シンドリアの思い出
私、煉紅玉と申します。煌帝国の第八皇女でございます。
……まぁ、ほんとはそんなに偉くもないのですけれどね。本当は。
今回はシンドリアでの思い出を綴って行こうと思います。
シンドリア……ああ、私にはその名前は大切な響きに思います。
短い滞在でしたが、一生のうちで一番良思い出ができた地でございます。――あのアラジンとかいうチビにはむかつきましたけど!
私はシンドリアとは戦いたくない……何とかして煌帝国と和平を結ぶ形に持っていきたいと考えています。このジンの金属器にかけて。
ああ……それに、シンドバッド様……。
貴方は私の初恋の人でした。
諦めなければならないのはわかっています。彼が持つ強大な力、魅力、素敵な魅力!
でもあの方は重責を担っています。だから……。
私は諦めます。いい夢を見せていただきましたわ。
それに、あの人は女の方にすごくおモテになりますし。私は男で身を滅ぼすのはごめんです。
でも……初めての方はあの方が良かったな、と思ったのも本当です。夏黄文にはお見通しだったわけですね。
だから、私は夏黄文に騙されてしまったの。夏黄文、本当は良い子なんだけれど……。
きっと私の為を思ってしてくれたのでしょう。
私はシンドバッド様と寝床を共にしたことがあります。
残念……というか、ほっとしたというべきか、ただ一緒に床に入っただけで何も起こりませんでした。
私は身を汚されたと思って、シンドバッド様を殺す為にシンドリアにやって参りました。
けれど、ヤムライハさんの水魔法で何も起こらなかったことが判明いたしました。
私も一国の皇女。身の引き際は心得ています。私はシンドバッド様を諦めることにいたしました。初恋は儚く散る、と言いますし。
そうそう。シンドリアでは友達ができました。
会ったのはバルバッド国で、その時、相手はバルバッド王家の人間だったのですけれど。
なかなか弁の立つ人で、舌先三寸で私達を言い負かしましたの。尤も、ジュダルちゃんに言わせれば、
「ババァ、おめぇよぉ……一見押し出しの強そうな顔をして本当はお人よしなんだからよぉ……」
ババァだけ余計です。でも、その他のことについては当てはまる、というか、心当たりがございます。
きっと、私の、お母様の低い身分の血がそうさせたのでしょう。お母様は遊女でした。
けれど、私はお母様が大好きでした。
彼も、母親が大好きだったそうです。彼のお母様もスラムの娼婦だったそうですが。
隠していても仕方ありませんわね。私の言う彼とは、元バルバッド王国第三皇子のアリババ・サルージャです。
一度は言い負かされた私でしたが、話して行くうちに、私と共通点がたくさんあることを発見したのです。
バルバッド国は共和制になり、王政は瓦解しました。そのきっかけを作ったのがアリババです。
元バルバッド王国の豚王……いえ、アブマド・サルージャも、今は元気にトランの村の研究に励んでいるそうです。良かったですわ。
いくら私が皇女としての務めを果たそうと心していても、あの豚王と結婚ではあんまりですから。あんまり自分が可哀想ですから。
私は若く美しく、夢もいっぱいあるのです。将来はシンドバッド様とまでは行かなくとも、アリババみたいなかっこよい元気な男の方と結ばれたいと言ったら、あなたは笑うでしょうか?
夏黄文でもいいんだけど、あの子は身分違いだと言って遠回しに断ってきました。けれど、身分違いの恋も燃えませんこと?
脱線しましたわね。
アリババとはいいお友達ですの。だって、彼にはモルジアナという彼女がいるんですもの。
あら、まだ彼女ではなかったかしら。ほほほ。
アリババは女の子にとってはいい人止まりでしょうしね。
けれど、私にはわかってましてよ。モルジアナは絶対アリババのことが好き!
女のカンですもの!
モルジアナとアリババ、お似合いのカップルだと思いますわ。モルジアナの方が強いですけど……話に聞けば、モルジアナは戦闘民族ファナリスなんですって。
まぁ、アリババはちょっと頼りないところもおありですから、モルジアナが支えてくれればと思いますわ。
あら。アリババの話が続きましたわね。けれど、彼は私の初めての友達でしたから。
友達になりなさい、と命令した私に対して、
「友達になろう!」
と、手を差し出したアリババ。私、忘れません。
シンドリアを敵に回さないと決めたように、バルバッドも敵に回したくありません。バルバッドは私の友達の愛した国ですから。
シンドバッド様がいなければ、私はアリババに心奪われていたことでしょう。
けれど、こればかりは仕方がありませんわね。
シンドバッド様は罪な男です。自分に魅力があるのを知っていて、それを巧みに操ります。そんなことで容易く落ちる私ではありませんけれど。
シンドバッド様は魅力的過ぎるのです。決してアリババに魅力がないとは……こほん。言いませんけれど。
けれど、アリババは私に良くしてくださいました。煌帝国に帰る時、私は泣きました。
もう、私に自由はありませんのね……。
白龍もすっかりアリババやアラジンと仲良くなって……私は彼が正直羨ましいのです。煌帝国では皇子と皇女では待遇や環境も違いますので。
でも、あの泣き虫白龍もがんばっているのです。私もがんばらないと!
