おお振り小説『視線の先』

「こんにちはー。三橋君」
 明るい声。
 うちのマネジのしのーかだ。
「う……あ、こんにちは」
 しのーかと話す時は、いつも以上にどもってしまう。
 情けないよね、オレ。
「今日もがんばろうね」
「う、うん」
 しのーかはモモカンに呼ばれて行ってしまった。
 ああ、もっと話したいな……。
 これって、恋かな。
 よくわからないけど、今まで会った女子の中では、しのーかが一番好きだな。
 誕生日を覚えてて、おめでとうって、言ってくれた。
 その頃から、オレ、しのーかが好きだな。
 オレ、あんまりモテなかったから……。
 初恋は、ルリではなかったはず。
 うん。断じて、ルリではない。
 それに、ルリには叶君がいるし……。
 しのーかにも好きな人はいるんだ。
 オレとバッテリー組んでる阿部君。
 オレ、知ってるんだ。
 しのーかが、阿部君を好きなこと。
 阿部君としのーかなら、お似合いだよね……。
 阿部君はかっこいいから……。
 阿部君から、しのーかを取りたくないな。
「おー。何見てんだ? 三橋」
 びくぅッ!!
「あ、あべ、くん……」
「しのーか見てたのか?」
「あ、う……」
 しのーかを見てたこと、阿部君に悟られたくない。
 しのーかは、多分阿部君の恋人になるんだから……。
 だから、オレは諦めなくちゃ、だ。
「なぁ、何とか言え、三橋」
「あ、う……」
 何て言えばいいんだろう。
「しのーかを見てたのか?!」
 阿部君の声が大きくなる。
「ち、ちが……」
「じゃあ、何だよ」
 しのーかは、水谷君と話している。
 だから、つい、言ってしまった。
「違う、よ! オレが見てたのは、水谷君、だよ!」
「そうか……水谷か……」
 そう言った阿部君は、ちょっと怖かった。

~その後の水谷ダイアリー 一部抜粋~
『この頃、阿部がすげぇ顔で睨んでくるんだけど、オレ、なんか悪いことしたかなぁ……』

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