シンドバッド達の夜

※15禁注意

 シンドバッドの部屋の灯りが点いている。
 まだ起きているんでしょうか、あの方は――
(全く、仕方ありませんねぇ)
 ジャーファルはほっと息を吐いた。
 シンドバッドと出会ってから、人生の楽しみも増えたが苦しみもまた増えた。最初に会った時は敵同士だったのに。
(それが……私もあの人の部下になるとは……)
 しかも、それだけではない。
 そのことに想いを馳せると、ジャーファルは悩ましい表情になった。
「シン」
 ジャーファルはシンドバッドと二人きりの時には彼のことを『シン』と呼ぶ。
 シンドバッドはまだ酒杯を傾けていた。
「シン!」
 この方はまた――!
「もう飲むのはおやめください」
「え……何で……?」
「貴方の命を狙う者がここに来たらどうします!」
「そんなのおまえしかいないって」
 へらへら笑いながら答えるシンドバッド。だが、ジャーファルの体は強張った。
 まだ許してくださらないのか。シンドバッド――シンは。
(……気にしても仕様がないですね。酔っ払いの戯言でしょうから)
「シン。酒はお控えください。飲み過ぎは体に良くないですよ」
「ん~」
 ばさっとシンドバッドの紫色の髪が垂れかかる。その男の色香にジャーファルはくらくらしそうになった。
 そこで、はっとした。
(今はそんな時ではない。早くシンを寝床へ運ばないと――)
 シンドバッドの酒癖の悪さは有名だ。傍にいる者に誰かれなく襲いかかることもある。
 かくいうジャーファルももう数えきれないぐらい――。
(私は――何てことを……)
 またシンドバッドに襲われたい、なんて――。
「んー、ジャーファル……」
「な、何ですか」
 早くなった心臓の鼓動を気取られないようにジャーファルは早く離れようとする。が――。
「わっ」
「ジャーファル……俺なぁ……寂しいんだ……」
「はいはいそうでしょうとも」
 三時間かけて口説き落とそうとした踊り子に結局は袖にされてしまったというわけだ。気持ちはわかるけれど――。
(私をその踊り子の代わりにしようとしなくても良さそうなものなのに……)
「ん~、ジャーファル……」
 シンドバッドがキスをしようとする。
「駄目ですよ、シン。めっ、ですよ、めっ!」
 だが、シンドバッドも容易に引きそうにない。
 ジャーファルにはシンドバッドしかいない。けれどシンドバッドにはたくさんの国民がついている。
 男前で強い七海の覇王シンドバッド。シンドリアの国王。彼に懸想する女は沢山いる。
(私なんか相手にしなくても、大モテのはずなのに……)
 今だって集合をかければ男女問わずシンドバッドと閨を共にしたいという人々はいくらでも現われるはず。
(なのに、何で私なんか――)
 そして、私も何でシンなんか――。
 これはきっと叶わぬ恋だ。この人にとってはただ単に部下をからかっているだけなんだ。――そう考えると哀しみに心が傾き、目元に涙が浮かんで頬を伝った。
 シンドバッドはぺろりとジャーファルの涙を舐めた。
「なっ、なっ……」
 動揺しながらジャーファルが言う。
「ジャーファル……君の涙、旨いんだな……」
「かっ、からかわないでください……!」
「今日は……君が相手してくれるかい?」
 窓からは月の光が差し込んでいる。そのことにジャーファルが今になって気がついたのは、灯りが部屋中を照らしていたからか。
(シン……)
 貴方が望むのなら、私は――。
 結局こうやって流されてしまうのか。
「一回だけですよ、一回だけ」
「――わかった」
 どうしようもない男だ。シンも。私も。
 普段は名君なのに酒が入ると淫乱になる。それがジャーファルの愛した男、シンドバッドであった。
 シンドバッドはジャーファルを寝台へとお姫様抱っこで運ぶ。そして、ジャーファルの纏っていた衣服を剥ぎながら優しくキスをする。
「部屋を……暗くしてください」
「嫌だ。私は――君の顔を見ていたいんだ」
「でも……」
「綺麗だ、ジャーファル……」
 その台詞を一体何人に言ったのですか、シン、貴方は――。架空のライバルを思い浮かべジャーファルは多少いらっとした。
(何でこんな男に――私は惚れてしまったのか)
 艶っぽい声を上げながらジャーファルは心の隅でそう思う。
 だが、体の隅々を唇で清められ、シンドバッドも衣を脱ぐとジャーファルはそれどころではなくなる。
 もっと欲しくなる。この男を――。
「シン!」
「ジャーファル――……!」
 二人はひとつになった。
「いい顔だ、ジャーファル……!」
「う――ああっ、シン、シンっ!」
 絹の寝具が汗をかいたジャーファルの体に纏わりつく。それすらも快感に変わる。
「ジャーファル……ここが良かったんだよな」
「そんなこと……改めて言わないでくださいよ……」
「ふふっ、そんなところが私は好きだよ」
 そんなとこって、どこなんですか。いい年した男のくせに処女のように恥じらうところですか。そりゃ私も恥ずかしいとは思いますけどね。
「貴方にしか……見せない顔です」
「そうか……嬉しいよ」
 ずん!とシンドバッドの質量が増した。
 乳首を弄られ、ジャーファルはすっかり平常心を失っていた。
 シンドバッド。私の初恋。貴方を愛してる。
 シンドバッドには遊びであっても、私は――。
「ジャーファル……大丈夫だ。私が本気になったのは君しかいない」
「え……?」
 何で? どうして? 私の考えを読んだのでしょうか。この人は――。
「私が君を遊びで抱いたって思っているんだろう? 今、そんな意味の言葉を聞いたよ」
「な……」
 なんてはしたないことを……私としたことが。
「それから、愛してる、とも――」
「私が――?」
「ああ。君も酔っているみたいだね。酒なんて一滴も飲んでないのに」
 ――迂闊だった。
 ジャーファルは酒ではなくシンドバッドに酔っていた。いつの間にか心の箍が外れていたらしい。
 シンドバッドは苦笑いに近い笑みを浮かべていた。
(明日、どんな顔でシンに会ったらいいか――)
 愛しているなんて……滅多に言ったことなかったのに……その次の日は必ずばつの悪い思いをしたものだ。
 何でだろう。どうして人を愛して罪悪感に陥らなければならないのか。それは相手に――シンドバッドに失礼ではないか。
 今こそ心の底から認めよう。
「シン、愛してます」
 シンドバッドは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。ジャーファルのうわ言ではないストレートな告白を聞き慣れないせいであろう。
 だが、嬉しそうに微笑むと、
「私も君を愛している。ジャーファル」
 そう答えてジャーファルを絶頂へと追い上げた。強く突き上げられた時、一段と艶やかな声を上げてジャーファルは果てた。
(シン……)
 眠りにつく前にジャーファルが目にしたのは、愛しいシンドバッドの穏やかな表情だった。

後書き
シンジャです。15禁で大丈夫かな。ドキドキ。でも、ぬるいですからね。
最近の腐女子さん達のキャパシティは私から見てもびっくりです! 時代は変わりましたね。
おっと。話が脇に逸れた。シンジャ大好きです!
2013.6.21

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