私はシンドバッド様と世界の為に戦います。シンドバッド様にとって私は単なる手駒かもしれないけれど――だからこそ、一番優秀な手駒として認めていただきたいのです!
ジュダルちゃんも協力してくれるといいんだけど……あの子は我儘だから。いつだったか、
「ババァと友達なんてごめんだぜ」
とのたまってましたから!
ああ、思い出したら怒りが込み上げて来ましたわ! 自分で言うのも何だけど、私の感情の沸点は低い方なのよ! 煉家の血は熱いのですから!
シンドバッド様に襲われたと勘違いした時も、シンドバッド様を殺して私も死ぬ、と心に決めていたのですから。
でも、私も年頃の女の子。少しはおしとやかに花冠でも作りたい、と思うのは当然のことじゃなくて?
まぁ、処女作は散々でしたけれどね……。
アリババに成功作を見せつけてやりましたから、もう終わった話ですわ。
それにしてもアリババは器用。白龍だってお料理は上手いし……何でこういうところは白龍に似なかったのかしら。私。
ああ。煉白龍は煌帝国の第四皇子。私とも血は繋がってますのよ。
私はお料理は苦手なんだけど……。
いいもん。私、お料理好きなお婿さん探すから。白龍に負けないような。
――本当にそんな方と結ばれるかは謎ですけれどね。
それにしても白龍ちゃん。あれ、絶対モルジアナに惚れてるわね。
アリババとモルジアナを巡って対決?! わくわくしますわね! 私好みの展開よ! どちらも応援したいけど……。
うう、モルジアナ……あの娘ばかりが何故モテるんですの?
可愛いところは認めますけどね。私の方が絶対可愛いですわ!
でも、一人の女を巡って争いをし合うというのは、私にとっては最高のシチュエーションですわ。どちらもいい男でよりどりみどりですわね。――あら、私ったらはしたないことを。ほほほ。
白龍は泣き虫なところを知っているし、今まで何とも思わなかったけど、今度の冒険で少し強くなったみたい。
がんばってね。白龍ちゃん。
さてと――後は、何書こうかしら。
マギのこと? うーん。そうねぇ。ジュダルちゃんがそのマギって存在みたいだけれどねぇ……マギについてはあまり興味ありませんの、私。
ジュダルちゃんがマギって言われても、私にしてみればジュダルちゃんはジュダルちゃんですしねぇ……。
そうそう。あのむかつくガキ、アラジンもマギって言ってたわね。
化粧が濃いって失礼ね! そりゃ、ジュダルちゃんにも言われたけど、アラジンは顔が可愛いだけにむかつき度も大幅にアップしますのよ!
けれど――アリババの友達というんなら、歩み寄って差し上げてもよくってよ。いつかはね。
それから――そうだわ! またあの方と手合わせをしてみたい!
あの最高に強いシンドバッド様と!
あの方の魔装は素晴らしいわ! 私も思わず本気になりましたもの!
恋した殿方と手合わせなんて、最高にぞくぞくしませんこと? 私はそう思いますわ。やはり煉家の血は熱いのよ!
――どっちが勝ったかって?
野暮なことを訊くものじゃないって、母親から習いませんでしたこと? もちろん、最終的にはシンドバッド様が勝ちましたわ。というか、私ははっきり言ってシンドバッド様の足元にも及びませんもの。
やはり七海の覇王と呼ばれる方は違いますわね。
今までどんな冒険をしていらしたのかしら。あの方の冒険譚、気になりますわ。尤も、全面的に誇張が入っていると聞いたことがありますけれど。
手に入れて読んでみたいですわね。本のタイトルは確か――シンドバッドの冒険、だったかしら。
ジュダルちゃんは読んだことがあるらしくって、その話をしたら馬鹿笑いずっとしてましたわね。どんな話なのかしら。楽しみですわ。
シンドバッド様は若い頃から勇敢だったのでしょうね。第一巻は名作だと聞いております。第一巻だけは名作、というご意見もあるようですが。
私も……立場は違えど支配者の血筋に生まれた者。支配者はまず国民のことを考えなければ。そうでしょ?
私なんか、遊女の母から生まれた者だし、昔は王宮の者に疎まれていましたわ。だけど――
紅炎お兄様とジュダルちゃんが私を認めてくれた。だから、私はジュダルちゃんになら何言われても平気なの。仲間意識があるからかしら。
尤も、本当はジュダルちゃんが何を考えているかわからないにしても――ね。
ああ。今宵の月は綺麗です。シンドバッド様は何を考えていらっしゃるのでしょう……。
私ですか? 私は勿論――世界の平和と……これ以上は秘密です。
後書き
『マギ』の紅玉たんのシンドリア思い出です。紅玉たん大好き!
なかなかエンジョイなさったようで。
紅玉たんはシンドバッドが大好き! でも、シンドバッドはなかなか一筋縄ではいかないような男みたいで……。
あー、マギの続き読みたいなー。
2013.12.15
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