シスの心

 シス――彼女には心と言う物がなかった。それはアンドロイドだったからだ。
 優しく語りかけてくれた人はいた。けれど、シスは何も感じなかった。
 ある日、シスは壊れてしまった。

 ――シス、シス――。
 だ……れ……。
 私を呼んでいるのは、だ、れ……?

 シス――おまえは一人の青年の心を救ったのだよ。
 
 青年の心を?
 
 ――そう。見せてあげる。あの公園で君を待っているよ。
 私のことを?
 ――ああ。来る日も来る日もな……。
 
 私は何故ここにいるの?
 死んだからだよ。
 死……死って何ですか?

 これからわかるよ。ほら……。

 スカイハイが風の能力で、塗装の剥げたシスの体を粉々に打ち砕いた。
 あれは私、私……。

 あの青年は君の正体を知らないで、ずっと待ち続けているよ。
 …………。
 どうした、シス。
 わからない。でも、目から何かが出て、止まらないの。
 ――それは涙というものだよ、シス。
 あの人が私のことを待っている。それが遣る瀬なくて……。
 君は心を手に入れたのだよ。
 今までの君は、幸せでも不幸でもなかっただろう? けれど、今からは不幸になるね。残念ながら。
「私を、私をあの人に会わせて」
 もう無理だ。君の体は壊れてしまった。
 じゃあ、どうして! どうして私に心をくれたりしたのですか!
 君自身の幸せと不幸を感じて欲しかったからだよ。
 どうして……。
 こんなに辛いなら――こんな感情なんて消えてしまえばいいのに!

 シス……君は人間になるんだ。
「あなたは……どこから喋っているの?」
 君の目の前だよ。
 それは、大きな光だった。
 私は父なる者、そして母なる者だ。
 白い光は人の形をとって、シスの前に現われた。

 シスは、それに縋って泣いた。
「うわあああああああああん! うわあああああああああん!」
 アンドロイドだった頃には、想いもよらなかった感情。
 あの人が好き……。

 さぁ、もう時間だ。行くんだよ、シス……。

 ジリリリリリ。
「ん? 朝?」
 もうこんな時間。遅刻だわ。
「あら、シス、起きたの?」
「おはよう、シス」
 そうだった。私はシス。家族は優しい父様と母様。
 私はその一粒種。
「ご飯食べていらっしゃいよ」
 母の一言に、私は無言で頷く。

 バスに乗る。
 何か新鮮な感じ。
 それに……今日は嫌な夢を見ていたような気がする。
 でも、嫌なだけではない。本当は。
 心が洗われるような、そんな感覚。
 そして――夢の中の私は、誰かに抱かれたようだった。
 大きな存在に。
 何だったのかしら……?
 だが、私はその疑問を心に仕舞って学校に行く。

 私はハンサムな級長に恋をしていた。
 でも、私にはそれを告げる勇気がなかった。
 あの人と同じになるかと思うと……。

 あ、あれ……?
 あの人って、誰だっけ?
 涙が止まらない……。

 私は保健室に連れて行かれた。
 先生が父様に電話をかけると、すぐ早退させてください、との返事が。
「わかりました」
 先生はにっこり笑った。
「帰っていいわよ。シス」

 私は帰る時、近くの公園に寄った。
 何故か懐かしい……。
「ジョン! ジョン!」
 大きな犬……。
 そして――その犬を連れているのは、憧れの級長にそっくりのハンサムな金髪の青年。
「やぁ。済まなかったね。あれ?」
 その人は顔を覗き込んだ。
「あの……」
「ああ、済まない。そして済まない。私の初恋の人に似ていたからつい……でも、違うようだね」
 青年はジョンという犬を連れてどこかに行ってしまった。
 不意に――私の心はがらんどうになった気がした。
 この穴を埋める物など、今はもうない。

後書き
矛盾点がたくさん(笑)。
シス可哀想……いつかリベンジしたいです。
2012.1.24

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