兄さんにもエリザベータがいるしな。エリザベータはローデリヒのことが好きみたいだけど。
エリザベータには忘れられていると知った時、兄さん荒れまくったよな……俺は他人のふりをしたかったけど。
初恋……だったんだってな。
「……くちっ」
フェリシアーノはくしゃみをした。
「この上着……」
「何? ルート」
「大きいかもしれないけど、羽織ってな」
荒野の夜はまだまだ寒い。俺はフェリシアーノに自分の上着をかけてやった。
「あったかーい」
フェリシアーノは幸せそうな顔をしている。
「ねぇ、ルート」
「何だ?」
今度はこっちが質問する番だ。
「パスタ食べない?」
「――……それどころではないだろうがぁぁぁぁぁぁっ!」
俺達は今、道に迷っている。
道路に出るにはどうしたらいいか、それが最重要課題なのに、こいつはパスタのことしか考えてないのか?
おまえの頭はマカロニか?
狼が出てきたらどうすんだ? 一応ライフルは持っているが、なるべく使いたくない。無駄な殺生はごめんだ。
俺達は、ジープの中にいる。獸の気配はない。
ひとまず安全か……。
そう独り言を心の中で言って――はたと気がついた。
俺達、道に迷う回数が多くないか?
他にも、南の島で遭難したり遭難したり遭難したり。
もしかしてこいつのせいか?
フェリシアーノはぬくぬくと俺の上着に包まれて幸せそうに眠っている。
俺はだんだん腹が立ってきて――
「起きろ!」
フェリシアーノは間抜け面になった。寝起きは誰でもそうなんだな。
「ふぇ……もう着いたの?」
「馬鹿! 凍えて死んでも知らんぞ」
「ルートー……」
俺はジープを走らせ始めた。少しでも明るい方へ。北極星が見守ってくれる。
「今度は何だ!」
「ルート……大好き……」
くうっ!
俺もこういうのは弱いんだ。免疫がないからな。
これでもこいつは天下のイタリアなんだ。相手に不足はないが、なんたって男同士だものな。
まぁ、無理してやらなくてもいいとは思うが……俺にだって人並に欲情することはある。相手がフェリシアーノであってもだ。
それにな、俺も童貞なんだ。
恋ひとつしたことない。まぁ、自慢にはならんが。
それよりも戦う方を選んだ。体を鍛える方が大事だ。
(ルートってさぁ……ムキムキですっごく強そう。ルートの筋肉って、大好き)
何故そうあけすけに言えるんだ? フェリシアーノ。
俺が襲わないとでも思っているのか? 警戒していないのか?
だとしたら、すっごく寂しいぞ。
「フェリシアーノ、俺は男なんだぞ」
「うん、見てるよー」
「またあけすけにそんなことを……だから、おまえを押し倒すこともできるんだぞ」
「へ?」
「だから……二度も言わすな!」
こっちが恥ずかしい。
けれど、フェリシアーノの素直さ、嫌いじゃない。少々開けっぴろげ過ぎるところも……。
はっ! 俺はノーマルだと思っていたが、もしかして、男好きなんだろうか……。
違うよなぁ……女の子にも好意を持つことは俺にだってあるし。まぁ、ドイツ娘は若い頃は可憐でも、中年になると太ってしまうがな。
彼女らは俺よりも強いんじゃないかと思うほどだ。
フェリシアーノも華奢でヘタレで……弱い。だから、保護欲そそられるんだろう。うん。きっとそうだ。
取り敢えず、荒野を突っ切って街道へ出るかな。幸い燃料はまだたくさんあるし。
しかし、一生こいつに振り回されて生きて行くんだろうか……。
それも人生……いや『国』生か。
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