シスの恋 あの青年――何者なのかしら。 出会った時、どうしようもない喪失感に襲われたけれど――。 あれこれ考えているうちに、シスは眠ってしまった。 シス……シス……。 「あ、あなたは……」 ゆうべも出てきた人……。 もしかして……神様? ――そうだね。皆は私のことをそう呼ぶね。 シスの心を読んだらしいその存在は言った。 「神様……私、恋をしたらしいんです」 今度は、冷静に喋ることができた。 ――そうか……だが、遅かったな。あの青年にはもう恋人がいる。 「どんな女性ですか?」 きっと、素敵な人だろう。 見てごらん。 人を待っているらしいあの青年。 息せき切って走ってきたのは――何と少年! それも、すごい美少年だった。 「遅くなってすみません」 「いいんだよ。待つのも楽しみのひとつさ」 そう言って、シスには見せなかった極上の笑みを浮かべる。 「さ、行こうか」 二人は手に手を取って行ってしまった。 「…………」 ああ、あの人はとても幸せそうだ。 良かった――。 でも、この喪失感を埋める為にはどうしたらいいのか……。 ――簡単だよ。 神様が言った。 君も誰かを愛すればいい。 愛すれば……。 しかし、心当たりなんて――あ! 私には、片思いの相手がいる。 あの人に――告白してみようかしら。 でも、私が本当に愛していたのはあの青年で……。 シスは少し頭を休ませようとした。 恋は落ちるものだけど、愛は育むもの。 密かに好きだった級長の少年が相手でも、きっと愛は育つはず。 神様は……笑っているように見えた。まるでシスを祝福するかのように。 シスはまた夢を見た。 「やあ」 それは、間違いなく級長だった。 シスははにかんでうつむき、 「こんにちは」 と言う。 「こっちを向いて。……僕達は……」 そこで目が覚めた。 いい夢だったような気がする。 級長の少年――シスはやはり彼も気になるのだった。 金髪のあの青年にはもう恋人がいたけれど。 私には、ずっと恋していたあの少年がいる。 学校へ行く途中、あの青年とすれ違った。 互いに会釈をした。 もう喪失感もない。 シスは金髪の少年に会う。 「シス……後で屋上に来てくれないかい?」 シスの胸はどきんと高鳴った。 ――僕、君のことが好きだよ。 ずっと片思いだった少年から出た告白の言葉。 それは、ずっと彼から聞きたかった言葉。 けれど、シスは複雑だった。あの青年のことが尾を引いている。 あの人……名前、何て言うのだったかしら。 気になる、気になる……。 でも、忘れなきゃ。 たとえあの人が、本当の初恋の人だったにしても。 とかくこの世はままならぬ。 あの青年を見かけることがあったら、幸せになってくださいって、言うんだ。 たとえ直接言えなくても。たとえ心の中だけででも。 そしたら、気分も少しは晴れるだろう。 シスは、にこっと笑った。 ――私も、好きです。 デートの待ち合わせの場所に向かう時、あの青年とすれ違った。 シスを見た時、青年は笑顔になった。 「あ……あの……」 「何だい?」 「私、シスと言います。あなた、名前、何て言うんですか?」 「――キースだ。キース・グッドマン」 「キース……」 青年の名を聞いたそれだけで、心が温かくなった。 でも、この恋とは縁を切らなければならない。 「さよなら、キース」 「――? さよなら」 そして、どうか、お幸せに――。今度会った時にはいい友達ね。 シスは走り出した。恋人の待っているところへ――。 後書き 今回、空折もあります。 一応、ハッピーエンドかな。 2012.3.16 |